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八ツ色物語〜失われたヴァイス属性魔法を駆使して平和を掴み取ってみせる!〜  作者: 君影 ルナ
いっしょう

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1-27 ランクS

「……さて、こうして私達が友好的なところを見せれば、少しはマシになるかしら?」


 今までの楽しそうな言動から一変、お母様は扇で口元を隠しながらそう呟いた。一番近くにいたからこそ聞こえたそれに、ピンと緊張が走る。


「お母様……?」


「そうだね、これで表立ってエンレイちゃんに難癖つけてくる人は減っただろうね。何せバックにはランクSと統率者が付いてるんだもの。実力者を敵に回してまで行動してくるのは、もう命知らずくらいなもんでしょ。」


 お母様の言葉を聞き取っていたらしいヨウさんが朗らかに笑ってそう返事をする。


 なるほど、そのような意図があって皆さんは友好的に接してくださっていたのか。人に恵まれたなぁ、と感謝の言葉が体を駆け巡った。


「え! そんな意図があったのか! 知らなかったな!」


 まあ、無意識だった方もいらっしゃるようだけど。驚いたように声を上げたミライさんはケラケラと笑った。


「ミライ、いつも言ってますがあなたはもう少し頭を使いなさい。それも統率者の務めですわよ。」


「はぁーい。耳が痛いなぁ……」


 双方の言い方から、毎度お馴染みの忠告なのだろうことが窺えた。ミライさんは脳筋気味、と。脳内にメモを取っておく。


「でもまあ、一部の人間は君のことを既に認めているみたいだね。一体何をしたんだい?」


 ミライさんにおじいちゃんと呼ばれて拗ねていた寒崎さんが復活したらしい。話に入ってきた。


「ええと、特に何もしていませんが……」


「ほら、あの子とか。」


 寒崎さんが目線で指した人を私も見てみると、どうも見覚えのある顔だった。


「あ、あの方は……! すみません、ちょっと外します。」


 あの人の話を聞きたい、と今いる皆さんに一つ断りを入れてからそちらに向かう。


「あの戦いで負傷されていた方ですよね。具合、どうですか?」


 そう、この祝賀会の元となる戦いにて、結構な大怪我を負って倒れていた人だ。なかなかな量の血を流していたからよく覚えている。一応治癒魔法は使ったが完璧に治せたわけではなかったから、心配していたのだ。


「あ、あの! そのことでお礼を申し上げたく!」


「え?」


「あなたの魔法、なのでしょうか。それのおかげで大事に至らずに済みました! もうあの時は死をも覚悟しておりまして!」


 ──だからあなたは俺の命の恩人です! ありがとうございました!


 そう言い切って最高の笑顔を見せてくれる。それだけで私の頑張りは報われた気分になった。あの時は痛みに苦しむ顔しか見られなかったから、余計にそう思うのかもしれないが。


 例えマナの使いすぎで己がぶっ倒れようとも、そのせいでラナンキュラス大先生にコンコンと説教されようとも、この笑顔が見られたのなら。もう何も言うことはない。


「あなたの笑顔を見ることができて、私はホッとしています。こちらこそありがとうございますね。」


 誰かを助けられた……もっと言えば私の手で誰かを生かすことができた。その事実はホコホコと心を温める。頬がだらしなく緩むのも仕方ないだろう。


「あの! 俺も助けていただきました! ありがとうございます!」


「俺も!」


「私も!」


 それを皮切りに、たくさんの人から一生分くらいの感謝の言葉を四方八方から掛けられる。こんなにたくさんの人を助けたんだったっけ?と内心首を傾げてしまうほどには多かった。軽く三、四十人はいたと思う。正確に数えればもっとかもしれない。


 まあ、何せあの時は無我夢中だったから助けた人数なんて数えていなかったけれども、確かにこの人数の怪我を休みなく治し続けたらそりゃあマナも切れるわな。高揚した気分の端っこに居座る冷静な部分がそう納得した。


「エンレイ、あなた今度は何をやらかしたのかしら?」


 そんな話題の渦中に割り入ってきたのはサクラさんだった。彼女の声を聞いた人々が左右にサッと割れ、サクラさんはその間の道を悠々と歩いてくる。わあ、女王様みた……ゲフンゲフン、何でもない。


 それにしてもサクラさん、『今度は』だなんて……そんな私がいつもトラブルに巻き込まれているみたいな言い方しなくても良いのでは?


「いえ、この間の戦いで治癒を使った方々なんだと思います。まさかこんなにたくさんの方を治療していたなんて、自分でもビックリです。」


「ああ、そう。ここに阿保がいるわ。」


 呆れたようにため息を吐きながらキレのある言葉を投げつけられる。


「そりゃあ、マナも切れるわけね。」


「その……阿保って私のことでしょうか。」


「それ以外に何があると言うのかしら?」


「あ、はい、すみません。」


 殺気を纏ったサクラさんにギロリと睨まれ、私は蛙のように縮こまって反射的に謝罪の言葉を並べるしかできなかった。なんか冷や汗が噴き出るんだけど。これが恐怖か。


「やっほ~エンレイちゃん!」


 そしてサクラさんの睨みに怯えていると、緊迫した空気をぶち壊すように軽い声が目の前から聞こえてきた。そう、黒鳩さんである。彼も悠々とこちらに向かって歩いてきたのだ。


 そのおかげで張り詰めていた緊張がフッと解け、意図せず止めていた息が肺にヒュッと入った。そうするとどうなるかなんて、分かりきっている。


「ゲホッ、ゲホゲホゴホッ」


 そう、咽せる。涙目になりながらしばらくゲホゲホヒーヒー言い息を整えようと奮闘していると、ポン、と背中を撫でられた。


「エンレイちゃん、大丈夫?」


 いつのまにか私の隣にいた華橋さんが心配そうにそう聞いてきた。背中の手(仮)も彼のものだろう。ジンワリ温かいそれに、少し咽せが治ってくる。


「だ、大丈bゲッフォンッ!」


「あらあら~大変だねぇ~」


 最後に今日イチの咳を零すと、華橋さんにカラカラと笑われた。こちとら咽せて咽せて大変だったんだぞ、と彼を睨む──先程のサクラさんのようにギロリと、だ──が、ハイハイと軽くあしらわれる。何なら頭をポンポンと撫でられた。


「もしかして、だけど……サクラみたいに睨んだつもりかい?」


「な、何故それを……!」


 そして今度は黒鳩さんにそう問われる。語尾に星でもついていそうな程軽い口調だが、考えていることを的確に言い当てられて酷く動揺してしまった。ついでにトゲトゲした気持ちも霧散した。


「いや、つい今サクラに睨まれていたでしょ? だから真似したのかなーって。どう? 俺、名探偵にもなれるかな?」


「うぐっ」


 黒鳩さんには全てお見通しだったらしい。ぐうの音も出ないとはこのことか、と感心してしまったではないか。ああ、いや、現実逃避はやめよう。


「エンレイは素直で嘘がつけなくて可愛いね。」


 黒鳩さんとのやり取りをジッと見つめていたらしい華橋さんが感極まったようにそう言い、私の頬をプスっと指で突く。そのままプニプニと何度も突かれ、そんなに私の頬は脂肪たっぷりで突き心地が良かったのだろうかと首を傾げたのだった。


 うん、可愛いとか言うワードは聞かなかったフリ聞かなかったフリ。


…………


 その後もたくさんの隊員と交流し、幾つか新しく仕入れた知識があった。


 それはカナカ軍を実質統率するのが何故ランクAなのか、ということ。それは偏にランクSの存在によるのだそう。


 私は全色のランクSと交流してきたからそれが普通だと思っていたが、そもそもどの年代にも全色のランクSがいるわけではないらしい。


 まあ、どの年代にもいるのだとしたら、今現在のランクSの皆さん以外にも老若男女のランクSの人間が存在しなければ辻褄が合わない。ということですぐ納得はできた。


 そしてなんとなんと、七色のランクSが揃ったのはアンファング以来らしい。アンファングはほら、世界を作ったとされる『始まりの魔法使い』のことだ。


 英雄と言われ、何なら神と崇められることもあるアンファングと似た状況ということもあり、我らの悲願である『ガイスト殲滅』も叶うのではないかと期待されているらしい。


 だからこそ、私みたいなちんちくりんが総指揮官であることに不満を抱く人も多いようだった。


 だがまあ、それは私のこれからの行動次第でそこら辺の意識は変えられるだろうから頑張るしかない。


 私が最も欲していた役割のためなら、どんなに辛いことも頑張れそうだ、と改めてそう思った。

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