1-24 疑問
「じゃあ属性について話して……あ、待った。その前に俺って名乗ったっけ?」
初歩の初歩である自己紹介をすっ飛ばしていることに今気がついてくれたらしい。
そうね、今の所この方について知っていることと言えば、周りから『クロユリ』と呼ばれていることくらい。後はシュヴァルツ属性持ち、とか。まあ、それくらいだ。パッと見ただけで分かるような情報が大半だった。
「い、いえ。」
「あーーーだよなぁーーー……すまない、見知らぬやつに親しげにされて、怖かったよな?」
私の返答を聞いてそう項垂れ、気まずいと言わんばかりにガシガシと頭を掻いた後、こちらを向き直った。
「俺はクロユリ。シュヴァルツ属性持ちで、カナカ軍所属。ちなみにランクはS。ええと、後は……何か聞きたいことはある? お詫びと言ったらなんだけど、何でも話すよ。」
あっ……(察し)。そうですか、そうでしたか。まさかこの方もランクSとは思わず、ガツンとカウンターを喰らった気分になった。
それにしても、何でも聞いていいのか。それなら聞きたいことはあるんだよね。でも聞きにくいし、と遠慮していたが──なんなら誰に聞く暇すらなかったとも言う──この機会でなら聞いてもいいだろうか。
「で、では……あの塔はなんですか? 初めてクロユリさんと会った……」
「ああ、あの塔は俺の住処だよ。」
「は? ……え? 明らかに人が住むための場所ではありませんでしたよね?」
あの時は異常事態でじっくり見て回る余裕もなかったが、まさかあんな陰気な場所──さすがに家主に向かってそうは言えなかったが──に人が、それも目の前にいるクロユリさんが住んでいたなんて。
ランクSともあろうお方が住むにはあまりにも酷い環境だと思った。
「まあ、俺はシュヴァルツ属性持ちだからね。滅多に生まれないからそれについての資料も少ないし、その魔法の特性上、忌み嫌われるのも当たり前だよね。」
なんでもないことのように、それも『己が忌み嫌われること』が当たり前のことのように話すクロユリさん。私のように鬱々とするのでなく笑い飛ばせるなんて、強いと言えばいいのか、そうならざる状況下にいたと同情すればいいのか。……いや、同情なんて今まで頑張ってきたこの方には無礼だ。考えを改めることにする。
「だからあの塔に隔離というわけさ。まあ、半分は自らあの場所に留まっていたのもあるけどさ。もう、誰かを呪い殺したくはないからな。」
──まあ、これからは君がいてくれるから大丈夫な気がする。
自嘲をその顔に浮かべてそう言い放った。それはきっと私の『浄化』の魔法のことを指しているのだろうことはすぐに分かった。
でもどうしよう、あの時はなんにもしないうちに呪いが霧散していたから、浄化の魔法は使ってないんだよなぁ……
体が回復したら黄色だけでなく白色も練習しなければならないな。脳内のやることリストに一つ書き加えておいた。
「これで答えになったかな? 後はある?」
「え? ええと……?」
「無いなら、今度は俺が聞いても良いか? もし聞きたいことを思いついたらその都度教えてくれればいいし。」
「あ、はい、それは勿論。」
「じゃあ……今までどこにいたんだ? ああ、責めているわけではないんだ。だが俺が生まれてからというもの、ヴァイス属性持ちも生まれているはずだと世界中を探していたはずなんだけど。この年になるまで見つからなかっただなんて、どうもおかしいな、と。」
「ええと、孤児院にいました。」
「孤児院……? 何故そこに? ヴァイス属性持ちは俺をコントロールするために一刻も早く探し出して一緒に隔離させないと、だなんて言って上の奴らが血眼になって探していたはずなんだけど……」
「ええと、ツユクサさんがいきなり孤児院に現れて、私の娘にと連れ出してくれて……」
「……そうか。」
「上、がどのような方々なのかは分かりませんが、ヴァイス属性について知っているのは王家と白花家くらいだとは聞いてます。」
「妙だな。俺の存在を知っている奴らは知っているはずだったんだが……?」
二人の間で話が食い違っている。そのことにクロユリさんは首を傾げ──私も体が動いていたらそうしていた──フム、と考え込んだ。
「そこんところはまた後で調べるしかないな。」
「そ、そうですね。私にできることがあれば、微力ながらお手伝いさせてください。白花家次期当主(仮)として。」
「はは、それは心強い。その時は頼む。」
「はい! ……あ、そうだ、質問思いついたので良いでしょうか!」
「うん、勿論良いよ。」
「ありがとうございます。ヴァイスとシュヴァルツは一心同体と先程仰ってましたが、どういう意味なのでしょう? それこそ私の知識量は一般的な歴史書レベルなので、教えていただけたらと。」
「ああ、そうだね。じゃあ属性のことから……」
そこで言葉を切り、徐に立ち上がったクロユリさん。その姿をジィッと眺めていると、扉の外に向かって一言二言喋りすぐこちらに戻ってきた。
「今、ヴァイス属性とシュヴァルツ属性について書かれてある書物を持ってきてもらっているから、それを軸に話していこうかと思ってね。俺も知識はあるけど、万が一嘘を教えてはいけないから。」
「ありがとうございます。……ん?」
あれ、ヴァイス属性についての書物は王家や白花家の人間くらいしか閲覧できないんじゃあなかっただろうか。
そんな疑問が顔、特に眉間に出ていたらしく、クロユリさんがそこを解すように軽く押してきた。
「ほらほら、皺が残ったらどうする。……で、何が気になった?」
「い、いえ……ただ……」
その疑問を口に出してみると、クロユリさんはまた右に左に首を傾げた。
「それ、どこ情報?」
「ツユクサさんと黒鳩さんです。」
「兄貴も?」
おっとぉ……? どうしよう、書物ウンヌンのことが吹き飛ぶほどには衝撃的な一言である。
どうしてこうも王家の方々は己の身分を隠したがるかな? 知らずのうちに無礼を働いたのではと冷や汗噴き出るだなんて経験、もう懲り懲りなのに。
そんな私の愚痴なんて一ミリも知らないクロユリさんはまた一人で考え込むのだった。
それからもう少しクロユリさんと話していた気がするが、どうも疲れて眠ってしまっていたらしい。フッと目が覚めたらクロユリさんはおらず、部屋の中は真っ暗だった。




