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十二湖は、今日も蒼い ―八峰 遥の天運―  作者: 菜乃花 薫


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「十二湖は、今日も蒼い」6

熊と女性を見比べながら近づく。

どちらにも最大限警戒しながら。


『熊のほうは心音・呼吸音共検知できない。心臓をとられて生きているはずはないが』


カールが分析するが、間違いないかしら?


もう一方で倒れている女性は、どう考えても熊を倒せるように見えない。

カールが言ったとおり、いつも鏡で見る私よりも華奢に見える。


「おまけにこのワンピース、だものね」


『血まみれなのはさておき、普通に考えると可愛らしい服装となるのだろう。

駐車場が近いとは言え熊が出ると言われている場所に、警告を見てもこの格好で来たのは常軌を逸しているとは思うが』


「ねえ?彼女は生きてるわけ?」


『間違いなく生存している。

少々心音が早く、呼吸も浅く短いが疲労が一気に出たと思えば許容範囲内ではある』


「……起き上がって襲ってこないわよね?」


『そう思いたいが、断言はできない。

理性が無くなっていれば君の安全は保障しかねる』


「そうは言っても、あまりにもシュールな絵面だし、流石にこのまま放置は心が痛むわ。

あんただってお仲間の動向が気になるんじゃないの?」


『今の私が見張れるのは、音と画像を基にした彼女の動向予測だけだ。それでもよければサポートをしよう』


「仕方ないわね、あとはあんたのお仲間がなにかで襲ってこないかだけはチェックしておいてね」


『請け負おう』


いくら軽く見えるとは言っても、ある程度の年齢の女性を女の私が抱え上げるのは無理か、そう思ったが、上体を起こすとあまりの軽さに驚いた。


「気絶してる人って重く感じる、って言うわよね。

彼女、いったい何キロなのよ」


『通常の人体密度として計算すると、服装の上から見える彼女の体形からだと38キロから42キロの間くらいだと推測できる。

ただし、彼女が異常体質で筋肉量が異常に多い場合は更に重くなるが』


「普通だと女性の体重を計算するなんて!って怒るんでしょうけどね。

今回ばかりは私でも背負えそうな体重と聞いて安心したわ。

あ、先に言っておくけど私の体重を計算したら、わかってるわね?」


『危険予知には万全だと自負している』


「ならいいわ。獣臭い上に血まみれなのは我慢するか」


そう言いながら彼女を背負う。


―本当に軽い。

もしかしたらカールの計算値よりも軽いのではないか?


軽いことは、今回ばかりは悪いことではない。

なにせ整備されていない森の中、しかも小川も横断する帰路では負担が少なくて助かる。


さすがに他の熊が出てくることはなく、道路に出るとクロストレックが迎えに来ていた。


『防水シートカバーだから乗せても良いと思うが、密室だから気が付いて襲われるとそれこそ逃げ場がない。

彼女を気遣うなら、ラゲッジからカーゴマットを下ろして敷いて、車外に寝せるといいだろう』


「あら、意外と紳士なのね。驚いたわ」


『それより早く降ろしたほうがいい。時間が経てば目を覚ます確率は高まる』


一度彼女をクロストレックにもたれかかせるように座らせた。


バックドアを開けてカーゴマットを下ろし、そこに横たわらせて、ドアを開けたままの助手席に座って様子を見る。


『その体勢はもしかして、目を覚ました彼女が危険だったら逃げる、という意思表示かな』


「そう。熊の心臓を引きちぎるような力を向けられたらひとたまりもないわ。

その場合は全速力で逃げるのを許可するわ」


彼女を注視したまま、返事をする。


『了解した。その場合は君の生命を最優先にした行動を採ろう。

クロストレックの性能は十全に引き出してみせる』


「こうなると、あんたのその能力と自信が頼もしく見えるわ」


『それよりも、私の仲間と熊の死体、彼女の扱いをどう処理すべきかを考えたほうが良いと思う。

どれをとっても騒ぎにしかならないと思うのだが』


熊と彼女のシチュエーションだけでも説明したって、誰にも信じてもらえないだろう。


その上、古代文明の機械が岩肌から露出してるって隠しようもないし、どうすればいいのかしら。


『私の仲間のほうは自分でなんとかするようだ』


カールのその言葉と共に、またも地面が揺れる。


「地震?やっぱりさっきのも人為的、というかあんたのお仲間がやったってわけ?」


『恐らくは。私と同等の能力を持っているなら再度隠蔽するなど造作もない。

証拠隠滅を図るために熊の死体も処理されている可能性が高いだろう』


「そうなると、問題は彼女ね」


『本体からこの距離だ、直接操れないだろうがどこまで【侵食】しているものか』


「侵食って、まさか人の意識もハッキングしてるってこと?」


答えるのをためらったのか、カールの返事がいつもより遅かった。


『そうだ。

そして以前の人類文明が滅んだ原因も、ある意味それが大きな要因だ』


周囲の気温が一気に下がったように感じた。

AIによる人類操作。

そんなSFみたいなことが……


いや、目の前、というか今まさに会話している相手がその体現者みたいなものだった。

現代と次元が違うテクノロジー。


「あんたはやらなかったけど、やろうとすれば同じことができたってこと?」


『私は君を操る必然性を感じなかったが、”憤怒”は彼女を操る必要があったのだろう。

いくつかの理由は予想できるが、それが必然だったのかどうかはわかりかねる』


「その結果が、彼女による熊の惨殺、か」


何度見ても理解しがたい、華奢な彼女が熊を葬った事実。


―滅んだ原因って、まさか


思い浮かんだ物騒な想像に、頭を振る。


『さて、そろそろ彼女が目を覚ましそうだ』

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