1-50 衝撃の事実
「じゃあエンレイ。大体の方向を教えてくれる?」
「は、はい。確か……あっちだったと思います。」
あの時と大体同時刻だったこともあり、太陽の位置から方向を割り出していった。森の中はろくに目印なんてものがあるはずもなく確実性には欠けるかもしれないが、それでも大体東西南北の中で四分の一程度には絞れる……はずだ。
確か太陽を右手にして進んでいったはず、と伝えれば、クロユリさんは『じゃあそっちに行ってみよう』と首を縦に振った。
…………
歩いても歩いても木、木、木。一向に塔らしき建物は見つけられず、ただ単に現れた普通のガイストを狩っているだけ。
日は真上に移動して、チリチリと頭皮が温かくなってきてすらいて。こうも進展がないと気が急いてきてしまう。
「あの時よりもずっと長い時間歩いているはずなのに、何で辿り着けないんだろう……」
「エンレイ、ちょっと休憩しよう。喉も乾いたし、もしかしたら休んでいる間に何か思いつくかもしれないし。」
「そう、ですね……」
クロユリさんの提案に乗り、私たちは一際大きな木陰を背に並んで座った。
「じゃあお茶を飲みながら……今一度、進化系ガイストと出会った時のことを詳しく教えてくれ。なに、世間話の一環として気楽に話してくれればいいからさ。」
「は、はい。」
お茶を一口含んでから、フッと一息吐く。そうしてから、あの時のことを頭に浮かべた。
「ええと、あの時は……」
突然ロートの進化系ガイストが出てきて、誘導されるように森を進んでいって、バチンと音が鳴って、そうしたら急に塔が現れて……
「ん? 音?」
「あ、はい。すごく大きな破裂音が……」
「……それが鍵なんじゃない?」
「ハッ! 確かに! 今日とあの時の違いはガイストに誘われたことと、その音ですもんね!」
何故今までそのことに気がつかなかったんだろう。ただただ思いつけなかっただけだけなのか、気付かせない『何か』があったのか。
進化系ガイストに誘われたから見つかったのか、はたまたその音があったからこそ見つかったのか。そこまではまだ分からないが、音を頼りにしてみるのは一つの手かもしれない。
「それにしても、音、かぁ……。音がした瞬間に塔が現れたっていうのも、普通じゃないし……まるで超常現象みたいだ。」
クロユリさんの呟きに私は苦笑いを零してしまった。
「魔法こそがその超常現象の最たるものなんですけどね。」
「じゃあその音は魔法で生み出されたもの、ということか?」
「ウーン……でも魔法で音を出すなんて、一体どの属性でしょうか?」
「音、音……」
二人でウーンと首を傾げる。属性の中で音に関係しそうな魔法と言えば……?
「ロート、ブラオ、ゲルプ、グリュン、オランジェ、リラ、シュヴァルツ、ヴァイス……」
どれも『バチン』と破裂音がしそうな魔法ではない。どちらかと言えば『ドン』という爆発音の方が想像しやすい。ほら、ガイストを倒す時のイメージで。
「音だけでなく、急に塔が現れたっていうのも超常現象……言い換えれば魔法的と言ってもいい。」
「そうですね……」
一応己が持つヴァイス属性魔法で似たようなことを起こせないかと考えてみる。ほら、他の人より扱える魔法の種類が多いし。
「赤のライト、青の治癒、緑の太陽光、赤紫の毒無効化、黄色の閃光、白の浄化。ウーン……あ、」
「エンレイ?」
「待ってください! 今衝撃的なことに気がついてしまいました!」
「というと?」
「そもそも私、六つしか魔法を習得していません!」
「え、そうなのか?」
私も今指折り数えたからこそ気がつけたが、それをしなかったら一生思い出さなかったかもしれないくらいには忘れていた。
それもこれも、ガイストの大群襲来の後、黄色の閃光魔法を使った使わないのやり取りをした時にツユクサさんが『エンレイが習得する最後の魔法』と紹介していたから……ああ、いや、ツユクサさんだけのせいではないな。確認しなかった私も悪い。
「はい! 何色が欠けているのかすら分かりません! 習得したのは赤のライト、青の治癒、緑の太陽光、赤紫の毒無効化、黄色の閃光、白の浄化。ほら、六つしかない!」
「ひぃふぅみぃ……確かに一つ足りない。ええと、光の三原色的にいえば……空色が足りない、かな。」
フム、さすがクロユリさんは博識だな。空色……空色、か。色の名前を聞いただけでは、それがどんな魔法なのか見当すらつかない。何せ緑色で太陽光とか、魔法と色が関係していないことが多いから。
「これは今日家に帰った時にツユクサさんに聞いてみます。」
「そうしたほうが良い。もしその空色がガイスト殲滅において重要な魔法だったら、一刻も早く習得しなければならないだろうし。」
「はい。」
「……まあ、とりあえず、今どうにもならないことは置いておいて。このまま歩き続けていても、急に現れた原理を理解するまでその塔とやらは現れてはくれないだろうし、ひとまず街に戻ろう。」
「分かりました。」
「辿り着くための特別な順路があるのか、魔法的な何かがあるのかを調べてから、また来よう。」
「そうしましょう。」
…………
帰路に着く私達は、森を抜けて草原地帯を進む。するといつものようにガイストが二体現れた。
「俺がやっておく。」
ブラオのガイストなら私は魔法が使えないな、とまさに今短剣を取り出したところで、クロユリさんがサッとシュヴァルツ属性魔法を放って倒してしまった。
まるで暗闇を操ってガイストを飲み込んでしまうような、そんな他にはない倒し方は何度見ても目に新しい。
「ほわー、やっぱりどの属性のガイストも魔法で倒せる、というのはいいですね。」
間近で素晴らしい魔法を見てしまえば、私ももっと頑張らないと、と心が沸き立った。
「エンレイの属性でソレに該当しそうなのは黄色の閃光魔法、だっけか。一日でも早く習得できたらいいね。」
「はい! 今のクロユリさんのすごい魔法を見て、より一層気合が入りました!」
「ハハ、呪いなんて忌避される魔法をすごいの一言で済ませるエンレイもエンレイだけど、そう言われるのは悪くないね。」
和やかに会話を続けていると、視界の端に何か動くものが見えた。それはクロユリさんも同様で、二人の間に緊張感が走った。
「あ、他の隊員がガイストと遭遇しているみたいだね。」
「そうですね。……あっ! 隊員さんの背後からまた別のゲルプガイストがっ!」
「あ、ちょ、待っ!」
それを認識してしまえば早い。クロユリさんの焦ったような声に反応する前に私はわき目も振らずにその方へと駆けた。しかし私よりも背後のガイストの方が一歩早く。レンガのように固いゲルプ属性魔法が隊員さんを掠める。
「っ、」
とにかくガイストを倒さなければ攻撃は止まない、とガイストがいる方を振り返ると、どうやらクロユリさんが倒してくれていたらしい。そこにガイストは既にいなかった。
「大丈夫ですか!」
「っ、ああ。って、次期総指揮官!?」
「今はそんな肩書きどうでもいいです。怪我したところを見せてください。」
隊員さんの背中は服も切れて血も滲んでいた。とにかく今は治療しなければ、と隊員さんに向けて青の治癒魔法をかける。
「もっと私が早く気がついていれば……」
「い、や……治してもらえるだけでありがたいです。背後から来たガイストに気付けなかった俺の落ち度ですから。」
「でも……」
「というか、こうして治してもらうのは二度目ですね。」
「え? ……あ、あなたは大群襲来の時の!」
ジッと隊員さんを見つめてみると、確かに見覚えのある顔だった。
「そうです。お久し振りです。あ、俺は薄紅 アオイっす。」
「白花 エンレイです。」
「ハハ、それは知ってます。……それはそうと治癒の精度、上がってますね。さすがです。」
「ありがとうございます?」
「ハハ、褒めてるんですから自信持っていいんですよ。」
そう言って笑った薄紅さん。しかしそれもすぐに落ち着き、ハッと何かに気がついたように私の顔をジッと見つめてきた。
「……あれ、目の色、変わりました?」
「え!?」
薄紅さんに思わぬ指摘を受け、私は声が裏返ってしまったのだった。




