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2.再開(2)

退院の日。


俺とユウは、二人で病室の荷物を整理していた。ようやく、他愛のない会話をすることに慣れてきた。彼女も、心なしか笑顔を見せる回数が増えたように思える。着替えを終えた俺は、鏡を見て自分の顔を観察した。


「こういう顔だったか。」


こうしてじっくり確認するのは初めてだ。「女の子の神サマ」は同世代の魂にすると言っていたけど、このカズヤスは元の俺より幾分年上のようだ。立派な「大人の男」に見える。中身はまるで変わっていないのにな。


「どした?行こうよ。」


と言って出発を促すユウに、


「うん。」


と答えて後を追った。


俺とユウは駅に向かった。路面電車とバスを掛け合わせたような交通機関の駅だ。時刻表を見ると、次の「路面バス」が来るのはまだ少し先だった。ホームのベンチに並んで座ると、ユウが話しかけてきた。


「無事に退院できて良かったよ。家に帰ったら何か思い出せると良いんだけど。」


今日も彼女は可愛い。このまま夫婦で居られたら最高だと思う。


「そもそも俺、なんで怪我してたんだっけ?」


「ありゃ。それも忘れたか。仕事に行く途中、車にはねられたんだよ。警察はあっちの信号無視だとか言ってた。酷いよねぇ。」


コイツも災難だったんだな。今はどこかで生まれ変わっているか、あるいは。


「仕事。何してたんだろう?俺。」


「ええ~。しばらく仕事のことなんて、気にしなくていいよ。会社から手当てが出るし、相手方から保険金も入るらしいよ。一度も顔も出さないけど、非は認めてくれてるそうだから。」


それを聞いた俺は安心していた。当面、ユウが生活に困ることは無いのだろう。


「事故った日、ユウは俺と何か話した?」


「ん~?いつも通り。『いってらっしゃい』って。」


「俺は、最期に何て言ってったかな?」


「それもいつも通り。『今日も可愛いね』とか。いや、改めて聞かれると恥ずかしいんだけど!」


彼女の顔が赤くなった。コイツら、幸せだったんだな。やはり、俺なんかにコイツの代わりは務まらないよ。


「ユウさん。ごめん!」


「え?何?ユウで良いって何度も」


「俺は、あなたの知っているカズヤスじゃない。彼は、あの時死んだんです。俺は彼の亡骸を借りて今ここに居る。もうこれ以上、騙すことはできない。」


彼女は唖然として俺を見ている。


「いくら時間がたっても、家に帰っても、俺はあなたのことも俺のことも、思い出すことはありません。元から何も知らない他人だからです。」


「そんなこと!何を言って。まだ諦める必要は、、、あ。」


そう言うと、彼女は何かに憑りつかれたような顔をして小さく呟いた。


「本当にあるんだ。『神移し』。あなた『成り代わり』なのね?」


なんて言った?カミウツシ?ナリカワリ?この世界の方言か?その時、路面バスが近づく音がした。ブレーキ音を発しながら速度を落とす。


「ユウさん!それって」


「気安く呼ばないで。許せない。あなたたちなんて、地獄に落ちればいい!」


そう言い放った彼女は、呪われたモノを見るかのような目で俺を一瞥し、路面バスに乗り込んだ。走り出すバスを呆然と見送る俺の目に、悲しみに歪む彼女の顔が映った。


彼女の言うとおりだ。俺なんて、地獄に落ちたほうがいい。


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