1-17 甘味処へレッツゴー……?
着々と魔法を覚えていき、ようやっと七つのうちの四つ、つまり半分が過ぎた。
それぞれの魔法を教えてもらう為にたくさんの人と新たに関わることになり、その個性の強さに胸焼けを起こしかけているのは余談だ。
と、そんな風にここまでの出会いや覚えた魔法について反芻しながら、ゴロリとベットに寝転がる。勿論、サクラさんのお家の客室で。
そして反芻した先に行き着いた時思い出されるのは、ツユクサさんのことだった。
「私、もう捨てられちゃうのかな……」
ツユクサさんの言いつけを私は破ったし、さらにパニックを起こして自暴自棄になりすぎた。どうせ死ねないくせに。
そしてそんな私に呆れたツユクサさんが取る行動を考えれば、捨てる一択だろう。私なら、そんな私なんて履き捨てるもの。駒にすらなれないなら、とね。
でもサクラさんをはじめ、黒鳩さんや華橋さんは私を見捨てるような素振りは見せなかった。どうせ捨てるものに情けをかけるだなんて、どういう風の吹き回しだろうと不思議に思っていたりする。
「なんで、優しくしてくれるんだろう……どうせ近々捨てられるゴミなのに。」
「そんなの、あなたが必要だからに違いありませんわよ?」
「ひょっ!?」
ビッッックリした。まさか独り言に返事があるとは思わなかったから、変な声が出てしまったではないか。
「さ、サクラさん……どうしてここに……?」
返事の主、サクラさんに何故ここにいるのか、姿勢を正してから聞いてみる。あ、いや、そりゃあここはサクラさんのお家だから、いるのは当たり前なんだけど、そういうんじゃなくて……
「そんなの、明日の予定を言いに来たに決まっているでしょう? 明日は新しくできた甘味処に行くわよ!」
「で、でも私にそんな休養みたいなこと……」
捨てられると分かっていても、それでも魔法習得の手を休めたくないと思ってしまう。エゴだとは分かっていても、止められない。
「……ま、まあ、行きたくないなら行かなくて良い、わよ……」
目に見えてシュンと落ち込んだサクラさんの様子を見て、罪悪感が私を襲う。そして私のせいで落ち込んでほしくないと言葉が先に出た。
「い、行きたいです! その……甘味処?に!」
「……! そ、そう……じ、じゃあ、明日は出かけるということで! おめかしもするから早く起きてきなさいよ!」
ではおやすみなさい! と早口で捲し立て、サクラさんはバタバタと部屋から出ていった。
行きたいと私が言った時に見せたパァッと輝く顔。そしてその後頬と耳を少し赤くした顔。サクラさんのそんな表情の変化のワケが分からず、私は部屋の中で一人首を傾げるのだった。
…………
次の日、朝早く叩き起こされた私は類に違わずサクラさんの着せ替え人形にされる。無の感情でそれをやり過ごし、満足したサクラさんに連れられて街に降りてきた。
前回よりはまだフリフリも少なく動きやすい服だったのは幸いだ。まあ、口には出さないけれども。楽しそうにしているサクラさんに水を差したいわけではないから。
「さあ、こっちよ!」
そう言って私の一歩先を進むサクラさんに倣い、私もテクテク歩いていく。
…………
「あっれぇー……?」
サクラさんについて行っていた筈なのに、いつの間にかサクラさんの姿は消えていた。何を言っているか分からないだろうが、私にも分かっていないので説明ができないのがもどかしい。
ああ、いや、確かにサクラさんの後をついて歩いていたのだが、その道中迷子になって泣いている幼い子供がフッと目に入って、その子と目が合って、流れに乗ってその子の親を一緒に探して、そして……今に至る。
迷子を探して自分が迷子になってとか、自業自得とか、そんな言葉聞こえない聞こえない。あーあー聞こえないったら聞こえない。
さて、起きてしまったことは変えられない。この後のことを考えねば。
この場合、この場から動かない方が良いのだろうか。それともサクラさんを探すためにここら辺を彷徨いてみた方が良いのだろうか。
生憎今まで一人だったから誰かと逸れて迷子にもなりようがなく、迷子になった時の知識なんてものは持ち合わせていなくて。さてどうしたものかと首を傾げる。
「君、可愛いね。一緒にお茶でもどう?」
動くか、ここでサクラさんに見つけてもらうまで待つか。うーん、どちらにもメリットデメリットがあって選べないぞ。
それなら私の思うがままに行動するのが吉か。そう決めた私は来た方とは逆の方向へと足を進め──
「ちょ、無視しないでよ。」
られなかった。なんか見知らぬ人に呼び止められた。ついでに腕を掴まれた。誰だこの人。ニヤニヤと嫌な笑い方をするな、というのが第一印象だ。ちょっと嫌な感じがする。
「はあ、どこのどなたか存じ上げませんが……何か用ですか?」
「だからお茶しよって! 聞いてなかったの?」
「はあ、生憎私に向けられた言葉ではないと思っていましたから。」
一応耳には入ってきてはいた。でも『可愛い』だってよ? 私なんかのことを言っているだなんて露程にも思わないでしょうに。私を形容する言葉は良くて『化け物』だろうし。
「えぇ~? なんで? ここにいる人間の中で君ほど可愛い人はいないって。」
「はあ、そうですか。でもそれは主観的なものですよね。」
「君、難しい言葉を使うんだね。そんなところもイイ!」
あー……なんか話通じない感じか……。早くサクラさんのところに行きたいのになぁ。
その後もずっとペラペラと無意味なことばかり喋るその人を、私はジトッと半ば睨むように見つめる。話を切り上げたいのだ、と伝わるように。
だがその人はやっぱり察してはくれないらしい。だから私はペラペラ喋っているのを右から左へ受け流して、さてどうしたものかと自分の世界に閉じこもることにした。
それからもう少しの間それに耐えていると、フッと私の目の前に影が落ちる。
「ねぇ、この子嫌がってな~い~?」
その影、もとい誰か知らない人が間に入ってくれたみたいだ。まさか第三者が助けてくれるとは思わず、私はビックリしてしまった。
「はぁ? 割り込んできてなんだお前はアァン?」
「嫌がってるのを察してあげられないなら、ナンパはやめな~? 嫌われるだけだよ~?」
ペラペラ喋る人は威嚇するような言葉を選んでいるが、その声は少し震えている。ペラペラさんよりも第三者さんの方が圧倒的に背が高く、それだけで威圧を感じるらしい。
まあ、それだけでなくとも、この人は相当な実力者だろうことは窺えた。それをペラペラさんが感じ取れているかは分からないが、直感的に敵わないと理解してしまったのではなかろうか。
「……ちっ、覚えてろよ!」
そう言ってペラペラさんは去って行った。おお、これが所謂捨て台詞か……とどこか感心していたが、それもこれも背の高い第三者さんがいる、という安心感からだろう。
「大丈夫~?」
クルッとこちらを向いて心配してくれた第三者さん。その穏やかそうな表情を見て、ようやくホッと一息ついて安心した。
「大丈夫です。助けてくださってありがとうございます。」
「いいえ~。困った時はお互い様だからねぇ~」
「ありがとうございます。あの、何かお礼をしたいのですが……」
「あ、それならさぁ……ここがどこか教えてくれない? 実は迷っちゃって。僕、ここの出身ではあるんだけど、ほーこーおんち?とか言うやつらしいんだ~。」
「そ、そうなんですか……」
どうしよう! 私もここがどこだか分からない! お礼も何もないじゃない!
と、内心アタフタ慌てふためいて冷や汗をダラダラ流す。
迷子が二人。街に詳しそうな人はここにはいない。さてどうしよう。詰んだ。
「……あ、あのぅ……」
「ん? どうしたの~?」
「も、申し上げにくいのですが……実は私も迷子でして。どうしようかと悩んでいたところなんです。」
こればっかりは嘘つくメリットもないので──むしろデメリットでしかない──正直に話す。すると第三者さんはアハハッと笑い出した。
「すごいね、迷子と迷子が出会ったんだ~! それってどんな確率だろう~! 面白いや~!」
すごいポジティブな考え方をする方なんだな、と好感が持てた。なんかそう考えると確かに面白いかもしれない。クスリと笑いが漏れた。
緊張なんてものは、もうこの時には微塵もなくなっていた。




