5.バグ(1)
「こんばんは。お久しぶりです。」
「こんばんは。」
「急に頼んで悪かったな、ヒロユキ。カズヤスとやらは来ておるか?」
「いえいえ。こんな時の為の場所です。お二人もお元気そうでなにより。カズヤスさんはお休みになってます。声をかけてきましょう。」
玄関の方から話し声が聞こえて、俺は目を覚ました。すっかり熟睡してしまった。起き上がって目を擦ると、襖が開いて「中年男」が顔を出した。
「カズヤスさん。皆さんがお着きです。」
男の名は「ヒロユキ」である。昨日、俺にミスズのアパートの場所を教えてくれたのも彼だ。今日、再びここを訪ねた俺を、快く迎え入れてくれた。厚遇されて恐縮する俺に、彼はこう言った。
「困ることがあったら、いつでも遠慮せずに来てください。いくらでも居て頂いて構いません。そのための家ですから。」
彼によると、この家は成り代わりの「隠れ家」なのだそうだ。何世代にも亘って引き継がれてきたらしい。建物は何度か建て替えられているが、変わらずこの集落に存在し続けているという。ちなみに、彼は普通の人間だった。
案内されて広間に移動すると、ミスズと並んで男女二人が座っていた。
「おお、カズヤス。昨日は悪かったな。紹介しよう。『サツキ』と『ムネマサ』だ。この二人は夫婦だ。我々の『仲間』だ。」
ちょっと待って。この二人も俺やミスズと同年代だ。ウジャウジャ出て来るじゃないか。
「では、ごゆっくり。」
そう言ってヒロユキが部屋を出ていく。「あれ?」という顔をしていたであろう俺に、ミスズが言った。
「彼は、私たちが成り代わりであることを知っているが、それ以上の『世迷言』については何も知らないのだ。」
サツキは、穏やかで神秘的な雰囲気の女の子だ。ミスズとは違う方向で「好み」なのだが、人妻だと聞いては自重するしかない。夫であるムネマサは、体格が良く背高で強面の男だ。尚の事、自重せねばなるまい。
お互いの自己紹介が終わると、サツキが言った。
「どこから話そうか?悩むね。」
「確かにな。」
とムネマサが相槌をうつ。
「そうだな。まずは、カズヤスからの質問を受け付けよう。色々困惑しとるだろ?」
ミスズはそう言って、俺にパスをよこした。
「では。最初に『仲間』は何人くらい居るのか?まず会うことは無いと、神サマに聞いてたのに、ここには既に四人も集まってる。まだ他にも居るんですかね?」
彼女たちの説明によれば、この国には確認されただけでも十五人の仲間が居る。間隔は一定ではないが、三~四十年に一度の頻度で成り代わりが現れる。多くが、遅かれ早かれこの家に辿り着き、庇護を受けているそうだ。
単純に人口比で計算すると、他の国を含めた星全体ではその六十倍。想像をはるか超える数字だ。しかし、四十年に一人現れるとして、同時に生存できるのはせいぜい三人。今は全部で十五人?しかも、目の前には「同年代」が三人も居る。辻褄が合わない。
「納得できんという顔だな?」
「そうね。」
「だろうな。」
三人はそう言って笑い出した。何だか随分と楽しそうだ。
「では発表しよう!皆、包み隠さず年齢を述べよ。」
「三百歳です。」
「二百五十歳。」
「六百歳だ。大体な。」
サツキ、ムネマサ、ミスズの順に明かされた年齢は、少なくとも桁が一つ間違っていた。しかし、世迷言の世界を経てここに居る俺の脳は、素直にその数字を受け入れてしまう。全部で十五人居る理由としても、矛盾が無い。
「マジか。まさか成り代わりは全員!?」
ムネマサがそれに答えた。
「そう。俺たちは歳を取らない。神移しに遭った時点の年齢のまま、ずっと生き続けている。『不老不死』というやつだ。」
サツキが補足する。
「怪我や病気になると普通に死ぬので、正確には『不死』ではありませんけど。戦乱や災害で死んだ仲間も多くいますが、何事もなければこの通り。死にません。」
ミスズが後に続く。
「神の悪戯を承諾したものは、いまのところ例外なく不老不死だ。カズヤスも恐らくそうだろう。仲間以外には、ほとんど知られていないがな。色々と都合が悪い。」
驚いた。永遠の命をオマケに付けてくれたとは。しかし、神サマは魂の成長と成仏を促進する目的で「悪戯」をしていたはずだ。死なないのでは成仏どころではない。それに、このままではいずれ世界が成り代わりだらけになる。
「仲間が沢山いる理由はわかりました。自分ももそうだとは、まだ信じられないけど。でも、それってなんかヤバい気がする。」
「私もそう思う。どう考えても辻褄が合わん。私たちは、記憶を封印する機能を無効にするとき、神サマがヘマをしているのではないかと睨んでおる。」
「ゲームだったら『バグ』ね。封印を解くアイテムを取ったら、ヒットポイントが無限になっちゃった、みたいな。」
「いずれにしても、これは『意図的ではない』というのが俺たちの結論だ。こうして新たにカズヤスが現れたとなると、神サマはまだ気付いてないのだろう。」
ミスズが、
「これだけ生きると正確な歳もわからなくなる。あのボンクラどものせいだ!」
というと三人は再び笑い出した。場の雰囲気が話の内容にそぐわない。自分の置かれている状況が少しずつ呑み込めてきた俺は、彼女を作るどころの話ではなくなってきたな、と心の中で頭を抱えた。
「『コウタロウ』さんがお着きになりました。」
襖をノックしたヒロユキが、もう一人の男性を連れてきた。




