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11.Side Story ~サクラの未来~

「ねぇ!早くしないと時間遅れるよ?」


母はイライラを隠さず言った。


「わかってるって!すぐ行くから。」


私はそう答えると、部屋を飛び出した。今日は私「サクラ」の三十一歳の誕生日。この歳で両親と誕生日の食事会なんて、ちょっとどうかと思う。でも、私には「事情」がある。その事情を鑑みて、両親は何かにつけてお友達感覚でイベントを企画するのだ。


母「サツキ」と父「ムネマサ」は、「成り代わり」と呼ばれる特別な人間だ。彼らの特徴は「永遠の命」を持つこと。二人とも二十五歳位の見た目のまま、ずっと変わらない。私と並べても、親子には見えないだろう。見た目もお友達と言うわけだ。


「お。来たな。」


駅前に到着すると仕事帰りの父が待っていた。


「お父さん、おかえりー。」


と私が言うと、父は慌てて制止した。


「お父さんと呼ぶのは止めろと言ったろ?どう考えても変な関係に見える。いい加減、名前で呼ぶのに慣れてくれよ?」


「ゴメン!つい癖がね。おかえり『ムネマサ』さん。」


「サクラ。私のこともちゃんと名前で呼んでよ?この見た目であなたにお母さんと呼ばれたら、何歳の時の子だろう?って訝しがられるよ。」


「わかったよ。『サツキ』さん。」


私たちは父が予約してくれた個室の居酒屋に入った。同年代の若い男女の三名様なんて、三角関係と思われないだろうか?


乾杯の後、父が話し始めた。


「サクラ、相変わらず友達は作ってないのか?」


「作ってないよー。何度も同じこと言わないで。」


母もいつものように同じことを言った。


「でも、少しは誰かとお付き合いしてもいいんじゃない?淋しいだろうに。」


「だって。もし私も『永遠の命』だったら、十五年で縁を切らなきゃいけないじゃん。だったら元からいないほうがいいよ。」


何度も繰り返してきたこの議論。両親が私を心配してくれる気持ちは有難い。でも、私はもう少し先を見据えているのだ。私は両親に聞いた。


「ねぇ。そろそろ『確定』じゃない?本当にここ数年、全く変わらないんだよ、私の顔と体。同年代の同僚とか見てると、それなりに歳を取った感じが出てるのに。」


「私もそう思う。どっちになるのかと思ってたけど、もう疑いようがない気がするわ。」


「俺も同意見だ。その前提で動き出すのが良いかもしれん。念の為、最後にミスズ達にも会ってもらおうとは思うがな。家族とは、違う見え方があるかもしれない。」


「ミスズさんに会うの久しぶり!あの人、喋り方が面白くて大好き!」


母が言う。


「ごめんねサクラ。私たちのせいで普通の生活ができなくて。」


こうやって謝られるのもいつも通り。でも、「『永遠の命』の可能性がある生活」が私にとっての普通なのだ。それが「『永遠の命』が確定した生活」に切り替わるだけだから、あまり変わるとは思えない。


「サツキさん。謝るのは止めてと何度も言ってるじゃん。私にとっては、私が普通なんだよ。サツキさんだって、普通に生活してるんじゃないの?そんなに謝る位なら、最初から生まなければいいんだよ!」


「おい、サクラ!サツキはな」


「ムネマサさんは黙って!ねぇ、サツキさん。私が不幸に見える?そんなことないよね?私には、サツキさんは凄く幸せそうに見えるよ。『永遠の命』があっても幸せになれるって、一番身近な人が証明してくれてるんだから。何の不安もないよ。」


私の話を聞いた母は、泣き出してしまった。それを慰める父と、「しまった!泣かせてしまった!」という顔で座っている私。やっぱり、傍から見たら三角関係のイザコザに見える気がする。その後、母は「もう謝らない」と約束してくれた。


私は、父と母から「成り代わり」仲間の話を沢山聞いて育ってきた。


推定六百三十歳という、とびっきりの年寄りであるミスズさん。彼女は度々男にアプローチしてはフラれてきたけど、ついに仲間のカズヤスさんと結ばれたそうだ。歳の差なんと六百歳。この世に不可能はないと思えてくる数字だ。


普通の人であるミサコさんと結婚したコウタロウさん。ミサコさんは既に亡くなってしまったけれど、生涯ラブラブだったそうだ。コウタロウさんは子供や孫に恵まれて、今も幸せに暮らしているという。両親が子供を望んだのは、彼の影響だったそうだ。


そしてウチの両親。母は三百三十歳、父は二百八十歳だ。年齢は、どちらも「大体」とのこと。ミスズさんの話を聞いた後では、大した歳の差ではないと思ってしまう。二百年以上の付き合いだと付け加えられると、それはそれで驚くのだが。


二人がどうして結ばれたのか?母に聞いたことがある。


「ねぇ、お母さん。どうして、お父さんと結婚したの?」


「んー?サクラもそう言うことに興味を持つ年頃かぁ。打算よ。打算。」


「打算?なにそれ。」


「私が成り代わった後、次に成り代わって現れたのがお父さんだったのよ。私は面倒くさい人間関係が苦手だから、彼しかいないと思ったのよね。」


「どういうこと?」


「私と同じ永遠の命をもってるってこと。一度仲良くなったら、あとはずっとそのまま仲良くできるじゃない。楽でしょ?」


「ええー!ロマンのかけらもないよ!それ。」


「だからと言って、愛が無い訳じゃないよ?打算から始まった関係が、気付いたら恋になって、そのうち愛になってた、ということもあるのよ。恥ずかしいから、こんなことお父さんには言わないでよ?」


月並みな表現だけど、愛の形は様々なのだと、勉強させてもらった。これだけ成功事例があるのだから、私だって上手くやれるに違いない。


永遠に続くであろう私の未来も、きっと明るいのだ。


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