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9.神の伝言(1)

この世界に来てから三十五年が経過した。


俺は三回目の「身分の更新」をなんとか終えたところだ。ミスズも同じタイミングで更新し、揃って新居に移り住んだ。事実婚の状態になってから三十年余り。前世には「銀婚式」なんていう言葉があったが、気付けばそれをあっさり越えていた。


今日は、新居のお披露目(とはいっても十五年で引き払うので借家なのだが)を兼ねて、久しぶりに「仲間」が集まる。馴染みのサツキ、ムネマサ夫妻とコウタロウに加え、「サクラ」「ルリ」「ケイゾウ」が顔をそろえた。


「はじめまして。サクラです。先月、三十一歳になりました。」


そう自己紹介した彼女は、サツキとムネマサの子だ。俺とミスズは彼女と二~三年に一回のペースで会っているが、今回いよいよ「それ」が確実になったと思った。彼女は不老不死だ。二十五歳頃から全く変化していない。


「ここまで来たら間違いないよね。成り代わり同士の子には、不老不死が『遺伝』する。親と同じくらいの歳で、老化が止まるって感じかな?」


とサツキ。


「やはり両親が共に成り代わりだというのが、遺伝の条件である可能性が高いですね。ウチの場合は子供はもちろん、この通り孫にもその兆候はないので。」


と言ってコウタロウが「ルリ」に目配せした。彼女はコウタロウの孫で、成り代わりのクオーターである。今年で五十四歳になるという彼女は、年齢相応の姿をしていた。


「結構大事だな。そこらじゅうで成り代わりが繁殖を始めたら、不老不死だらけになって世界がパンクする。もう始まっているかもしれん。実際、ここでは既に始まっているわけだからな。」


とミスズが言うと、サツキが答えた。


「私らも念の為に二人目はサクラの結果を見てからにしようと思ってたんだけど、自重するよ。マジでヤバい。子沢山の世界記録は諦めるよ。」


俺は本音が出た。


「まだ諦めてなかったんだ。それ。」


コウタロウがサクラに問いかける。


「サクラちゃんは、自分が不老不死だと知って平気?悩んでない?」


「はい。子供のころからその可能性は常々聞かされていて、自分もそうだったらいいなー!と楽しみにしていたので。いよいよ確定したということでワクワクしてます。『あの家』にも行ってきました。近いうちにお世話になると思うので。」


ミスズが声を上げた。


「たくましいのう!子供は物事を柔軟に捉えることができる。羨ましいな。」


不老不死の原因だと考えられる、記憶の封印を無効にする処理は、『魂』の問題だから遺伝はしないと思っていた。しかし、不老不死はそれが『肉体』の問題として現れた結果だ。魂と肉体が相互に影響しているのかもしれない。


この問題を神サマに伝えることはできないだろうか?神サマとの再会の為に、自殺するのはリスクが大きい。自殺すると成仏できないという話も聞く。過去に自殺をした仲間はいたようだが、その結果がどうなったかは判らない。


ムネマサが俺に言う。


「ミスズと一緒になってから、もう三十年くらいか?お前たちは、子供を作ることは考えなかったのか?」


「そうだね。ちょうど三十年かな。うん。ウチは考えたことが無いかも。俺はやっと成り代わりであることに慣れて来た所だし、子供のことまではとてもね。」


ミスズが補足する。


「私は考えんでもなかったぞ?と言いたいところだが、『これ』と同じでな。子供の行く末を考えると踏み出せなんだ。サクラの結果を知った今、悩む必要が無くなって安心しておる。皆は偉いな。ちゃんと子孫を残してるんだからな。」


ここまで何も言わずに話を聞いていたケイゾウが、喋りはじめた。


「ところで『あの家』の管理人の問題はどうする?ヒロユキも、もう限界だと言っていたぞ。」


ケイゾウは成り代わりとしては見た目の年齢が高く、四~五十代に見える。逞しい体つきの男だ。仲間の集まりへの参加率は低い。俺も会ったのは三回目だ。前回会った酒の席で、


「なんで俺は中年なんだ!チクショー!」


とグダグダになっていた彼の姿を思い出した。


コウタロウが答える。


「その件ですが、ウチのルリがヒロユキさんの後を継いでもよいと言ってまして。それもあって今日は連れて来たんです。当面、彼女に任せて良いと思います。」


ミスズがルリに問う。


「良いのか?あんな辺鄙な所で。コウタロウに強要されたのではあるまいな?」


「いいえー。そんなことは。私はもともと都会があまり好きではなくて。子供も手を離れたので夫とも相談して、二人でやらせて頂こうかと。」


とルリが答えると、サツキが驚いた顔になる。


「曾孫もいるの!?でもまぁ、歳を考えれば当然か。この中では、コウタロウが一番うまくやっているのかもね。」


ケイゾウがルリに頭を下げる。


「そうか。どうしてもやる者が居なければ、見つかるまでは俺がやろうかと思っていた所なんだ。ありがたい。感謝する。」


ミスズが言った。


「ヒロユキの子孫は皆、他所に移り住んだというからな。先祖代々の土地を受け継ぐ時代でもないのだろう。血筋を頼るやり方も、変えなければならんな。」


ケイゾウが話を続ける。


「もう一つ。新しい『成り代わり』が家を訪ねたらしい。今までの成り代わりとは言っていることが違うと、ヒロユキが言っていた。近いうちに、会合があるかもしれない。」


まだ「神の悪戯」は続いているのだろうか?神サマは「不老不死」のバグに気付いていないのか?もっとも、魂を送り込むタイミングと、現世に現れるタイミングは順不同だ。時間は不連続で散発的だと、最初の神サマが言っていた。ややこしい話だ。


俺は、この世界に来てからの出来事を振り返っていた。


ユウは既に還暦を過ぎている。他の誰かと家族になって幸せに暮らしただろうか?


ミスズとの出会いは本当に幸運だった。俺には過ぎた妻だ。いまはもう、彼女が居ない人生は考えられない。「彼女を愛している」と素直に言える。


十五年毎の身分の更新は面倒だが、それも人生経験だ。住処に関わる部分はミスズとの共同作業で、むしろそれを楽しみにしている。


こうして時々集まる仲間たちと、過ごす時間も良いものだ。


「このままこの世界で千年暮らすのも悪くない。」


俺はそう思っていた。


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