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十二湖は、今日も蒼い ―八峰 遥の天運―  作者: 菜乃花 薫


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4/10

「十二湖は、今日も蒼い」3

日本キャニオン、と書かれた立て札。

チェーンやロープで囲われたデッキから見える眺望。


『これが日本キャニオンか』


スマホ越しとは言え、カールが肩透かしを食らったような声を出した。


日本キャニオン、景色自体は良いと思う。

ただイメージが膨らみすぎて、岩肌が小さく見える展望台の位置も相まってか、視覚的な迫力が全く足りていない。


正直名前負けしてる感は否めない。


「名物に旨いものなし、なんて言うけれど。

流用した名前が有名すぎる景色で比較されやすい、ってのも珍しいわよね。

真っ白で綺麗なのに」


そんなことを言っていると、少し揺れた気がした。

デッキが揺れているのか?


『電波状態がおかしいようだ、地震かもしれない』

慌ててデッキを降りる。


「……収まったようね、大した揺れじゃなかったけど」


そう言いながら、日本キャニオンに目をやった。


『む?』


カールがなにか気になったようだ。


『あの辺になにか見えないか?』


「どの辺よ?」


スマホがあの辺と言っても、どこがどこやら全く分からない。


『私を両手で持ち上げてもらえるかな?あとは動きを指示するから』


言われた通りカメラ側を向け、下だ斜めだと動かす。


『……流石にここから降りていくのは無理だな』


「何か見つけたの?」


『恐らくは私の仲間、もしくは私を作った文明の痕跡と思われるものが見えた』


絶句する。


「見えたって、あなたの本体内部で見た感じのやつ、ってこと?」


『いや、恐らく外部装甲だろう。形状に近似性があった』


「カール?知っててここまで来させたわけ?

地震まで起こすとか手が込みすぎじゃない?」


『いや、私は全く知らない。今日ここに来たのだって君が日本海を見に行こう、と出発したはずだ』


「確かにそうね。

私が日本海……ってちょっと待った!」


ここで大事なことを思い出した。


『どうした?』


「あなた、私を眠らせることができたわよね?

あれで深層意識に刷り込んだとか、操って言わせたとかじゃないでしょうね?」


『なるほど、私が君を操った、と?』


「違うわけ?」


『私は今、タブレットを通じて君と会話している。

クロストレックにしても、技術的なものは全て現代の人類が作ったものだ』


「それで?」


タブレットからため息が聞こえたような気がする。


『梵珠山でならともかく、ここでは私の能力はドラマの中のK.I.T.Tにすら及ばないよ』


「本当でしょうね?」


『嘘だったら、君から借用している5000万の利息として、元金の3倍を足して返すよ』


「それくらい、あなたなら1か月もあれば稼ぎ出すでしょうに」


『ふむ、計算上は24日あれば十分だが』


本気か、軽口か。

いずれにしろ呆れるほかにない。


「じゃあ、あなたが見た物体っていうのは、スタンドアロンで活動しているわけ?」


『多分そうだろう。本体から呼びかけて見ているが反応は返ってきていない』


何があったのか知らないが、現場の目の前にいるんだから調べておいたほうがよさそう。

……出勤したらまた調査依頼きてるかもしれないし。


「下に降りるルートって、あるの?」


『日暮橋前というバス停から未舗装路を徒歩で500m、と出ているが、最近どうも熊が出没するらしい』


「熊!さすがに遭遇したことはないわね」


『会いたくはないかもしれないが、可能なら連れて行って欲しい』


カールのリクエストに躊躇する。


「まあ、車に行けばクマ避けの鈴とクマ撃退スプレーがあるわね。

気休めかもしれないけれど」


『本当に気休めかもしれないな』


―このまま帰ろうかしら


『クロストレックに戻って、日暮橋前バス停にある駐車場まで向かおう。

500m程度なら、クマ避けに駐車場からクラクションを連発すれば、少しは効果があるかもしれない』


「とりあえず戻ればいいのね?でも20分以上はかかるわよ?」


『私は大丈夫だが?』


「あんたはぶら下がってるだけでしょうが!」


『まあ、冗談はさておき、ナビをしよう』


そう言って、来た方向と逆に向かうよう指示された。


「あっちに向かったって、駐車場、遠いわよ?」


『ふむ、君は私がクロストレックに何をしたか、忘れたのかね?』


「……あんたまさか?」


『そう、クロストレックの私が、君を最短距離までエスコートしに来るよ』


「捕まったらどうするのよ?」


『そんな酔狂な警察官が、いくら青森県警が勤勉でもこの時間、この道路に居るとは思えない』


こいつ、本気のようだ。


―暴走、しないわよね?


『君の信頼を勝ち取るためにも、安全第一で飛ばすよ』

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