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十二湖は、今日も蒼い ―八峰 遥の天運―  作者: 菜乃花 薫


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9/12

「十二湖は、今日も蒼い」8

「買い物してくる間、あんたは彼女を見張っててね」


30分ほどで到着した小さなホームセンターで、私はカールにそうリクエストした。


『クロストレックの私はそうしよう。タブレットの私は持って行って欲しい』


「わかったわ」


降りると勝手にドアロックもされる。


ホームセンターだから売ってる服は限られるが、とりあえず我慢してもらうしかない。

スウェットの上下セットをかごに入れて、今度は介護・運動用品の棚に向かう。


清拭用の使い捨てウェットタオル、続いてボディシートを選んでいるとカールが小さな声で言い出した。


『若い女性が夜遅く帰宅することになるだろう。家族が居た場合を考えてフローラルなどの香りが付いてしまうものはトラブルの元かもしれない』


「あんた、随分詳しいし、彼女に気を使いまくるわね?」


『小さな諍いであっても、彼女の”憤怒”に火をつける結果を招くかもしれない。

できるならそれは避けさせたい』


「確かに、”あれ”を家族にされたら明日の報道は終日そればかりでしょうね」


彼女が護送されるイメージが脳内に浮かぶ。

あの大きく狂暴な熊ですら、素手で仕留めることができるのだ。

人間相手では結果がどうなるものか、想像すらしたくない。


ついでにお茶を2つ買い、会計に向かう途中にカールからこう聞かれた。


『遥は現金を持って歩いているか?』


意図が分からないまま、答える。


「多分1万くらいは入ってると思うけど、どうして?」


更に小声でカールが告げた。


『念には念を入れてだが、もし今日の一連の出来事が仕組まれているなら、買い物とは言え現在地や買ったものの情報を無駄に出したくない』


「どういうこと?」


『後で説明しよう。とりあえず今日は現金で払ってほしい』


「え~、カードならカード会社のポイント付くのよ?」


『そのポイント分なら何万倍にして返すから、理解してほしい』


「……わかったわよ」


渋々財布から現金を出して支払う。


車に戻り、まだ気を失ったままの彼女の隣に乗り込む。


「とりあえず、顔と手だけでも拭いておくわね」


聞こえてはいないだろうが、断りを入れて清拭を始める。

冷たいウェットタオルに一瞬眉をしかめたように見えた。


「流石に、このままじゃ検問にでも遭った日には連行されかねないからね、っと」


そう言って拭き上げ、少し悩む。


『どうした?』


「う~ん、乾いてるからワンピースの上からスウェット着せて、スウェットの中で脱がせる、ってのを考えたんだけど」


『普通に着替えさせるのでは、ダメなのか?』


「あんたねぇ、まだ若い可愛らしい女の子よ?

いくら駐車場に車が少ないからって、車内で下着にさせるのは忍びないわ」


『非効率的だな。しかし羞恥心というのも大事だとは聞く。

手間がかかるが同性の君なら問題もないのでは?』


「あんたが居るから考えてるのよ」


『繰り返すが、私には』


「はいはい、女には興味がないっていうんでしょ?耳にタコだわ」


『では、よいのでは?』


「タブレットはグローブボックスに入れればいいとして、ドライブレコーダーは直接見れなくても、360度撮れちゃうでしょ?」


『仕様上はそうだが、SDカードか電源コードを抜けばいいのでは?』


「流石のあんたも、独立してるカメラまでは見られないのね」


『いや?SDカードはWi-Fi付SDカードを手配して、ディーラーで納車前に換えてもらっているぞ』


「やりすぎよ!

っていうか、どうやって手配したのよ?」


『ネット通販サイトで注文し、ディーラーに営業マン気付で発送させた。

営業マンには届いたものは交換・設置しておいてくれ、とメールを入れた。これだけだ』


「……知らないこともやってるのね」


『だから今、ドラレコに記録されない方法を提示しただろう?』


「カール……恐ろしい子。

もしかしてT-Connectも?」


『当然申し込んであるし、設定もしてある。だからスマホでドラレコ画像確認もできる』


「のぞきでしょうが!油断も隙もありゃしないんだから」


愚痴りながらもSDカードを抜いて電源も抜いて、と念を入れてドラレコを止めた。


「一応、こっち見ないでね、って言っておくわ」


『逆らわないでおこう』


カールはそう言うと押し黙った。


スウェット上下を着せて、なんとかワンピースを抜き取る。


「よし、これで見た目は何とかなったけど……」


そう言ったが早いか。

彼女が目を開けた。


「きゃっ!」


「あ、ごめんね。服が凄いことになってたから勝手に着替えさせたんだけど……大丈夫?」


「あ、あの」


「どうしたの?」


「……あちこち、痛いです」


『あれだけ超常的なことをやってみせたのだから、その反動だろう。

数日間は筋肉痛が続くと思うが、筋肉痛では人は死なないから大丈夫』


「え?他に人が居るんですか?」


急に彼女が怯えたように縮こまる。


「大丈夫よ、スマホのAIチャットボットがONになってるのよ」


「そうですか……超常的なこと、ってどういう意味ですか?」


少し、考える。


「あなた、名前は?」


陽菜(ひな)安潟(やすかた)陽菜です。」


「陽菜ちゃん、ね。私は八峰 遥よ。着替えさせるのに近場のホームセンターに来たんだけど、陽菜ちゃんはどこから来たの?」


「あ、私は青森市からです、ドライブに来たのに……」

そう言って泣き始めた。


『場所を変えよう』


私が座ってる運転席側の後部シートのスピーカーにだけ聞こえるよう定位を弄ったのか。

はっきり聞こえたカールの声は、陽菜ちゃんには聞こえていないらしい。

よく制御してるものだわ。


「陽菜ちゃん?私も青森市内から来てるのよ。

良かったら乗せていくから、一緒に帰らない?」

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