1-36 いざ、研究所へ
白花家から程近い研究所までの道のりを華橋さんと並んで歩いていると、どこからか食べ物の良い香りがしてきた。
どうしよう、今にもお腹が鳴りそう。
「あ、そうだ。そろそろお昼だし、どこかで食べてからにしない?」
そんな内心を悟られたかのようなタイミングの提案に、私は食い気味に答えた。
「そうしましょう! お腹空いて仕方なかったんです!」
「あはは、エンレイは正直だねぇ。よし、何が食べたい?」
「え、ええと……そうだなぁ、ええと……」
お腹が空いたとは言ったものの、急にそう問われ『食べたいもの、とは……?』と目を泳がせて頭をフル回転させて答えを探す。
が、そうそう食べたいものなんて浮かばなくて。早く答えないと、と気だけが急き、冷や汗がジョバッと溢れ出た。
「あ、じゃあ俺のおススメのお店で良い? 食べられないものとかはある?」
「え、あ、はい! 何でも食べられるので、そこがいいです!」
そして私の混乱を瞬時に感じ取ってくれたらしい華橋さんがそう提案してくれた。良かった、食べたいものとかすぐに出てこなかったから。そう胸をなでおろし、先導する華橋さんに着いていく。
…………
「ここさ。」
そう言って華橋さんが指差した先にあったレンガ造りのお店が件のオススメ『洋食屋 オムム』らしい。
外観といい、店名といい、看板の丸っこいフォントといい、随分と可愛らしいお店だな、というのが第一印象だった。
そんな可愛いを詰め込んだお店に、華橋さんは躊躇なく入っていく。彼の中性的な美貌とこのお店、すごくお似合いだ……! だなんてどうでもいいことを考えながら私もお店に足を踏み入れると、その瞬間フワッと暖かい空気に包まれた。
「いらっしゃいませ~! あ、ライラさんじゃありませんか! お久しぶりですぅ~!」
「リエラ、久しぶり。今日はもう一人連れてきたよ。」
黄色の長髪を靡かせる可憐な店員さんに声をかける華橋さん。その二人のホワホワとしたやり取りを見て、とても親そうで良いなぁ、と微笑ましい光景に目が細くなる。
「わぁ! 可愛らしいお方! ライラさんも隅におけませんねぇ! 羨ましいなこのこのぉ!」
すると話題は私に移ったらしく、私を見るや否やリエラさんはニンマリ笑顔を浮かべて華橋さんを肘で小突いた。
「初めまして。エンレイです。」
どうやら華橋さんはここでも身分を隠している様子なので、私もそれに倣って名前だけを名乗る。
「ご丁寧にありがとうございます。私はリエラです! エンレイさん、改めまして……洋食屋 オムムへようこそ!」
パァァ! と花が咲いたような笑顔で歓迎され、私も思わず笑みがこぼれた。
「ささ、お二人さん! 空いているお席にご案内しますよ!」
「お願いします。」
「はい!」
まるで太陽みたいなその笑顔に癒されながらリエラさんに着いていく。その席は窓側で、外の景色が一番良く見える場所だった。
…………
メニュー表を見てもよく分からないから華橋さんと同じものを頼んだ。どんなモノが出てくるか華橋さんと談笑しながらワクワクしながら待っていると、リエラさんが大きな皿に乗った料理を持ってきてドーンと机に乗せた。
「お待たせいたしました! 我が店自慢のオムライスです!」
ソレはキラキラと輝く黄金色の山に、赤いソースが掛かっていて……ほわぁ、なんかすごい。
「来た来た! 今日も相変わらず美味しそうだね。」
「そりゃあ勿論! この店自慢の一品ですからね!」
エッヘンと胸を張るリエラさん。その自信こそが彼女をキラキラと輝かせているに違いない。そう思わせる佇まいだった。
素敵。私もこうなりたい。そんな願望を内に秘め、リエラさんに促されるままその『おむらいす?』に手を付けていく。
ホカホカな湯気が料理をさらに美味しく彩っている。だなんてどこの詩人だよ、と言わんばかりな感想を抱きつつ、おむらいすを一口スプーンに乗せて、パクリ。
「っ……!」
お、美味しい……!!
この味を言葉に変換するすべを持たない己を恨みたくなるほどに、ソレは美味だった。
「美味しいでしょ?」
華橋さんの問いかけに、取れるんじゃないかと思うくらい勢いよく首を縦に振った。
「口に合ったみたいで良かった。これ、俺の大好物なんだ。」
こんなに美味しいのなら大好物だと言われても納得しかない。そんな確信めいたものを感じながら、しかし食べる手を止めることは出来なかったのは当たり前と言っても過言ではないだろう。
…………
お腹も満たされたことだし、本来の用事のために研究所に向かった。そこで待ち受けていたのは、緑色の、
「やあ、遅かったね。」
スッと特徴的な目を細くして笑い、まるで『驚いたか!』と楽しそうにしているベラさんだった。
そういえばこの二人はあまり仲良くなかったよな、とチラッと隣にいる華橋さんを見やると、ベラさんの姿を目にした瞬間スンッと真顔になっていた。
その表情の変わりようにちょっとビックリして、ベラさんがここにいることに対する疑問は吹っ飛んだのは、まあ、仕方ないと思う。
「何故貴方ほどのお方がこんなところに?」
「ライラったら、冷たいこと言わないの~。お兄ちゃん、寂しいなぁ?」
「……」
ヘラヘラしているベラさんと、そんなベラさんを心底嫌な顔と声で対応する華橋さん。二人の間でバチバチと火花が散っているようにすら見える。
「という茶番は置いておいて。今日はからかいに来たわけじゃなくてね。ほら、二人が企んでいること、あるじゃん? で、薬とか毒って植物からも作れるし、俺、結構役に立つと思わない? だから来た!」
──自分で言うのもアレだけど、俺の魔法ってグリュン属性の人間の中でも随一だし!
お茶目にそう言い放ったベラさん。何ならバチーンとウィンクまで付けて。お茶目……で、いいのかな? 華橋さんの機嫌は最低になってしまっているから、ちょっとその言葉だけで纏めていいのか分からないけれども。
このギスギスした空気、どうしたものか。でもこの二人のやり取りに第三者でしかない私が割り込んではいけない気がして、ひとまず傍観することにした。
すると程なくして、華橋さんはハァーーーとこれでもかと言わんばかりにドデカイため息を吐いた。
「……仕方ない。この人が言って聞くようなタイプでもないし、そういうことで仕方ないので……仕、方、な、い、の、で! ここにいても良いですよ。仕方ないので。」
華橋さんは一体何度『仕方ない』と言うんだろう。相当嫌なのが言動の節々から感じられて、私は思わず苦笑いをしてしまった。
「で、まずは何をどうするつもり?」
「うーん、じゃあ……」
いきなり毒から薬を作ると言っても、そもそも作り方なんて分からない。だからまずは華橋さんがマナを使って生み出す毒の成分を調べようと思う。
ここは研究所ということもあり、器具も揃っているはず。毒を判別するようなモノもきっとあるに違いない。
そのことを伝えてみると、二人はすぐに賛成してくれた。
「それならこの器具を使って……」
研究所の職員である華橋さんが主にテキパキと器具やら何やらを用意してくれて、そしてすぐに華橋さんはマナを使って毒を生成してくれた。




