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4.私も・・・

「神移し」が「神の悪戯」の結果であることと、自分が「成り代わり」であることは確定した。先ほどのミスズとの会話では、新たな疑問がいくつか増えたが、それは明日になればわかることだ。それよりも。


俺は、持っていた身分証で「自宅」の電話番号を確認し、電話を掛けた。


「はい。」


受話器の向こうからユウの声がした。思い余っての行動には出ていなかったようだ。


「よかった。カズヤスです。話を聞いて頂けませんか?」


無音がしばらく続く。


「わかりました。家の場所、判りますか?」


身分証には住所も記載されていた。


「はい。判ります。」


「では、『帰ってきて』ください。起きて待っていますから。」


~ ~ ~


日付が変わる頃、俺は始めて見る自分の家の前に着いた。呼び鈴を鳴らすと、寝巻姿のユウが玄関を開けて外に出てきた。彼女は何も言わなかった。俺は切り出した。


「神移しのことを良く知らなかったので、他の成り代わりに会いに行って確認してきました。俺は『成り代わり』でした。間違いありません。」


「そうでしたか。やっぱり。今も居るんですね。まさか自分の夫が神移しに遭うなんて。想像もしなかった。」


「ユウさん。入院中は面倒を見てくれて、ありがとうございました。もちろん俺の為ではないのでしょうが。それでも、感謝しています。」


「あなたも私を傷つけまいと、ものすごく気を使っていたでしょ?我が夫ながら申し訳なくて、困ってしまいました。ごめんなさい。」


「言い訳にしかなりませんが、決してカズヤスさんを狙い撃ちした訳ではありません。気が付いたら、あそこにいました。」


「そんなこと言われても、許せませんよ。絶対に許せない。でも、それが神の采配なら仕方ないのかな。地獄に落ちろは、言い過ぎでした。」


「俺、ユウさんと夫婦だった時間が幸せでした。このまま噓をつき続けて、本当の夫婦になれればと。でも俺には無理でした。」


「最期まで騙してくれればよかった。想い出は作り直せばいいと、思い始めていたのに。でも、もうダメです。あなたの顔を見る度に、死んだ夫を思い出してしまう。」


彼女の声は小さく震えて、いまにも消えてしまいそうだった。俺は、図書館に行った時に役所で貰った離婚届を取り出した。


「これ。俺の分は記入しました。身分証を見て書いたので、間違っていないと思います。残りを書いて頂けますか?提出しておきます。」


「明日、私が出しておきます。街の名前も忘れてしまうような人に、任せられません。」


俺は苦笑いをして、別れを告げることにした。


「話を聞いてくれて、ありがとうございました。騙すようなことをして、本当に申し訳なかった。体に気を付けて。」


そう言って後ろを向いた俺の背中に、彼女が寄りかかった。


「明日まで、私たちは夫婦です。今夜は二人で過ごしませんか?」


「俺の顔を見たら、また辛い思いをしてしまいます。」


「構いません。今日で最後なら、我慢できる。」


彼女に促されるまま、俺は初めての帰宅をした。


「おじゃまします。」


「『ただいま』でしょう?あなたの家なんだから。」


彼女が口を尖らせて咎める。


「じゃぁ、ただいま。」


「うん、おかえり。本当に、、、帰ってきて欲しかったよ!私は!」


そう言って泣き崩れるユウを、俺は支えながら抱きしめた。彼女も居たことがない俺が、こんなときどうすれば良いのか知るはずもない。だが体は自然に動いた。本物のカズヤスが、俺を導いたのかもしれない。


そのまま、魂が尽きるまで互いを求めあった。


~ ~ ~


気が付くと朝になっていた。


ユウの姿はなかった。カズヤス名義の銀行通帳やカード類が、テーブルの上に整理して置いてある。それらの暗証番号と共に、「鍵は鉢植えの下に隠すように」と書かれたメモ用紙が添えられていた。


最後の行にはこう記されていた。


「ありがとう。次は地獄で会いましょう。」


俺たちは「まだ夫婦だ」と、自分で言っていたのに。そうでなくとも、たった一度の不貞くらいで地獄行きになる訳がない。彼女は俺とは違う。そう考えた俺は、だがしかし、その下に「了解」と書き加えていた。


メモ用紙を置いたまま家を出た。噛み締めるように鍵をかける。鉢植えには綺麗な花が咲いていた。「前世で最期に見た花だ。」と思いながら、鍵を隠した。


「さよなら。」


と声に出して妻に別れを告げると、俺は「あの家」に向かうために歩き出した。


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