表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/21

15.再再開

「痛たたた!」


俺は痛みを感じて目を覚ました。後頭部がズキズキする。俺の顔を覗き込んだ母が、声をかけてきた。


「起きた?良かった。和康、大丈夫?まだ寝ていた方がいいよ。」


「横になっているほうが痛むかも。少し起きる。なんでこんなことになってんの?」


確か、俺は買物に出かけたはずだ。しかし、今は病院のベッドの上。しかも頭に覚えのない怪我をしている。母が説明した。


「あんたの頭に、植木鉢が落ちて来たんだって。救急車で運ばれたんだよ。大事にならなくて良かった。全く、ビックリさせて。」


「俺のせいじゃないよ、ソレ。不幸な事故じゃん。くそ。痛いなぁ。花壇に花が咲いてたんだよ。かーちゃんの好きな、なんだっけ?オレンジ色の。」


「マリーゴールド?あれ、一階のおばあちゃんが良く植えてるよね。」


そこに看護師がやってきた。


「あ!矢崎さん、起きたんですね。良かった。精密検査の結果、異常はないそうです。念の為、明日までは入院になります。後ほど医師から説明がありますので。お母様ですかね?こちらの書類に、記入をお願いできますか?」


母は書類を受け取ると、俺たちが暮らす団地の住所に続けて、二人の名前を記入した。


「ええ~。フリガナ欄小さいなぁ。ヤザキ・カズヤス、ヤザキ・ユウ、と。よし!」


書類を看護師に渡した母は「やれやれ」と言って椅子に腰を下ろした。


「入院したら金かかるね。悪い。」


「保険が利くから困りはしないけど、退院したら自分の面倒くらいは見てよ。こっちも自分だけで手一杯だからね。」


俺はこれまでも、母と二人だけでずっとやってきた。裕福ではないが、不幸だと思ったことは一度もない。母も同じだろうと感じていた。だがこんな時だけは、やはり父親がいればよかったのに、と思ってしまう。


「なぁ。俺の名前、なんで和康なの?父親と同じ名前を付けるなんて、おかしなことをするもんだなと。恨んでるって言ってたじゃん。」


「今更?改まって何なの?そうだね。あの人のことは今でも恨んでるよ。地獄に落ちればいいと思ってる。でも嫌いにはなれないんだよ。若造には解らんかなぁ。次は地獄で会おうぜって、約束してるんだよ。」


「なんだそれ。さっぱり解らん。」


彼女すら居たことのない俺には、想像もつかない話だと思った。


「正直悩んだけど、どうしても他に思い付かなくてね。同じ名前で届け出ても、役所は何も言わなかったよ?あんたが生まれたのは、別れた後だったから。」


そう付け加えた母は、話題を変えた。


「そうだ。前に同じ団地に居た仁科さん、またこっちに戻って来るんだって。今度は駅前のマンションらしいけど。あなた、中学のときあの家の子と仲良かったでしょ。美鈴ちゃん、覚えてない?」


懐かしい響きの名前だと思った。聞いたことがあるような、ないような。


「覚えてないな。逢えば思い出すかも。」


「ふ~ん?確かに可愛らしい子だったよ。いよいよ孫の顔が拝めるかな。」


「そんな訳あるか。覚えてないのに。」


母は椅子に座ったまま雑誌を読み始めた。こうして病院のベッドで時間を持て余していると、これまで何を焦って生きてきたのかと、不思議な気がしてくる。頭を打って変になったんだろうか。妙に気持ちが落ち着いていた。


「退院したら、挨拶行こうか。仁科さんち。折角ご近所さんに戻るんだし。」


と俺は提案した。


「珍しいことを言い出すね。いいよ。ちゃんと下心は隠していくんだよ?」


「そういうんじゃないって。やっぱ止めるか。」


笑っている母の顔は、少し老いたように見えた。生きている限り、出会いと別れは必ず訪れる。でも、時には運よく再会することもある。何があっても、俺たちは普段通りに歩んでいくしかないのかもしれない。


人生を終える、その時まで。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ