1.神々との会遇(2)
「チェンジ待ち」の間、カズヤスは胡坐をかいて腕を組み、母親の顔を思い浮かべていた。彼は父親の顔を知らない境遇だった。苦労した母親に楽をさせてやりたいと考えたが、思う様にはいかず団地暮らしが続いた。まさか、そのまま先立つことになろうとは。
「かーちゃん。ほんとにすまねぇ。」
そしてゴロンと仰向けに倒れると、
「ああ。彼女欲しかったな!くそっ。」
と声に出した。すると、頭の上から声が聞こえた。
「こいつはとんだ『俗物』のようだ。」
カズヤスの顔を逆さまに覗き込んだその神サマは、肌が緑色で背が異様に高い。カズヤスは「今度はそっちかよ。」と思った。世界中で人気を誇った漫画に出てくる、あの神サマに瓜二つだった。
「あんたが次の神サマ?願いを一つだけ叶えたり、、、してくれないよね?」
カズヤスは起き上がり、緑色の神サマの方を向いて座り直した。
「そう。私は神サマだ。話は聞いている。一個の魂が別の神を要求するなどと、若気の至りと言う奴だな。お前、今回の現世で『八百万の神々』という言葉を聞いたことがあるだろう?」
「日本人なら誰でも知ってる。そこらじゅうに神サマが居るってやつだ。」
「その言葉はな、世界と神が無限に存在する、この宇宙の真理をかなり的確に表現しているんだ。お前が現世を過ごしたあの場所には、何故か時代を問わず『勘が良い魂』が集まっていく。それを面白がって、原因を探っている神がいるほどだ。」
「へぇ。神サマにも一目置かれてるんだ。日本て。」
「もっとも、あそこに行った全ての魂がそうだという訳ではないがな。お前は勘が悪い方の代表格のようだ。」
憮然としたカズヤスに向けて、神サマは話を続けた。
「記憶を持ったまま、女の子がいる世界に生まれ変わりたい、ということだったな。普通に生まれ変わっても、その可能性はほとんどない。お前の居た世界と似たような世界は無限にあるが、そうではない世界もまた無限にある。記憶も封印される。」
「その話は前の神サマに聞いたよ。そこをなんとか、なりませんかね?」
「神にも様々居てな。日本とやらを熱心に調べる神もいれば、魂の仕組みを研究する神もいる。その中に、ある画期的な発見をした神が居た。魂が持つ『記憶を封印する機能』を無効にする方法だ。試しに無効にしたまま生まれ変わらせてみると、記憶を来世に持ち越せることが判った。」
「おお!」
カズヤスは目を輝かせた。
「しかし、これには問題があってな。大人の記憶を持ったまま赤子として生まれたり、ある次元の記憶を別の次元に持ち込んだりすると、精神が崩壊してしまうのだ。そうでなくとも、記憶を持ったまま成り立ちの異なる世界での生活に馴染むことは難しい。」
これはカズヤスにも理解できた。自分が「自分のまま」で、女の子が居ない世界に放り込まれたら、間違いなく精神は崩壊する。
「実験の過程では多くの魂の精神が崩壊してしまい、そのままあの世行きとなった。生まれ変わる先を選択することができれば良いのだが、無限にある世界の無限にある時間のうちの何処かひとつを正確に特定することは、神でも不可能に近い。」
カズヤスは諦めの心境となっていた。
「わかったよ。要するに、無理なんだな。」
それを聞いた神サマがニヤリと笑う。その顔は、神というより悪魔だった。
「そこで、私は別の方法を編み出した。死んだばかりの魂の抜け殻に、別の魂を送り込むのだ。通常、生まれ変わる魂は記憶を封印されてしまうから、仮に送り込んだところで『続き』を担うことができず意味がない。だが、記憶を持ち越せるならそれが可能だ。」
「つまり、死んだ誰かと入れ替わって甦る、ということ?」
「その通り。魂には色があってな。似たような世界から来た魂は、似たような色をしている。お前と同じ色をした魂が来たら、その抜け殻に向けてお前を送り込む。記憶の封印を無効にしておけば、その者の続きを生きることができるはずだ。似たような世界だから、女の子も居るだろう。」
その話を聞いて、カズヤスは急に怖くなった。
「そんな罰当たりな。他人の人生を乗っ取るなんて。」
「なんだ?願いを叶えてやろうというのに、面白いやつだな。どうせその者の魂は、元の抜け殻には送り込むことができない。同じ魂のままで生き返ることは、真理に反するからだ。要するに、お前の来世が最初から始まるか、途中から『再開』するかの違いでしかない。」
カズヤスは息をのんだ。
「なんで俺を特別扱いしてくれるんだ?勘の悪い俗物だぜ?」
「既に相当な数の魂を、同じ方法で送り込んだ。神はこれを『悪戯』と呼んでいる。目的は魂の成長を促進することなのだよ。封印された記憶は、直接活用できず効率が悪い。お前のような俗物があの世を選ぶまでに、現世を繰り返す回数が減ってくれれば、神の仕事は楽になる。」
「だとすると、生まれ変わった先で悪戯のことを知っている『仲間』に出くわすこともあるのかな?」
「可能性はゼロではないが、場所と時代が重ならなければ会うことはできない。期待はしないことだ。それに、ここでの『思い出』話を持ち出したところで、世迷言だと変人扱いされるのが関の山だ。記憶を失ったことにでもしておくのが無難だろう。どうだ?」
カズヤスは覚悟を決めて、提案を受けることにした。なんとしても、今の自分のままで彼女を作る、と決意を新たにした。
「お願いします。神サマ!感謝します。」
カズヤスは手を二回叩くと、深々と一礼をした。
「なんだそれは?『困った時の神頼み』というやつか?本当に面白いな。」
~ ~ ~
「実務」は別の神サマが担当するという。しばらく待つと、今度は女の子の姿をした神サマが現れた。
「生まれ変わりをお待ちの方ですか?わたくし、神サマです。」
カズヤスはその神サマを見て一目惚れした。
「神サマ!女神サマも居るんですね!可愛いなぁ。」
「聞いていた通りの俗物さんなのですね。この姿は、あなたの心の中にある神サマ像を再現したものなのですよ?」
どこで見た神サマだったか?カズヤスは思い出そうとしたが、思い出せなかった。
「あの、記憶の封印を無効にするのはここでやるの?生まれ変わりというのも?」
「はい。手順が確立されているので簡単です。ん~。はい!できました。あとは、できるだけ色が合う魂が良いので、見つかるまで待つことになります。天寿を全うした抜け殻では『続き』がありませんから、あなたと同年代が理想です。こればかりはタイミングですね。」
この神サマとならいくら待ってもいいな、とカズヤスは思った。神サマは話をつづけた。
「記憶を封印する機能ですが、再度ここにいらしたときに元通り有効にしなければなりません。そうでないと、次に生まれ変わった後に酷いことになります。お迎えがどの神であっても、そう言えば伝わりますから。どうかお忘れなく。」
カズヤスは、緑色の神サマから聞いた「そのままあの世行き」の話を思い出して背筋が寒くなった。
「怖い怖い!忘れないようにするよ。では待ちましょう。神サマも、こちらに座りませんか?少しお話でも」
その言葉を最後まで言い切る前に、神サマが動き出した。
「あっ、居ました!ジャストフィットです。では、いってらっしゃい!」
大きく伸ばした手を振りながら、神サマがクルクルと回転すると、カズヤスは光よりも明るい何かに包み込まれる。その直後、彼は落ちていく感覚を覚えて意識が遠のいた。




