9.神の伝言(2)
数日後、ヒロユキから連絡が入った。新入りの「成り代わり」が、仲間に会いたいと言っている。それも「できる限り仲間を集めてほしい」と言っているそうだ。これを聞いた俺とミスズは顔を見合わせる。
「これは何かあるな。」
とミスズが言った。
俺とミスズは「あの家」を訪れた。出迎えたヒロユキはすっかり老人だ。前回俺たちが世話になった時も、動くのが辛そうだった。
「ヒロユキ、ご苦労だな。ルリと交代するという話、聞いたぞ。何時隠居できるんだ?」
「ルリさんと旦那さんは、来週から来てくれるそうです。ようやく肩の荷が下ります。カズヤスさんが初めてここに来た日が、懐かしいですなぁ。」
そう言うと、ヒロユキは皺くちゃの手を震わせて涙を拭った。
「ヒロユキさんには、本当にお世話になりました。あの時助けてもらわなかったら、俺は野垂れ死んでいたかもしれない。」
広間には仲間が集まっていた。知らない顔も含めて、全部で十一人。流石に十五人全員は集められなかったようだ。あるいは、何人かは亡くなっている可能性もあるだろう。我々は、正確には「不死」ではない。
初めて会う仲間の中には、可愛い女の子も何人か混じっていた。夏場なので皆露出度が高い服装だ。俺は鼻の下を延ばして、舐めるように彼女たちの肌を眺めながら歩いた。その時、右足に衝撃が走る。
「あいたっ!」
後ろを歩くミスズが「蹴り」を加えたのだと、すぐに判った。ふり返ると、彼女は無言で俺を睨みつけている。俺は脹脛をさすりながら、女の子の集団から一番離れた席に座った。その隣に憮然とした表情で座るミスズ。反対側のサツキとムネマサが、こちらを見て笑っていた。
こうしてみると成り代わりはみな若く、ほとんどが二十代の見た目をしている。「神の悪戯」を安易に承諾してしまうのは、やはり「若さ」故なのだろうか?ケイゾウだけが中年なのは、何か特別な理由があるのかもしれない。
ヒロユキと入れ替わりに、同年代の男性が現れた。
「皆さん。今日はありがとうございます。僕は『シュウ』といいます。僕も成り代わりです。半年ほど前、この世界に来ました。僕は、神サマからの伝言を預かっています。それを伝えるために集まって頂きました。」
仲間たちがどよめいた。シュウが話をつづけた。
「では読み上げます。
『記憶の封印を無効にすると、例外なく歳を取らなくなる副作用が出ることが判った。ゴメン。悪戯は原則中止した。対策を準備している。それはいずれ実施される。その時までは普段通りに人生を歩んで成長して欲しい。自殺はするな。管轄外になり、記憶を封印する機能を有効にすることができなくなる。』
以上です。口頭で伝えられたものを、生まれ変わった後に書き出したので、正確でない部分もあるかと思いますが、内容はだいたい合っているはずです。」
それを聞いた俺たちは、静かなままだった。
「何百年も生きた奴の『普段通り』ってどんなだよ。」
「ここから更に成長しろって?無理があるなぁ。」
「ここまできて不老不死を取り上げられたら即死だよね。」
口々に文句を言い合うと、諦めの笑いが広がった。確かに進展ではある。しかしこの内容では、我々の抱える問題は何も解決しないのだった。
シュウが言った。
「僕も成り代わりを取り巻く状況は色々と教えてもらいました。ここで会えた仲間は幸運だと思います。神サマが言うには、多くの魂が同じ使命をもって送り込まれたが、圧倒的に数が足らないと。到底すべての仲間に届くものではないと、言っていました。」
俺はシュウに疑問をぶつけた。
「その『対策』というのは、どういうものか聞いてませんか?神サマが何をしようとしているのか気になります。」
「すみません。聞いていません。神サマは、現世で生きる魂に直接何かをすることはできないと言っていました。苦肉の策が『神の伝言』だそうで。」
結局、次の便りが届くか、対策が実施されるまでは、今まで通りやるしかないようだ。次の便りなど、いつ届くかも、届くかどうかも、わからない。対策もしかり。三十五年目にして、ようやく半歩進んだところなのだ。
「災難だね。こんな役回りで成り代わるなんて。」
仲間の誰かがシュウに言った。
「いえいえ。僕は不遜にも、神に不老不死を望んだ『俗物』の極みなので。」
しかしここに居る仲間たちは、誰も彼のことを批判することができないのだ。
大所帯での会合はお開きとなった。
自宅に向かう道を、俺はミスズと並んで歩いていた。
俺は、準備されている「対策」がどの様なものか気になっていた。ここまで事態を把握して、なお「神の伝言」が精々だというなら、他に何ができるというのだろう?「死神を送り込んで殺して回る」なんて、陳腐なものじゃなければ良いが。
「カズヤス。お前、大丈夫か?」
と言ってミスズが俺の顔を覗き込んだ。俺が悩んだり、考えごとをしていると、彼女はすぐに気付いて大丈夫かと聞いてくる。彼女のこの言葉を聞くと、嬉しさと切なさと愛おしさがごちゃまぜになった気持ちになる。
「大丈夫。なんでもない。」
「まだ『対策』のことを気にしているのだろう?私も気にはなるが、考えても仕方ないと思うぞ?今日は疲れたよな。早く帰って、ゆっくりしような。」
そういって彼女は背伸びをすると、俺の頭を撫でた。




