7.馴れ初め ~ミスズの葛藤~
雪が降っている。景色は真っ白になっていた。
「また先に逝ってしまったな。寂しいものだ。」
墓石の前で無意識に呟いた。「不老不死」という私の個性を、本当の意味で受け入れてくれる者は少ない。彼はその一人だったが、普通の人間であるが故、先に旅立つことは必然だった。もちろん、最期まで変わらず寄り添ってくれたことには感謝してもしきれない。
「はて?彼の名はなんだったか?何故、思い出せんのか・・・」
私は目を覚ました。またこの夢だ。私は「彼ら」の名を忘れたりはしていない。しかし、何故かこの夢の中ではいつも思い出せないのだ。
私の名は「ミスズ」。長い人生、私は何人もの異性と付き合ってきた。時には同性と付き合ったこともある。だが、ここしばらくは独り身だ。いつもすぐに破局するか、先立たれるか。寿命で先立たれるのは仕方ないが、戦で失ったことも何度かある。恋愛する上では、不老不死など何の得もない。
今日は「カズヤス」「サツキ」「ムネマサ」と四人で食事をする予定だ。カズヤスが初めて来た「会合」の後、時々集まっている。互いの自宅が比較的近く、「新入り」がいると話題も多い。遅れて到着すると、既に三人は席についていた。サツキとムネマサは夫婦だから、自然とカズヤスの横に座ることになる。
私は「カズヤスと付き合いたい」と思っている。会合での別れ際、冗談半分で交際を申し込んでみたが、その場で断られてしまった。だが、何度か会ってみるとやはり気になる。こうして隣りに座っていると「抱き付いてみたい」と思ってしまう。
何かにつけて「彼女が欲しかったから」とおどけて見せるが、よくよく話を聞いてみれば彼の優しさと誠実さが見えてくる。自分を曲げずに「神の悪戯」を受け入れる変な強さもある。私はそこに惹かれているようだ。しかし、私は本当に彼のことが「好き」なのか?
会合のとき、カズヤスは妻と破局した件を皆に話してくれた。深刻そうな語り口ではなかったが、彼が深い傷を負っていると直感した。彼が時折見せる影のある表情を目の当たりにして、力になりたいと思った。傷ついた彼に寄り添いたい気持ちは嘘ではない。
一方でこうも考える。カズヤスは私と同じく「成り代わり」で「不老不死」だ。彼が相手ならば、もう先立たれて悲しい思いをすることは無いはずだという、打算的なものが私の中にあるのではないか?
だとすれば、私には彼と臥所を共にする資格が無い。彼の元妻に対する想いは本物だ。相手にとってもそれは同じだろう。打算で彼の心を奪うようなことはできない。六百年も生きてなお、自分の心の整理もままならない私が、人の力になろうなどと。
私はいつでも自分の欲望が先に立つ。私が「成り代わり」になったのも、そこに原因があった。殿方がいない世界への生まれ変わりなど、まっぴらごめんだと神サマに宣言したのだ。その結果がこれだ。
でも、彼も「彼女が欲しくて『神の悪戯』を承諾した」と言っていた。
「似た者同士」
という言葉が、私の頭に浮かぶ。
「ミスズさん?どうしたの?」
彼が話しかけてきた。いけない。考え込んでボーっとしてしまった。皆の話を何も聞いていなかった。
「いや、なんでもないぞ。カズヤスはちゃんと食ってるか?」
「食べてるよ。大丈夫。ミスズさんこそ、全然食べてないじゃない。具合でも悪い?」
「具合は悪くない!」
このやりとりを聞いていたサツキが言う。
「ふーん。あんたたち、最初から仲が良いよね。気が合うのかな?」
間髪置かずにムネマサが追撃をする。
「確かに。そうやって並んでいると、夫婦に見えんでもない。」
私は動揺した。こんなにソワソワする気持ちが、自分の中にまだ残っていたのかと思う。
「お前ら、余計なことを言うでない。カズヤスが困っておろうに!」
彼は嫌がるでもなく、「そんなことはないけど」と笑っていた。
翌日、私は彼を再び呼び出した。二人だけというのは、最初に彼が私の自宅を訪ねて来た時以来だ。駅前で待っていると、約束通りの時間に彼がやってきた。
「ミスズさん。昨日はどうも。急にどうしたの?」
「悪いな、呼び出して。その、気になってな。ほら、『ユウさん』の話をした後、お前がえらく落ち込んでいるような気がして、それが心配で。大丈夫か?」
「ええ?それでわざわざ声をかけてくれたの?それはちょっと嬉しいけど、そんなに落ち込んてるかな?ご飯も食べてるし、大丈夫だと思うんだけどな。」
「そうか?なら良いが。」
私は、彼が「ユウ」のことをどう思っているのか聞きたいと思ったが、言葉を飲み込んだ。「今でも愛している」などと言われたら、本題が切り出し難くなる。いや、これは言い訳だ。単純に聞く勇気がなかったのだ。
「なぁ、カズヤス。あの話は考えてくれたか?」
「あの話?」
「私とお付き合いする、という話だ。私は本気だぞ。どうだ?」
と言って、私は自分の『胸』を誇張して見せた。初めて会った時から、彼の視線がそこに留まりがちであることを、私は見逃していなかった。今日は、それがより強調される服を選んできたのだ。
「本気だったの?あれ。」
あからさまに照れて視線をそらす彼。可愛いものだ。
「年上でも問題はないんだろう?」
「それは全然。じゃあ、あの。お友達から、、、お願いします。俺も、ミスズさんは『好み』だと、思っていたので。」
私は「やはりこ奴に抱き付いてみたい」と思ったが、我慢した。
「そうなのか!?照れるのう。しかし、もう十分『友達』ではあると思うのだが。まあいいか。私は気が長い。よし。決まりだ!これからよろしく頼むぞ。童は嬉しい!」
そう笑いかけると、彼は大きく頷いて笑い返した。
「早速どこぞに出かけぬか?お主の好いたところで構わぬぞ?」
「ミスズさんのその喋り方、わざとなの?素なの?」
「フフッ。どっちだと思う?」
何時だって誰かに寄り添って居たいじゃないか。
折角、この世界で生きているのだから。
永い永いお付き合いになったら、それだけで嬉しい!




