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八ツ色物語〜失われたヴァイス属性魔法を駆使して平和を掴み取ってみせる!〜  作者: 君影 ルナ
いっしょう

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1-28 休日の過ごし方

 気合が今一度入ったパーティーもお開きになり、白花家にある自分の部屋に戻ってきた。


 一人になったことで張り続けていた気が抜けたのだろう、ドッと体が重くなり、そのままベッドに倒れこんだ。


「今日はガイスト討伐もしていないのに、なんでこんなに疲れたんだろう……」


 体力というよりも、気を張っていることの疲れの方だったのだろうと当たりをつける。しかしこれから総指揮官としてあのような『人前に出る』場は増えてくるだろうし、慣れていかなければならない。頑張るしかないかー。


 あ、それよりこのドレスも脱いでしまわないと。皺なんてつけちゃあ駄目だもんね。何たって由緒正しいドレスなんだもの。でも動く力ももう残っていないし……。


「うぅ……」


 そうだ、このベッドがフカフカなのがいけないん、だ……寝心地、が良すぎ、て……


「ぐぅ……」


……


「起きてくださいまし、エンレイ様、起きてくださいまし!」


「はっ」


 どうやらあのまま眠ってしまったらしい。キンレンカさんの声で夢から現実に戻された。シャッと開けられたカーテンから差す日差しで目が痛んだ。


 フワフワな雲の上で昼寝をする幸せな夢だったなぁ。でも現実に戻ってきてからよくよく考えたら雲には乗れないよなぁ。まあ、非現実的なのは夢あるあるだもんね。ウンウン……


「エンレイ様、おはようございます。朝の支度のお手伝いに参りました。朝食のお時間までもう少しです。お急ぎくださいな。」


「ハッ」


 いけないいけない、まだ寝ぼけていたらしい。危うくキンレンカさんの言葉を聞き流すところだった。


「そのお召し物はお渡しください。」


「すみません、大事なドレスをクシャクシャにしてしまって。弁償を……」


 目で追える範囲でドレスの状態を確認すると、これでもかと皺がついていた。なんてこった!


「構いません。後で洗濯をしておきますから。」


「それなら洗濯は私が!」


 ドレスって洗濯できるんだ。まずそのことに驚き、それならと洗濯係を申し出る。しかしきんキンレンカさんは首を横に振った。


「いえ、それは私の役目ですので。」


「あ、それは……ではお願いします。何かお手伝いできることがあれば教えていただけませんか?」


 役割を取り上げてしまう。それを思えばこれ以上強く申し出ることは憚られた。それなら私にできることを、と言葉を重ねる。


「ええ、その時はよろしくお願いしますね。それではこのドレスは頂いていきます。後は食堂にいらしてください。では。」


 キンレンカさんは私の言葉をヒラリヒラリと躱しながらクシャクシャなドレスをひん剥き、そそくさと去っていく。私はと言えばその手際の良さに呆然とするしかできなかった。


「……あ!」


 体感的に数秒、呆然としていた意識をハッと戻し、とにかくキンレンカさんの言う通り着替えることにした。ドレスの代わりに置いていってくれたワンピースにモソモソと腕を通し、いつものようにおさげ結いにした髪にサクラさんから頂いた赤いリボンを付け、身だしなみも整えてから食堂へと足早に向かう。


「おはよう、エンレイ。あら、よく眠れたみたいね。顔色が良くなっているわ。」


 急いだつもりだったが、どうやらツユクサさんの方が一足早かったようで。もう席に着いて待っていてくれていた。


「お、遅くなってすみません。おはようございます。」


「大丈夫よ、私も今来たところだったから。」


 気に病まないようにそう言ってくれているのだろうことには気がついているが、その優しさに甘えることにした。


「ありがとうございます。」


「んー? なんのことかしらねぇ?」


 クスクスと笑って誤魔化しているツユクサさんの様子を横目に見ながらいそいそと席に着く。


「さて、冗談はこれくらいにして。エンレイ、今日から一週間はお休みね。」


「……はい? 何故? だって全快したら魔法の練習をって仰ったのはツユクサさんじゃあありませんか!」


「いや、それが私もそう考えていたんだけれども、サクラとベラに言われちゃったのよ。『魔法を一通り習得したら休ませると約束した』って。」


 あ、あれかー……ツユクサさんに魔法とガイスト討伐を禁止された直後にサクラさんやベラさんと交わしたやつかぁ……。いえ、忘れてはいませんでしたよ。ええ。


 ですが、あわよくば忘れていてくださるかと思っていたのですよ、私は。ええ、ええ。あの後も色々ありましたし。さすがランクS、抜かりがありませんね。


 え、何故急に敬語口調になったのかって? そりゃあ、思いもよらないことが起きて動揺しているだけですよ。ええ、本当に。ランクSもこの話に関係あるかと言われればまたそれは違うだろうと指摘されそうですが、まあ、それは置いておいて良いでしょう。


「今度は禁止しませんが、休むことも仕事だと思って一生懸命休みなさい。」


「ムムム……」


「そんな不満そうな顔をして訴えても駄目よ。それにまさか次期総指揮官サマが一度した約束を反故にするはずがないわよねぇ?」


 いつも笑顔を浮かべているツユクサさんだが、それをより一層ニコォ……と笑みを深めて聞いてくる。それを言われてしまえば反論なんてできるはずもなく。休むのも仕事、休むのも仕事、と己に暗示をかけて今日一日を過ごすことになりそうだと予想した。


「じゃあ、話はこれくらいで。友好を深めるのも良いかもしれないわね。」


 いつの間にか食べ終えていたらしいツユクサさんは、何かしらのヒントのようなものを落としてから去っていった。


 友好を、か。そのその言葉を聞いて頭に浮かんだのはサクラさんをはじめ、ランクSの皆さんの顔だった。まあ、今日いきなり声をかけて今日会おうとしても皆さんにも予定というものがあるだろうし、今日は一人で過ごそうか。


 そう決めて一度自室に戻り、部屋にある机に向かった。皆さんに明日以降の予定を聞こうと筆を取るために。そしてその時ふと思い出したのは華橋さんの言葉。


『魔法を教えるのは構わないけど、対価が欲しい』


 そう言えば誰一人にも『対価』を支払わずに魔法を教えてもらっていたんだっけ。なんてこった、そんな重要なことを忘れていたなんて! これは早急に聞かねばならん!


 華橋さんは『一緒に薬を作る手伝い』を対価に欲していたから、感謝の言葉と共にその日程を手紙で問うた。


 その他のサクラさん──彼女に関して言えばツユクサさんが払ったとも言えるが、私個人も何かしたいと思った──、黒鳩さん、ラナンキュラス大先生に対しては感謝の言葉と『対価は何が良いか』を問う。


 自分が書ける一番綺麗な字を意識して記し、その後封をした。


「できた……!」


 四通の手紙を目の前に掲げて暫し眺め、少しの間達成感に浸ってから郵便局に向かうことにした。


 そうと決まれば早い、いつもは髪を隠すためにかぶる帽子を用意せず──ツユクサさんからもこの白い髪色を隠さなくても良いと言われていたから──ドキドキしながら屋敷を出る。


…………


 屋敷を出ようとしたところでツユクサさんにバッタリ会い、郵便局までの地図を書いてもらった。今回はそれのおかげできっと迷子にはならないだろう。そう期待して地図通りに街をテコテコ歩いていく。


「こっちの方向は初めて来たかも……」


 何度か街には来ていたが、それでも今日は初めて来る方向へ行く。だから目に入る景色全てが新鮮で、不審者に見られないギリギリの範囲でキョロキョロと辺りを見回してしまうのも仕方ないと思う。


 観察して分かったことだが、どうやらここら辺は家屋が多いようだ。あちらこちらの家から漏れる生活音で満ちていた。そして近くに公園でもあるのか、子供のはしゃぐ声も響き渡っている。


 この平和を壊してはいけない、と今一度気持ちがシャンと引き締まった。


 そんな思いで満ち溢れている間にも足は進み、木造の建物が立ち並ぶ中に一つだけあるレンガ造りの建物が見えてきた。あれが今日の目的地、郵便局だそうな。


 あの建物だけ随分時代を先取りしたモダンな雰囲気だ。目新しさで気分も高揚してきた。


 建物の中はどうなっているのかワクワクしながら両開きの扉をギィ……と押し開け、足を踏み入れていく。

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