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十二湖は、今日も蒼い ―八峰 遥の天運―  作者: 菜乃花 薫


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「十二湖は、今日も蒼い」1

『しかし、自動車と言うのは人類の歴史の割に発展が遅いのだな』


納車後、すぐにアパートに戻ろうと言い出したカール。

文句を言っているのはハッキングをしながらだ。



『ドライブ中に全システムを書き換えることも可能だが?』


引き渡し直後、カールはこともなげに言い放ったが、走行中に突如再起動でエンストとかされた日にはたまったものではない。


止まってやってくれ、と頼むとWi-Fi環境が安定してるアパートの駐車場で作業をし始めた。


スバル クロストレック Premium S:HEV EX。

塗装色はサンドデューン・パール。


これを選んだのはカール本人だ。


『製造ラインに載っていて、私の要求仕様を満たす車がこれだけだった

色はこだわらんが、水平対向+フルハイブリッドは譲れない』


謎のこだわりを主張していたが、その資金を自身で稼いで振込で全額一括支払いをした。

そしてつい先ほど、引き渡しが終わったばかりだ。


『ソフトウェア全ての書き換えが終わった。今日からこれが私の手足となる』


「……そう言いながらナビ画面にK.A.R.R(カール)って表示させるのは怖いって」


F.L.A.G(フラッグ)のロゴとナイト財団のエンブレムもさりげなく出してるところが憎らしい。

元ネタをどれだけ理解してるのかは知らないけど、大したものだわ。


『さて、どうだろう?今日は休日ではないがファーストドライブと行って見るかい?』


「ご丁寧にナビ画面まで発話時のアニメにしてるのはやりすぎじゃない?

それはさておき、ドライブ?

折角だし日本海でも見に行こうかしら?」


『日本海。龍飛岬なら津軽海峡も見られる』


「そうじゃなくって、夕日を見に行きがてら温泉に入る、これでどうかしら」


『私は温泉に入れないが?』


「その間、新車を愛でていればいいじゃないの」


『なるほど、実走行を行った後、再チューニングすればいいということか。

君は合理的判断に優れているな』


「……そういう考え方もあるか」


駐車場を離れる。


小型車くらいは運転しているが、今の車っていわゆる普通車サイズが当たり前になってしまい、小回りは効いても幅がでかくてアパートの駐車場だと内輪差でぎりぎりだ。


「軽からだとサイズアップが凄いわね」


新車も当然幅が広い。

ドアミラーで左内側を気にしていると


『私が運転しようか?』


と聞いてきた。


「カール?道交法上の自動運転はどこまで許可されてるか調べてご覧?」


数秒の間があって、こう返ってきた。


『君が運転席にいる間は、君の運転だと思われるから平気だよ』


「なんかあったら私の責任ってことでしょうが」


『まだ信用してもらえないか』

ため息が聞こえた気がした。


「考えてごらんなさい?

あなたが事故を起こすわよね?


あなたは痛くない、なんなら全損しても【本体】があるわよね?

車体は買い替えれば乗り換えることもできる」


『そうだね。私はバックアップがあるようなものだ』


あっさりと答えるが、私はわざとらしくため息をついて続ける。


「で、私はこの身一つ、怪我をすれば痛いし死ぬこともあるわ。

身体の乗り換えなんかできないし、事故を起こせば免許の点数が引かれたり、任意保険の保険料率が次の年に上がる場合もあるのよね」


『確かに物理的・経済的にはそうだね』


「そうなると、あなた自身が信頼できるって判断できるまで、命を預けたりできないわね」


『なるほど、すがすがしい程の理知的な判断だ。私が君だったら私もそうする』


「あら、同意して頂けて光栄だわ。だったら私の運転が危険だと思うまでは介入しないでね」


『そうしよう』


ようやく駐車場から出ると、旧国道から西に向かう。


「さて、西海岸までドライブね。

久しぶりだわ、鰺ヶ沢方面に行くの」


『そういえば【Go West】、という曲があったな』


「あら、随分博識ね。私に会う前から歴史を見張ってたわけ?」


『まあ、長い間見張ってはいた』


「ペット・ショップ・ボーイズ、恰好良かったわ」


『なにを言っている。【Go West】と言ったらドリフターズだ』


「え?」


『え?』

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