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八ツ色物語〜失われたヴァイス属性魔法を駆使して平和を掴み取ってみせる!〜  作者: 君影 ルナ
いっしょう

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1-48 揺れ動く心

 ──私の生き写しのような姿で。


 そう言葉にしてからいくつ秒針が鳴っただろう。そう思うほど長い時間、沈黙が続いたような気がする。いや、もしかしたら一瞬の出来事だったのかもしれないが、それでも体感は一時間くらいは経っている。


 誰か、何か話して欲しい。そう願うほどには、この沈黙が心臓に悪かった。


「……エンレイ、あなたにはご兄弟が?」


 痛いほどの沈黙を破ってくれたのはツユクサさんで。私はホッと息を吐いて、それから喉を振るわせた。


「……いえ。一人っ子です。私を産んだことで、これ以上化け物を量産してはいけない、と親は思ったようです。」


「ご親戚は?」


「そ、れは……分からないです。ほら、あの時の私は化け物という位置づけだったので碌に外に出されたこともなく、何ならすぐに捨てられましたから。」


「そう。……見た目について、もう少し詳しく教えてちょうだい。私の方で少し調べておくから。」


「分かりました。ええ、と……顔立ちは本当、鏡を見ているかと思うくらい私にソックリで。それで、髪は真っ白で相当長くて、あと一瞬見えた目の色は私よりも淡い……そうだな、空色みたいでした。相当濁っていたけれども。」


「……そう。分かったわ。じゃあさっそく私は少し調べてくるわ。白花家にはたくさんの書物が残されているから、何か分かるかもしれない。」


「よろしくお願いします。」


 何も分からない、というのはそれだけで恐怖だ。だからこそ、少しでもあの少女について知ることができたら良い。そして何故ガイストはその子のことを私に見せたかったのか。何を伝えたかったのか。それもあの少女について調べれば分かる気がした。直感だが。


 あとは、そうだなぁ。もし私の血縁者だったら、少し嬉しいかもしれない。そういう縁が薄い人生を送ってきたから。


 そんな淡い願いが叶いますように。そう手を合わせるのだった。


…………


 あの後ツユクサさんが退室して、しばらくはまた沈黙が続いた。まだ皆さん脳内処理が追いついていないのだろう、と己を納得させてはキョロキョロと視線を泳がせてみたり、手遊びに興じてみたり、いつの間にか用意されていた紅茶に手を付けてみたり。


 そうして静かな時間をやり過ごしていると、ようやく一人、意識が現実に戻ってきたらしい。漆黒の髪がサラリと流れた。


「……エンレイが現れてからガイストの大群が襲ってきたり、見たことのない姿のガイストが現れたり。エンレイとガイストの間にはすごく因縁めいたものを感じるな。」


「……。」


「でもだからこそ、これをキッカケにカナカ軍の悲願が叶う日が近いうちに来るんじゃないかっても思う。」


「クロユリさん……でも、もしそうだとしても、また大群が襲い掛かってくるようになったとしたら、もし今以上に戦いが苛烈になってしまったとしたら、きっとまた多くの負傷者が、犠牲者が、出てきてしまうんじゃないかって……そしてそれが私の存在のせいだとしたら……」


「うん、」


「……ちょっと、怖いです。」


「そっか。でもここは……カナカ軍は、戦うための居場所だ。だからそれは悲願達成のためだと割り切れ。」


「……はい。」


 己の命はさほど重要じゃないから、いつ相討ちになってもいいと思う。それこそ悲願達成のために死ねと言われたら命を差し出せるくらい。


 でも、他の人の命が散る様子は見たくない。私がいたからこそ戦いが激化しただなんてことになったら、己を責めて責めて死んでしまいたくなってしまうだろう。


 役目を全うするという意志は強いが、ちょっと今、心が揺れている。私のせいで、とか考えて。


 でも私は次期総指揮官なのだから、そんな弱音なんて吐いていられない。どうにか、どうにか心を強く持って……


「大丈夫。俺達がついている。皆で頑張ろう。」


 自分を追い込もうとしたその時、それをほぐすようにポンと頭を撫でられ、大丈夫大丈夫と呪文のようなクロユリさんの言葉が私に染み入ってきた。


 そのおかげで今までキッと張っていた緊張感が解け、肩の力もシュルルと抜けていった。


「さて、一段落したところで……あれ?」


 クロユリさんはそこで言葉を途切れさせてキョロキョロ辺りを見回した。私もそれに倣って部屋を見てみると、あら不思議、あとの三人の姿がいつの間にか消えていたのだ。


 いつの間にいなくなったんだ……? 私が、もっと言えばクロユリさんすら気付かない間に部屋を出ていたなんて。


「……気を遣わせたかな。」


 私が驚いている間にもたらされたクロユリさんのその呟きが、この静かな部屋に反響した。


…………


──ラナンキュラスside


「ちょ、ちょ、サクラちゃん待って!」


「ギンヨウ五月蝿い! もう少し静かに出来ないのかしら!?」


 俺たちは小声で話しながら一足先に談話室を抜け出してきた。……というより、サクラに腕を引き摺られて、と言った方が正しい気がする。ウン。


 あの時、予想外な事実を聞いて飛んでいた意識がハッと現実に戻った瞬間に目にしたのは、クロユリサマがエンレイの頭に手を置いたところだった。


 そしてその二人の様子を見たサクラが、脊髄反射的に俺たち二人の腕をムンズと掴んで部屋から連れ出した、というわけだ。


 ある程度あの部屋から遠ざかったところでサクラはその手を離してくれた。フゥ、サクラのやつ、随分と馬鹿力なこった。


「ラナンキュラス? 何か言いまして?」


「は、ハハハハァ!? 別に何も無いし! 馬鹿力とか思ってないし!」


 つ、ツユクサさん然り、サクラ然り。どうしてこうも女性は察する能力に長けているんだろう。思わず焦ってしまったではないか。


「ラナンキュラス~? 馬鹿力とはどういうことかしら~?」


 ニッコリ笑顔なのに、ひたいに幾つも青筋を浮かべたサクラの姿は……ほら、あれだ。ええと、……般若。そう、ソレだ。般若みたいだったんだ。身が竦む思いとはこういうことか、だなんて要らない経験をした。


「ゴホン、まぁ、初犯は見逃すわ。で、あなたたちは一体何を聞きたいのかしら?」


「わぁ、サクラちゃんはエスパーなの~?」


「あなたたちが分かりやすいだけよ。で、何?」


「そんなの一つに決まってる! 何故俺たちをあの部屋から連れ出したんだよ!」


 俺が聞きたかったことをぶつけるとギンヨウは『それそれ、僕も聞きたかった~』と首も縦に振って賛同し、サクラは呆れたようにハァとどデカいため息を吐いた。


「これだから鈍ちん共は……」


 それから聞いたのは、『エンレイがクロユリサマに淡い恋慕を抱いているらしいから気を利かせて二人きりにしてあげた』ということで。


「いや、それ……ただのお節介じゃね?」


「何言ってんのよラナンキュラス。あのエンレイが誰かにドキッとするなんて……これで念願の恋バナが出来るんですもの! 私のためにも、協力しないわけないでしょう!」


「結局自分のためか!」


「勿論! ずっと憧れていたジョシカイで恋バナができると思えば、私なんでもいたしますわよ!」


 今までランクS唯一の女性ということで、少し寂しい思いをしていたのかもしれない。サクラがそういった繊細さを持っているとは思えないけど、それはまあ、ほら……


 って、何サクラを擁護しようみたいに考えているんだ俺は!


 ブンブンと首を横に振って、寒気がするような考えを吹き飛ばす。


「へぇ。」


 ウッワ、なんか俺が色々考え込んでいる間にギンヨウの様子がおかしくなっていたらしい。地を這う声ってこういうのを指すんだな、と知りたくなかったことを一つ知ってしまった。


 ギンヨウ、いつものユルユル~な雰囲気どこ行った! そう言ってしまえたらどんなに楽だったろうか。


 ……ねぇ、俺って苦労人枠に入れられちゃってない? 俺はむしろ周りを振り回す方だと思うんだけど。


 実に気に食わない。

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