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5.バグ(2)

「おお。遠くからよく来たな。久しぶりだな。コウタロウ。」


とミスズが彼を出迎えた。


「僕の『次』が現れたと聞いたら、来ない訳にはいかないでしょう?僕が最後かもしれないと思っていたのに。彼が新入りですか?なんか嬉しいな。よろしく。」


コウタロウは、図書館で見つけた雑誌の記事に書かれた「六十年前の成り代わり」だった。「亡き骸」が生まれた日を基準にすると、現在八十六歳だという。彼もやはり不老不死であり、見た目は俺と同年代だ。


「あの記事、僕がこの村で迫害された、とか書いてあったでしょう?そんなことは全くないんだけどね。成り代わってしばらくは生活に困ってここに居たけど、仕事を見つけて出ていっただけで。」


コウタロウか渋い顔をした。


「あれを書いた記者には私も会ったよ。成り代わりに同情的ないいヤツだった。『家』のことが世間には知られないよう、慮ってくれたのではないかな。カズヤスはあれのおかげで、ここに来ることができたんだよな?」


そう言ったミスズに、俺は頷いた。


「しかし、私のアパートに来たときにはえらく慌てていたな?あんな遅くに、息を切らして。何か切羽詰まっていたのか?」


俺は、自分が成り代わってからの出来事を、妻と離別したことも含めて皆に話した。それを聞いて、皆は一様に神妙な顔になった。


「それは、、、辛いな。」


「私耐えられないかも。それ。」


「僕たちにも可能性はあったんだよね。同じような状況で成り代わって、家族に殺された仲間の話も記録に残ってる。」


どうやら、ここに居る仲間たちが成り代わった場面は、俺ほどの修羅場ではなかったようだ。ミスズが俺の顔を覗き込んだ。


「カズヤス。お前、大丈夫か?」


「え?ああ、大丈夫、大丈夫!俺は『彼女』が欲しくて『神の悪戯』を承諾した位で、いきなり妻が居てラッキーとか、そんな感じだったから。結局別れちゃったけど。全然大丈夫。」


話題は「コウタロウ」の家族のことに切り替わった。彼には「ミサコ」という妻がおり、子供や孫まで居るそうだ。ミサコは普通の人間で、コウタロウの素性を知って尚、一緒になったらしい。


「妻はもう七十五歳で、どうやっても夫婦には見えないから『甥っ子』という設定で一緒に暮らしてます。息子も普通に歳を取っているし、傍から見たらおかしな家族でしょうね。妻には申し訳ないと思うけど、後悔はしないと言ってくれて。」


それを聞いたサツキが、


「不老不死は遺伝しなかったんだ。」


と言うとコウタロウが答えた。


「ええ、僕も妻もどうなることかと、興味半分心配半分で育てたけど、結局普通の中年オジサンに育って。孫はまだはっきり判断できない年頃だけど、恐らく不老不死ではないんじゃないかなぁ。」


「そうか。じゃぁ、子供を作っても大丈夫なのかな?」


とムネマサの方を見たサツキに、


「『先立たれるから嫌。犬や猫じゃあるまいし。』と言ってなかったか?」


とムネマサ。


「言った。でも、コウタロウの話を聞いていたら、ちょっと羨ましいなって。私たちなら子沢山の世界記録を狙えるよ?」


ムネマサがお茶を吹き出しむせ返った。


「そういうのは帰ってからやってくれんか。惚気おって。」


そう言ったミスズが、コウタロウに問いかける。


「しかし、奥さんも長くてあと二~三十年だろ?淋しくはないか?」


「そりゃ淋しいです。別れの時を想像したら辛くて仕方ない。妻が死んだら、息子たちとも離れて暮らそうと思ってますし。でもまぁ、今でも『好き』なので。妻を一人残してしまう心配がないし、墓守も僕がやれる。」


「愛だのう。」


「愛だ。」


「愛かぁ。」


ミスズ、ムネマサ、サツキときた流れに乗せられて、思わず


「愛ですよ。」


と口に出した俺に視線が集まる。


「こ奴らの愛の話は重すぎる!」


とミスズがテーブルを叩くと、皆で笑いあった。


その晩、俺たちは「家」に泊ることになった。離れまで含めると、一体部屋が幾つあるのやら。管理をしているヒロユキの苦労がしのばれた。俺は布団にもぐり込むと、この世に生まれて初めて、心穏やかな眠りについた。


~ ~ ~


翌朝。


目を覚ますと、コウタロウは既に帰路についた後だった。彼は、ここから更に北にある地方の、中心都市に住んでいると言っていた。


ヒロユキが準備した朝食を五人で頂く。ヒロユキが話し始めた。


「カズヤスさん。これからの生活についてですが、仕事や住む所はありますか?ないようなら、このままここに居て頂いて問題ありませんよ。」


「仕事には就いてます。休職していますが、復帰できないか掛け合ってみるつもりです。住む所は、職場のそばで借りようかと。それまではホテル暮らしで凌ぎます。元の俺にはそれなりの貯えがあったので。」


「そうですか。では、身分は問題なく引き継げているということですね。ただ、そのうちに『歳を取らないこと』による矛盾が出てきます。十五年か、長くても二十年で、今の身分を捨てなければなりません。」


たしかにそうだ。不老不死ヤバい。ヒロユキが話を続ける。


「成り代わりの皆さんは、『潮時』が来ると失踪届けを出します。最後には時効で死亡扱いになるので、その後を気にする必要はありません。同時に、『生まれた時に届けがされなかった者』として、新しい身分を申請します。別の街で別の仕事について、新たなスタートを切ります。」


これもある意味では「生まれ変わり」だなと思った。ミスズが言った。


「昔はこんな面倒はなかったのだが、ここ百年はずっとそんな感じだ。切り替える時に、どうしても『隙間』ができる。その間は、この家に厄介になることになる。ヒロユキには感謝せねばならん。」


それを聞いたヒロユキは嬉しそうだった。


朝食を食べ終えると、ミスズが俺に話しかけてきた。


「私たちはもう少しヒロユキと話をしていく。久しぶりに集まったのでな。カズヤスはどうする?」


「俺は帰ろうかな。今日中に職場に顔出したいし。」


「そうか。まずは生活基盤を整えねばな。では、玄関まで送ろう。」


別れの挨拶をしようとする俺の耳元に口を近づけて、ミスズが小声で言った。


「カズヤス。お前、私と『お付き合い』してみる気はないか?」


突然の申し出に驚いた俺は、彼女の顔を見つめたまま固まった。


「年上は嫌いか?」


と言って「ニッ」と笑ったミスズの微笑みは、とても可愛く色気を含む。確かに彼女は「好み」の女の子だ。やぶさかでない。だが、そこにユウの笑顔を重ね視てしまった俺は、自分の体から熱が抜けていくのを感じた。


「嫌いではないけど。今はまだそんな気にならなくて。ごめん。」


ミスズはあからさまに「ガッカリした」という顔で言った。


「そうだよな。まだ別れたばかりだったな。悪かった。忘れてくれ。」


「いや、謝らなくても。また連絡してもいいかな?話したいこともまだあるから。」


「もちろんだ。いつでも待ってる。私は気が長い。必ず連絡しろよ?」


そのやりとりを見ていたサツキがミスズに言う。


「またフラれたね。」


ミスズはサツキを睨みつけて、


「やかましい。あーあ。厠!厠!今朝は凍れるのう。」


といってトイレに向かった。


「歳がバレる!その喋り方も、いい加減直しなよー。」


ツッコミを入れたサツキと、それを見て笑うムネマサ、ヒロユキに感謝を伝え、俺は元居た街へと向かった。


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