「十二湖は、今日も蒼い」3
日本キャニオン、と書かれた立て札。
チェーンやロープで囲われたデッキから見える眺望。
『これが日本キャニオンか』
スマホ越しとは言え、カールが肩透かしを食らったような声を出した。
日本キャニオン、景色自体は良いと思う。
ただイメージが膨らみすぎて、岩肌が小さく見える展望台の位置も相まってか、視覚的な迫力が全く足りていない。
正直名前負けしてる感は否めない。
「名物に旨いものなし、なんて言うけれど。
流用した名前が有名すぎる景色で比較されやすい、ってのも珍しいわよね。
真っ白で綺麗なのに」
そんなことを言っていると、少し揺れた気がした。
デッキが揺れているのか?
『電波状態がおかしいようだ、地震かもしれない』
慌ててデッキを降りる。
「……収まったようね、大した揺れじゃなかったけど」
そう言いながら、日本キャニオンに目をやった。
『む?』
カールがなにか気になったようだ。
『あの辺になにか見えないか?』
「どの辺よ?」
スマホがあの辺と言っても、どこがどこやら全く分からない。
『私を両手で持ち上げてもらえるかな?あとは動きを指示するから』
言われた通りカメラ側を向け、下だ斜めだと動かす。
『……流石にここから降りていくのは無理だな』
「何か見つけたの?」
『恐らくは私の仲間、もしくは私を作った文明の痕跡と思われるものが見えた』
絶句する。
「見えたって、あなたの本体内部で見た感じのやつ、ってこと?」
『いや、恐らく外部装甲だろう。形状に近似性があった』
「カール?知っててここまで来させたわけ?
地震まで起こすとか手が込みすぎじゃない?」
『いや、私は全く知らない。今日ここに来たのだって君が日本海を見に行こう、と出発したはずだ』
「確かにそうね。
私が日本海……ってちょっと待った!」
ここで大事なことを思い出した。
『どうした?』
「あなた、私を眠らせることができたわよね?
あれで深層意識に刷り込んだとか、操って言わせたとかじゃないでしょうね?」
『なるほど、私が君を操った、と?』
「違うわけ?」
『私は今、タブレットを通じて君と会話している。
クロストレックにしても、技術的なものは全て現代の人類が作ったものだ』
「それで?」
タブレットからため息が聞こえたような気がする。
『梵珠山でならともかく、ここでは私の能力はドラマの中のK.I.T.Tにすら及ばないよ』
「本当でしょうね?」
『嘘だったら、君から借用している5000万の利息として、元金の3倍を足して返すよ』
「それくらい、あなたなら1か月もあれば稼ぎ出すでしょうに」
『ふむ、計算上は24日あれば十分だが』
本気か、軽口か。
いずれにしろ呆れるほかにない。
「じゃあ、あなたが見た物体っていうのは、スタンドアロンで活動しているわけ?」
『多分そうだろう。本体から呼びかけて見ているが反応は返ってきていない』
何があったのか知らないが、現場の目の前にいるんだから調べておいたほうがよさそう。
……出勤したらまた調査依頼きてるかもしれないし。
「下に降りるルートって、あるの?」
『日暮橋前というバス停から未舗装路を徒歩で500m、と出ているが、最近どうも熊が出没するらしい』
「熊!さすがに遭遇したことはないわね」
『会いたくはないかもしれないが、可能なら連れて行って欲しい』
カールのリクエストに躊躇する。
「まあ、車に行けばクマ避けの鈴とクマ撃退スプレーがあるわね。
気休めかもしれないけれど」
『本当に気休めかもしれないな』
―このまま帰ろうかしら
『クロストレックに戻って、日暮橋前バス停にある駐車場まで向かおう。
500m程度なら、クマ避けに駐車場からクラクションを連発すれば、少しは効果があるかもしれない』
「とりあえず戻ればいいのね?でも20分以上はかかるわよ?」
『私は大丈夫だが?』
「あんたはぶら下がってるだけでしょうが!」
『まあ、冗談はさておき、ナビをしよう』
そう言って、来た方向と逆に向かうよう指示された。
「あっちに向かったって、駐車場、遠いわよ?」
『ふむ、君は私がクロストレックに何をしたか、忘れたのかね?』
「……あんたまさか?」
『そう、クロストレックの私が、君を最短距離までエスコートしに来るよ』
「捕まったらどうするのよ?」
『そんな酔狂な警察官が、いくら青森県警が勤勉でもこの時間、この道路に居るとは思えない』
こいつ、本気のようだ。
―暴走、しないわよね?
『君の信頼を勝ち取るためにも、安全第一で飛ばすよ』




