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十二湖は、今日も蒼い ―八峰 遥の天運―  作者: 菜乃花 薫


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「十二湖は、今日も蒼い」9

「お願いしてもいいですか?」

まだ涙声だが、おずおずと陽菜ちゃんが尋ねる。


「もちろん。一人でドライブより二人の方が楽しいから嬉しいわ」


そう言ったのだが、彼女の表情が曇る。


「スマホ、なくしちゃったみたいなんです。家に連絡しないと心配させてしまうかも……

ここ、十二湖の近くでしょうか?」


「もう少し南の秋田県八峰町(はっぽうちょう)、ってところになるわ。

遅い時間だし、直接戻らないで能代市経由で帰ろうと思ってるのよ」


「能代市?遠回りじゃないんですか?」


言いながらも痛いのか、彼女は腕や足を摩っている。


「淡々と走っていれば早いし、高速に乗れば少しだけ早く着くわ。

急いだほうがいい?」


「連絡さえできればいいんですけど」

そう言ってため息をつく。


「家の電話番号はわかる?」


「はい、わかります」


「じゃあ、私のスマホだけど家にかけて親御さんに連絡して了解を取ってちょうだい」


「ありがとうございます。ではお借りします」


差し出したスマホを受け取り、そう言って電話をかけた。


現在地と状況を伝えたところで


「すみません。父が乗せている人と代わって、と」


なるほど、もしかして彼氏に文句言おうとしてるのかしら。


「お電話代わりました」


そう言うと、電話の向こうで息をのむ気配が伝わった。


少し間を置き


「あ、失礼しました。私は陽菜の父です。

陽菜は彼氏とドライブに行く、と言って出掛けたはずですが、あなたは?」


聞こえる声は丁寧な中にとてつもない圧を感じるものだった。


―堅気じゃないのかしら。陽菜ちゃん、もしかして反社の人のお嬢さん?


ふむ、どうしたものか。


『はぐれた陽菜を見つけて乗せている、とでも言うといい』


カールのささやきがスマホに当ててない右耳にだけ聞こえた。


「私は八峰と申します。

娘さんが同行されていた方とはぐれたようでして、お声がけして今乗せています」


「それは……娘を助けて頂きありがとうございます」


「いえ、偶然ですから。

陽菜さんは青森市内から来られたということですが、今から向かっても深夜になります。

ですので軽く食事をとってからご自宅にお届けしようと思っていますが、遅くなることをご了承いただけますでしょうか?」


「お気遣いいただき、重ねてお礼申し上げます。

失礼ですが、今どちらにいらっしゃるのでしょう?」


「今は秋田県八峰町、深浦の隣町に居ます」


「なるほど。では国道7号線で帰ってこられるのでしょうか?」


「そうするつもりです。

今18時過ぎですので、能代まで30分程度、食事で1時間程度。

そこから普通に走っても能代から青森市内まで3時間弱かかりますね。

そうなるとお伺いするのが0時過ぎになるでしょう」


「なるほど、あなたは非常に説明が丁寧かつ上手ですな。

確かにそれくらいかかるでしょう。

大変申し訳ありませんが、その間、娘をよろしくお願いいたします」


「わかりました、では失礼します」


「失礼します」


通話を終了する。


「ということで、お父さんには了承をもらったわ。

陽菜ちゃん?軽くご飯食べてから帰りましょ。

ついでにいくら応急とはいえ服もそれじゃあね」


そう言うと陽菜ちゃんは自分の格好を見直した。


「これ、遥さんが?」


「ごめんね?可愛いワンピースからそれだとギャップがありすぎるわよねえ」


頭を振り


「いいえ。ありがとうございます」


彼女はそう言って横に置いておいたワンピースを手に取った。


何となく不穏な雰囲気を感じ、話を切り出す。


「とりあえず、能代市に移動しましょうか。

陽菜ちゃん、お腹空いてない?」


「凄く空いてますけど、お金持ってません……」


そう言うとしょんぼりしてしまった。


「あんまり店知らないから、ショッピングモールの中の店かラーメン屋くらいになるけど、いいかしら?」


「え?でも……」


「大したものじゃないけど、それくらいならごちそうくらいするわよ」


「ありがとうございます、すみません」


「じゃあ、決まりね。30分くらいで着くと思うから、我慢してね」


運転席に移動して、クロストレックで南に向けて走り出す。


「陽菜ちゃんは何が食べたい?」


「良ければラーメン、それも大盛のが食べたいです」


あまりの驚きに思わず振り返った。


「え?陽菜ちゃん、食べられるの?」


「遥さん!前見てください!前!」


「ごめんごめん。

いや、陽菜ちゃん見てると凄く食が細いのかな、って勝手に思ってたけど健啖家なのね」


「普段だとそうでもないんですけど、今日はとにかく何か食べたくて仕方なくて。

すみません」


「大丈夫よ。じゃあ、確か期間限定で大盛やってるチェーン店があるけど、行く?」


「はい!」


返事を聞いて、ナビに音声入力で目的地設定をする。

最新のナビは便利だけど、これもカールが制御してるんでしょうね。


30分後、ラーメン屋に到着。

待ち時間もなく席について、タブレットでメニューを見る。


「これでしょうか」


そう言って麺2.5玉を使った中華そばを指す。


「みたいね。2.5玉って食べられる?」


「うーん、今のお腹の空き具合だと多分……」


「じゃあ、陽菜ちゃんはそれにしましょうか?」


「あ!同じ値段だけど、つけ麺だと3玉だそうです。こっちでもいいですか?」


「いいけど、3玉、入るの?」


「頑張ります」


「若いわねぇ。って陽菜ちゃん、いくつかしら?」


「18です」


「あらま、じゃあ行けるかな?」


「遥さんはおいくつなんですか?」


「26よ」


「綺麗だからもっとお若く見えますね」


「ありがと。ところで麵だけでいいの?」


少し考えて返事をした。

「とりあえず食べてから、にします」


「OK。じゃあ注文入れるわね」


オーダーを確定させて、しばし待つ。


「青森市内にも店あるのに、わざわざ能代で食べるってのもどうかしらね」


「あ、でも地元だと注文してなかったかもしれません。知り合いに見られたら大食いって恥ずかしいかも」


「あら、そんなの平気よ。

食べないとやってられない時もあるからね」


そんな会話をしていると、陽菜ちゃんのオーダーが先に来た。


「メガつけめん、麺は冷たい、つけ汁は熱く、でよろしかったですか?」


凄い量に圧倒される。


廻りの客からも、メガ盛りと陽菜ちゃんのギャップに騒めいている声が聞こえる。


……その中に若干、お腹の虫が鳴いてるのが混じってる気がした。


「お先にどうぞ」


「あ、じゃあ頂きます」


可愛らしい顔を更に明るくさせて食べ始めた。


綺麗な食べ方なのに、消えていく速度が尋常じゃない。


―私のが来る前に麺、無くなっちゃうんじゃないの?

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