1-47 新情報
「で、エンレイ。何がどうなってクロユリ様の言うようなことになったのかしら? 人に触れられるのが苦手、というわけでは無かったわよね?」
言わなきゃ、駄目ですかね。……ああ、はい、駄目ですね。分かりました。言いづらいことだからなるべく言いたくはなかったけど、サクラさんの眼力には負ける。
それでもちょっと理由を言うのが恥ずかしくて、サクラさんに耳打ちする形で何とか許してもらおう。
「クロユリさんとかくかくしかじか……」
サクラさんに伝えるだけでも何故かあの時のことを思い出しては恥ずかしくて、カッカと火照ってしまう。
「……まあ、まあまあまあ!」
そしてサクラさんは何故か嬉しそうに、楽しそうに、私の言葉に対して目を輝かせた。
「それなら仕方ありませんわね! じゃあギンヨウを呼びましょう!」
掌を返すようにヨウさんを呼ぼうと言い始めるサクラさん。はて、今の一瞬に何があったのか。
でも変なことは言ってないはずだし、その掌返しに思い当たるコトなんてない。はてさて……?
「そうと決まれば、」
サクラさんは右手を上に挙げ、ロート魔法を空に向かって放った。多分目印とか合図のような役割なんだろうことはすぐ分かった。
「……いや、待てよ? そもそも私風邪も熱もないので、わざわざ運んでいただく意味がありませんよ? 普通に歩いて帰ります。」
「いや、それが本当だとしても倒れていた事実は変わらないだろう?」
クロユリさん、余計なことは言わない方向でお願いしたいです、ハイ。
「エンレイ倒れてたの? それは聞いてないわよ?」
ああほら、ギロリとサクラさんに睨まれてしまったではないか。サクラさんの耳に入ったら大変なんだから。絶対安静とか言い渡されるに決まっている。前例もあるし。
だからどうにかそんな状況にならないようにしたい。ムムム、と顔をしかめながらそう考える。
「エンレイちゃん、見つかったの~?」
するとヨウさんがこちらへ向かって軽やかに走ってきた。……ラナンキュラス大先生を背負って。
……? ……、……?? 何がどうなった???
「おいお前! なんでこうもランクSを振り回し続けるんだ馬鹿モノ!」
ヨウさんに背負われたままのラナンキュラス大先生が私を罵倒してくる。背負われたまま、というのはちょっと威厳がない感じで……ゲフンゲフン、何でもありませんとも。だからギロリと睨まないでラナンキュラス大先生!
「また厄介ごとに首を突っ込んで! 巻き込まれるこちらの身にもなれ馬鹿モノ!!」
その発言に対しては声高々に『冤罪だ!』と言い返したい。だって私自らが望んで厄介ごとに突っ込んでいったわけではないから。……ロートの進化系ガイストを追いかけたのは私の意志ではあるけど、それは、まぁ、ほら……
ゴホン。そういうわけで、声に出したら二倍三倍の説教が待っているからなんとかソレは喉で押し留めたけど、その不服さはどうやら顔に出ていたらしく。ラナンキュラス大先生はより一層あーだこーだ言い始めた。
「でも私、そのおかげで新情報を掴んだんですけど。」
聞きたくないんですか? と問いかけてみると、そこにいた四人ともが緊張を露わにした。
「エンレイ、」
「勿論話しますよ。私一人じゃあ考えきれないですし。」
進化系ガイストのこと、どこかの塔に眠る私の生き写しのこと、その生き写しが目を覚ましたところで意識が途切れたこと。
「……まあ、それは腰を落ち着けさせてから聞きましょう。」
まさに今新情報を伝えようとしたその時、サクラさんがそう誘導する。
「確かに、ここじゃあ落ち着けないし、良い意見も出ないかもね~。」
「ならさっさと帰るぞ!」
ヨウさんとラナンキュラス大先生もそれに賛同して、いち早く歩き出した。……まあ、ラナンキュラス大先生は未だ背負われたままだったのだけれども。それに触れてはいけないのだろうか。
サクラさんもクロユリさんも当たり前みたいにスルーするから、その話題に触れて良いのか判断できない。……安全策をとって、後で他の人にコッソリ聞いてみよう。ウン、そうしよう。
「ギンヨウ! ゲルプ魔法で担架みたいなものを作ってちょうだい! エンレイを乗せるから!」
油断していた時を狙ったかのようにサクラさんがヨウさんにお願いする。ちょっとサクラさん! またその話に戻るんですか!
ここからヨウさんを説得して、歩いて帰れるようになるまでしばらくの時間を要したのは想像に難くないだろう。
…………
進化系ガイストを追いかけた時よりも、生き写しと対面した時よりも、私は健康であると皆さんに根気強く説得し続けたことに一番労力を使ったと思う。
そんなこともあり、白花家に帰ってきてすぐ風呂場に押し込まれ身綺麗になった後、ゲッソリと疲れた顔を隠すこともなく談話室のソファーに深く座り込んで体力回復に努めていた。
「……で、エンレイ。新情報とは一体何なのかしら?」
この談話室には私を探してくれていた四人も同席している。それと、ツユクサさんも。
そしてサクラさんの言葉が呼び水となり、お三方も口々に『一体何を掴んだ』などと聞いてきた。
ノロノロと姿勢を正し一つ息を深く吐いてから、私は体感でさっき起こったことを話していく。
「……ええと、まず、私は森のガイストを討伐するべく歩き回っていました。そうしたら今まで見たことのない姿をしたガイストが現れたんです。」
そこまで言って一度深呼吸する。ちょっと自分でも頭の中を整理しながら話したくて。
そしてまだ新情報の一端しか話していないというのに、皆さんの動揺は相当なものだった。
「見たことがない、って……どういうこと?」
その動揺からいち早く抜け出したヨウさんがそう問うた。
「ええと、そうですね……いつものロートのガイストに体がついた、みたいな? 私は頭の中で進化系、と呼んでました。」
「大きさは?」
「体の分、少し大きかったかと。」
「魔法の精度は?」
「すみません、そこまでは……でも、威圧感はいつものガイストと比べると頭一つ分抜きん出ていたとは思いました。」
「へぇ……で、エンレイちゃんはそのガイストに襲われて倒れていたの?」
「いえ、それは違いますね。実際火の玉が降ってきたのは一度だけで、それも私を殺すためのものではありませんでしたから。」
あのガイストは、私を殺すためではなく生き写しを見せたくて目の前に現れたんだろうから。
「ガイストが人間を見て殺しにかからなかった、と……?」
ようやく動揺から脱したラナンキュラス大先生がそう呟いた。
「あのガイストは私を殺すことよりも伝えたいことがあったみたいで。」
ようやく皆さんの動揺も解けてきたらしい空気を感じた私は、次の情報を開示した。
「伝えたいこと? というか、ガイストに『人間を殺す』以外の思考ができたっていうの?」
「そう、それだよ! 一番おかしいのは!」
クロユリさんもラナンキュラス大先生も、思い思いに疑問をぶつけてきた。
「はい。あのガイストは急に現れた塔へと私を誘い、そしてそこに眠っていた人間を見せたかったみたいです。」
「人間?」
「ええ。人間です。それも……」
──私の生き写しのような姿で。
四人分の息を呑む音が室内に響いた。そうだよね、そうなるよね。私も見た時にそうなったもの。
そしてそれが何を意味するのか、私には分からなかった。だから皆さんにも聞いて欲しいと思ったんだ。一人で考えるには少し、衝撃的すぎて。
だから今、皆さんに話したことでちょっとだけ心がスッキリした。それだけでも話した甲斐はあったと思う。




