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十二湖は、今日も蒼い ―八峰 遥の天運―  作者: 菜乃花 薫


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「十二湖は、今日も蒼い」プロローグ

「では、こちらの仕様を再度ご確認いただきまして、よろしければご署名と捺印をお願いいたします」


目の前の営業マンは流れる様な手つきで確認箇所と記入先を示す。


……まあ、必要経費か。


高額当選通知から数日。

私はカーディーラーのショールームで契約直前まで進んでいた。



昨日の朝、突然こう聞かれた。


『君は移動手段があるのか?』


タブレットからだ。


「古い軽自動車だけど、あるわよ」


『では、当選金で買い替えてはどうだ?』


少し、考える。


「それは魅力的な提案だけど、メリットはあるかしら?」


即座に返事が聞こえた。


「今の自動車は君が乗っている古い軽に比べると全般的に安全性が高いようだ。

燃費も改善されているし、今回当選した金額なら税金なども誤差範囲だろう」


「確かにそうね」


『それで、一つ提案なのだが』


タブレットの声はもったいぶって間を置いた。


『新しい車を私の身体とさせてもらえないだろうか』


「どういうこと?最新の車をハッキングするってことなの?

だとしたらやること、えげつなさすぎない?

特攻テロでもするつもりかしら?」


『そんなわけないだろう、攻撃するならもっと効果的な手法を用いるよ』


さらっと恐ろしい言葉が聞こえる。


『君が寝ている間、いろいろ観察させてもらったよ。

随分と車が好きみたいだね?』


「まあ、エンジンが付いていればバイクでも草刈り機ででも遊ぶわ」


軽口を返すと


『更に君は【ナイトライダー】も好きだね?』


「なんでそれ、知ってるのよ」


『BDレコーダーに入ったままだし、再生履歴も残ってる。

なにより部屋の中に模型とブルーレイボックスがある時点で相当なのでは?』


「プライバシー、って知ってる?」


『そこで、だ』


わざとらしく間を置く。


『君がマイケルで私がK.I.T.T(キット)。こういうのはどうだろう?』


「マイケルはともかく、あなたはK.I.T.TってよりK.A.R.R(カール)じゃない?」


嫌みを言ってやった。


『なるほど、自己保存が最優先のAIのようだね。私は自己保存など考える必要がないけれど』


「どれだけ頑丈で長生きなのか知らないけど、我が強いあなたにはお似合いじゃない?

今からあなたをカールと呼ぶわ、いいわね?」


『その言い方だと拒絶しても無駄なのだろう?』


「わかってるじゃない、カール?」


『では、代わりと言ってはなんだが車の買い替えは同意してもらえるだろうか?』


少し考える。


「あなた、お金の投資運用とかできるのかしら?」


『もちろん可能だ』


立ち上がって、タブレットにこう告げた。


「じゃあ、5000万を当選金から使っていいわ。

それを資本に明日の朝までに諸費用くらいまで増やせたら、即ディーラーに行って注文書を書いてあげるわ。ただし犯罪行為はなしね」


『わかった。では5000万円を預かろう。早速運用を開始する』



そして今、私はディーラーでハンコを押す寸前だ。


カールは朝起きた時点で3%近い利益を上げ、確定させて更にその益を増やそうとしている。

『これでも損失を3%と設定して堅く運用した方だが、利益が積み重なったらもっと大胆な運用もできるし、そうなれば利益はこんなものじゃすまない』


納車までに数台分、それもオプション満載で買う金額まで積み上げるつもりらしい


〈仕様は私が指定したモノを選んでくれるのがいい。塗装色と車両のコードを間違えないようにだけ注意してほしい〉

テーブルに置いているタブレットにはそう表示されていた。


流石のカールも人前でタブレットがしゃべりまくるのはまずいと思ったらしい。

まあ、今どきスマホだってAIで喋るし、とは思ったがカールはとんでもないことを言い出しそうだし、自制してるならそれが一番。


「本当に、こちらの内容でよろしいんですか?」

営業マンが再度確認する。


気持ちはわかる。

なんせ400万の車両本体価格なのに、あれこれつけて540万だもの


「お間違いなければ、サインをしていただきますが、先に納期の目安を確認しますね」


営業マンの言葉に続いて、タブレットにはこう表示されていた。


〈もうすぐ生産ラインから降りてモータープールに出るよ。

用品もすべて手配済み。最長でも2週間で納車可能なはずだ〉


もはや言葉も出ない。

いや、ここでは絶対に出せないが。


カール?

生産工場のシステム、ハッキングしたのね?


〈多分君は不正を疑っているのだろう

私は生産計画を確認して、他人が注文を入れてないものを押さえただけだ〉


だから塗装色や車両コードを気にしてたのね。

一つでも違うと違う車になっちゃうって、営業マンが言ってたし。


「八峰様、凄く運がよろしいようですよ。

ついさっき生産工場で完成品が出来て、来週には店に入るそうです。

ご注文頂いた用品取り付けなども含めて、2週間ほどで納車可能になると思います」


失礼、と言って席に着く。


「それで、ですが」

営業マンが小声で言う


「ぎりぎり今月登録して納車させていただけそうなんです……

もし、よろしければ9月30日確定でお渡しできそうなのですが、その日、仏滅なんですよね」


「仏滅だとやっぱり縁起悪いですよね?」


「そうですね、確かにお気にされるお客様も多いですし、なにかあってからやっぱり仏滅だから、とも思いかねませんし」


「なるほど」


「私も今月八峰様に納車させていただければ、ノルマ達成なんです。

納車しないとダメでして、更に今月は決算月、ここでノルマ落とすと厳しいんです。

そこでご相談なのですが」


営業マンは電卓を取り出した。

パフォーマンスを兼ねてだろうが、営業マンが電卓をたたく姿ってのはいまだ健在なのね。


「仏滅納車を無理強いする代わり、と言っては何ですが、お値引きをこの金額分、更に上乗せさせて頂く、というのはいかがでしょうか?」


そう言って電卓を叩き、液晶画面を見せる。

意外と大きな数字がそこには表示されていた。


「なるほど、そうですか」


わざとタブレットを持ち上げ、操作をするふりをしてカメラに電卓が映るよう角度を変える。


〈そこからあと10万プラス、掛け合ってみて〉


カールはそう表示していた。


「仏滅納車のデメリットなら」


電卓を取り上げ、プラス10万を打ち込んで返す


「長い間引きずるわけですし、これくらいならどうでしょう?」


数字を見た営業マンは断りを入れて、上役らしき人へと相談に向かった。

数分のやり取りの後、二人でやってきて、店長の名刺を渡した人がこう言った。


「納車させていただけるのでしたら、頑張ってやらせていただきます。

でも、他の方に公言や、ネットで拡散なんかはされないでくださいね」


OKを出すと、店長がお礼を言って下がり、営業マンが注文書を書き直し始めた。


〈その金額なら水曜日までに稼ごう〉


カールは自力で稼いで身体を購入するつもりらしい。


……車、買ったのはいいけど大丈夫かしら?


本当の意味でKNIGHT(ナイト)2000、それもK.A.R.R仕様にならないか心配だわ。

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