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八ツ色物語〜失われたヴァイス属性魔法を駆使して平和を掴み取ってみせる!〜  作者: 君影 ルナ
いっしょう

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1-30 届く手紙

 さすがに病人でもない私が『あの子が心配だから』という自分勝手な理由でノコギリ荘に寝泊まりするなんて不可能なので──きっと居座っていたらラナンキュラス大先生に蹴って追い出される未来が安易に想像できた──、夕方になった頃には後ろ髪を引かれる思いで家へと戻ってきた。


 結局お昼ご飯を食べ損ねたので今日二食目となる夕飯をツユクサさんと共に食べていても、意識は名前も知らぬあの子のことばかりに向いていて。そのせいでボーッとしてしまっていて、それを不審に思ったらしいツユクサさんが話を振ってきた。


「何かあった?」


「あ、いえ、そ、その……」


 まさか何か聞かれると思わなくて動揺してしまった。早く返事をしなければと焦って吃る。が、なんとか辿々しくも言葉を並べて今日のコトを順々に話していく。


「そう、そんなことがあったのね。」


 ツユクサさんは私の支離滅裂な言葉を噛み砕いて理解しようとしてくれた。それだけでも救われた気持ちになった。


「はい。見ず知らずの、それも一言も会話していないような人でしたが、どうも放っておけなくて。」


「あらあら。」


「例え知らない人相手でも、私の手の届く範囲にいる人はなるべく助けたい、とその時思ったんです。おかしいですか?」


 そんな聞き方、狡いとは分かっている。でも『そうじゃない』と言葉にして欲しかったんだ。


「いいえ。むしろ誇っていいんじゃないかしら?」


「そう、ですか……」


「正義感に溢れていて、結構結構。次期総指揮官としては良い心構えじゃあないかしら?」


 そう肯定してフフ、と笑ってくれた。己が抱いたこの思いがおかしいことではないと言われ、不安だった心が晴れていく。例え、私が言わせてしまった言葉だとしても。


「でも、それが己の首を締める時もある、ということは忘れないでね。……経験者は語る、よ。」


「それって……」


「さて! しんみりした話はお終いにして、あなたに言っておかなければならないことを思い出したから話しておくわ。」


 ツユクサさんの言う『経験者』とはもしかして彼女自身なのでは、と聞こうとしたが、それを質問する前に言葉を重ねられてしまった。


 聞きそびれたソレは、またの機会に聞けるだろうか。そうだと良いな、と望みを持ちながら話されるコトを待つ。話の展開が無理やり変えられたモノなのはほら、ツユクサさんだからで説明がついてしまう。いつも突拍子もない言動で私たちを振り回してくる彼女だから。だんだん慣れてきたとも言う。


「エンレイも正式に私の娘となったわけだから、あなた専属のメイドを付けようと思うの。候補は何人かいるけれども、あとは本人に決めてもらおうと思っているわ。」


「専属の……メイドさん……」


 まさかそんな話が出ていたとは思わず、呆然としながらツユクサさんの言葉を反芻する。


「そう。私にとってのキンレンカのような人をね。」


 ニッコリ笑顔のまますぐ傍に控えているキンレンカさんに目線を向け、それに応えるように一礼したキンレンカさん。お二人は言葉がなくとも分かり合える存在なのだ、とその行動だけ見ても分かった。


 私にも、そんな素敵な存在ができるのだろうか?


「まあ、急ぐことではないけれども、頭の片隅には入れておいてちょうだい。」


「はいっ!」


 まだ見ぬ相棒的存在を想像して、トクトクと胸が高鳴るのだった。


…………


「エンレイ様。こちらをお渡しします。」


 自室に戻ってからもまだ見ぬ相棒を想像してはドキドキしていた。そんな時にキンレンカさんが部屋に入ってきて紙を……いや、封筒を三通持ってきてくれた。


「ありがとうございます。」


「それにしても、エンレイ様もお手紙を書かれたので? 届けた者が『早く返事を持っていけとせっつかれた』とぼやいていらっしゃったので。」


「そんなことがあったんですか……。まさに今日、手紙を郵便局に持って行ったんです。その返事でしょうか。だとしたら随分早く返ってくるものなんですね。」


 手紙を出したのが初めてだということもあり、想像よりも早く返ってきた手紙に目を丸くする。なんとなく一週間くらいはかかると思っていたから。


 しかし確かにこの早さでやり取りができるなら、いろんな人に手紙を出したくなるのも分かるかもしれない、と郵便局にいたお客さんの笑顔を思い出して納得する。


「いえ、ランクSともなれば独自の郵便術(と書いて専属の配達員)がおります故、ここまで早いテンポのやり取りが可能なのです。」


「ほえー……」


「それに、迅速な情報伝達は生存率にも関わってきます。例えばどこでガイストが出た、とか。だからこそ専属の配達員という特例が許されているのです。勿論、白花家も同様に。」


「ほえー……え?」


 話の流れが少しずつ変わっていくのを感じ取ったが、それがどういう方向へと行くのかが分からず首を傾げる。


「エンレイ様も正式に白花家の一員となったのですから、その特例を行使する権利があるのです。それをツユクサ様もご存じのはず。何故エンレイ様にお伝えしていらっしゃらなかったのか……不思議でございますね。」


 ほう、そんなことがあったのか。まあ、ツユクサさんだからね、ウッカリ伝え忘れていたか何かしたのだろう。なんたって嵐のようなお人だし。


「では、きちんとお届けいたしましたので。私は失礼いたします。」


「ありがとうございます。」


「……私に敬語は不要と何度申せばよろしいのでしょうか。」


「あ、すみま……善処するわ。」


「ええ、そうしてくださいまし。それでは。」


 度々指摘されるそれに、内心『またやってしまった』と項垂れる。これでは次期総指揮官としての威厳もいつまでも身につかないだろうに。


「次は同じことを言われないように……頑張ろう。」


 キンレンカさんが退出していった部屋の中で一人、両頬を一度パシンと叩いて気合いを入れ直す。そうしてから、今渡された手紙を確認していくことにした。


「ええと、黒鳩さんと、華橋さんと、サクラさんからか……」


 まさに今日出したメンバーからの手紙のようだ。まあ、ラナンキュラス大先生のモノは届いていないようだったが。何せ今日も忙しそうにされてたからね。急かすつもりはない。気長に待とう。


 さて、今届いた三通をペーパーナイフで開けていき、さっそく中身を確認する。


「黒鳩さんからは……」


 要約すると、『そんなこと気にしなくていいのに~。でもエンレイが気になるんだったら、俺のことはベラって呼んでよ! それかお兄ちゃんでも可!』だそうな。バチコーンと黒鳩さ……ベラさんがウィンクしている様子が頭に浮かんだのはきっと何らおかしいことではないと思う。


 でも、そうか。ベラさん、ね。今度会ったらそう呼んでみよう。ちょっと目上の方に対してそう呼ぶのに抵抗がないわけじゃあないけれども。了承の返事は書いておいた方がいいだろう。


「で、こっちが華橋さん……」


 こちらも要約すると『明日は討伐任務が入っているから無理。明後日ならどう?』とのこと。こちらは一緒に薬の生成をする約束だったから、日時はすんなり決まった。そうと決まればオーケーだと返事を書いておこう。


「最後にサクラさん……」


 要約すると『対価は既に貰ったから要らない。けれどもまた一緒に買い物に行きましょ! 新作のお洋服が出たらしいの!』とのこと。それは勿論私も行きたいので是と返事を書いておこう。


「さて、と……」


 またまた返す手紙のために、私は筆を取るのだった。

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