1-38 白の制服
「今日はどんな一日だったのかしら?」
いつものように美味しい夕食を摂りながらツユクサさんにそう問われた。
「今日は華橋さんと、後は何故かベラさんとも一緒にリラ属性の毒について調べていました。まさか華橋さんの生み出す毒が研究所の名前と同じ花の毒成分だったとは思わなかったです。」
「へえ、そんな偶然があったのね。」
「はい。」
「でも、そうね。その研究を続けていれば、何かガイストを滅するための光が見つかるかもしれないからね。ほどほどに頑張りなさい。」
「はいっ、頑張りますっ!」
私の返事に満足したようにフフフ、と笑ったツユクサさん。
「ああ、そうだ。話は変わるけれども。もし明日以降ガイスト討伐に向かうのなら、カナカ軍と一目で分かるように制服を着て行きなさいね。」
「制服……!」
ツユクサさんから告げられたその一言で、私はワッと歓喜した。だって、それって、私の夢にまで見た、あの……
「制服はあなたの部屋のクローゼットに入れておいたから。」
「食べ終わったらすぐ見に行きます!」
「フフ、そうしなさい。ハハハ、」
私の上機嫌ぶりが相当面白かったのか、ツユクサさんは今までにないくらい声を上げて笑い出した。でも私がそうなるのも当たり前なのだ。仕方ない。
今までの私は魔法が扱えないと思い込んでいた。だからカナカ軍に入ることも絶対叶わず、地獄で生き続けるしかできないと思っていた。
だからこその、歓喜。
…………
夕食をきちんと摂った後、小走りですぐに部屋に戻った。そしてやることと言ったら、
バタン!
クローゼットを開ける一択でしょう!
そこには私のクローゼットにある、という意味では見慣れない、しかしガイスト狩りの時に他の隊員が着ている姿はよく見ていた、カナカ軍の制、服……
「……あれ?」
白の詰襟に、膝上のプリーツスカートがハンガーに掛かっていた。私の知っている制服とは色が違う……?
普通黒と属性の色が混ざった色の制服だったはず。だから私の制服は黒プラス白、つまり灰色になるはず。
「……?」
……まあ、ツユクサさんが用意したらしいから、きっと何か意図があってのことなのだろう。多分。
ただ、あれだな。真っ白だと……汚れが付かないように着ないとな、だなんて緊張するよな……。
特に私の戦い方って魔法だけでなく、というより何なら短剣を使って、の方が多いし。
ほら、一応全般的に魔法は習得したけど、ぶっちゃけガイスト相手に通用しそうな魔法って無いし。
黄色魔法……つまり閃光魔法はあの時、ガイストの大群が押し寄せてきた時の一回だけ成功して、でもあれは無意識だったから今使えと言われても再現できない。
あとガイスト相手に仕えそうな白魔法……つまり浄化魔法は一度も使ったことがない。ツユクサさん曰くヴァイス属性なら白魔法は潜在的に使い方が分かるらしいけど、今のところサッパリ分からないし。
「そうすると青の治癒魔法で他の隊員を治療するか、やっぱり短剣で特攻するかしかないんだよなぁ。他の赤魔法……つまりライト魔法なんて、一生使わないよ。だってガイストは昼間しか現れないんだから。」
ヴァイス属性の存在こそがガイスト殲滅に絶対必要なのだと言われたけれども。でもガイスト狩りという意味ではヴァイス属性の魔法はほとんど無意味なんだと改めて実感する。
「……この制服は汚してもいいものなのか聞いてから、私の戦闘スタイルを決めた方がいいかもね。」
青の治癒魔法か、短剣での特攻か。どちらかと言えば己自身の力でガイストを葬り去りたいから、後者がいいんだけど。
まあ、明日の朝、ツユクサさんに聞いてみよう。そう決めて今日のところは眠ることにしたのだった。
…………
「あ、この制服? 汚れとか気にしなくていいわ。何故他の人は黒混じりなのに、って? よく思い出してみなさいよ。ランクSの皆は黒混じりの制服じゃあないでしょう?」
朝になってツユクサさんに昨日の疑問をぶつけてみると、そう答えが返ってきた。
あれ、そうだっけ? 皆さんの制服姿は何度も見ていた気がするが、あまり服装を気に留めて見たことがなかったから記憶に残っていない。
「……あれ、その理論で言うと、私もランクSってことになりません?」
「ええ、それは勿論でしょう? だってヴァイスなんてレア属性、一般隊員に埋もれさせる意味はないからね。」
「え……」
そんな、属性がレアってだけでランクSになってしまうの?
実力主義の集団において、そんな特例が許されていいの?
こんなペーペーに?
色んな疑問が沸いては募って、それらに押しつぶされそうになった。
「というか、次期総指揮官であるあなたが一般隊員と同じでは、示しがつかないでしょうに。」
「で、でも……」
「でもも何もありません。それとも何です? もう怖気ついてしまったの? あなたは役目を全うせずに放り出すつもり?」
「っ!」
「そう、それなら見込み違いだった、というわけね。」
「……、」
ああ、そうだ。私には役割を全うしなければならない。役割こそが私の生きる意味なのだから。
それを『己の自信のなさ』でほ放り出してしまうところだった。ツユクサさんの言葉でハッと大事なことに気付かされた。
「申し訳ありません。その役目、全うさせてください!」
目の前がパッと晴れたような。そんな心持ちでそう宣言すると、それまで険しい顔をしていたツユクサさんの眉間と頬がフッと緩んだ。
「……フフ、若者に気付きを与えるのも大人の役目。その調子で頑張りなさい。」
「はいっ!」
まさか発破をかけるために、敢えて……?
「まあね。」
いつものように脳内に返事をもらい、いつもの雰囲気が戻ってきた。
「さ、お説教はこれくらいで。今日も有意義な一日にしなさいね。」
そのことに内心ホッと安堵し、私はここ一番の大声で返事をした。
「はいっ!」
…………
今日は誰とも会う約束はしていない。そして休めと言われてはいるがガイスト狩りを制限されたわけではない。もっと言えばこれ以上ガイスト狩りをサボっていたらきっと体が鈍ってしまうだろうから。
唯一の特技すら失ってしまったら、ガイストを己自身の手で殺せなくなる。それだけは阻止したい。
だからこそ、今日は丸一日ガイスト狩りに行く。
そんな思いを心の中にしまい込んで、私は街とを隔てる門を通り過ぎた。
「さて、黄色の閃光魔法と白の浄化魔法を練習しがてら、無理そうならいつも通りこの短剣で始末して、だね。」
一応全色の魔法を学んだとはいえ、実際は黄色と白魔法の習得には至っていないからね。
黄色は一度使ったらしいけれども、その時のことは全くと言っていいほど覚えていないし、白はクロユリさんに対して使う前に彼自身が呪いを解いてしまったし。
ツユクサさんは白の浄化魔法の使い方は本能的に分かっているはずだ、と言っていたが……
「お、アレは珍しい。リラ属性のガイストだ。あれなら赤紫色、つまり毒無効化魔法を打てばもしや……」
ガイストはウジャウジャ湧いて出るが、基本はロート、ブラオ、ゲルプ属性のガイストの出現率が高い。
頻度で言えば二色のリラとグリュンは稀、オランジェはほとんど見たことは無いし、シュヴァルツは一度も見たことがない。書物にもシュヴァルツ属性のガイストが出現した旨の表記すら見ない。
と、まあ何となくリラ属性のガイストが珍しいことが分かったところで。
私はリラ属性のガイストに近づいていき、既に習得していた赤紫の毒無効化魔法をリラのガイストに向けて放つ。するとソレはシュゥゥと音を立てて消え去った。
「わぁ……魔法でガイスト、倒せた……!」
多分これはリラ属性のガイストだけに通用するのだろうが、それでも魔法を使って初めてガイストを葬り去れたことに感嘆の声が漏れた。
「さあ、ドンドン行こう!」
これは幸先いいぞ、と沸き立つ心を隠すことなく、スキップしながら街からまた少し離れたところへガイストを探しに行くことにしたのだった。




