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ヤンデレ皇女と最弱ヴァンパイアと千年の恋  作者: 朽木昴


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5/50

新しい生活への第一歩

「アリス皇女は十分すぎるくらい素敵です。僕にはないものを沢山持ってますし。それに──僕は今のままのアリス皇女が好きですよ?」

 ウソ偽りのない純粋な言葉。だがそこに愛があるかは別問題だ。しかも、現状ではまだ答えにたどり着けていない。湧き上がる感情の正体も不明のまま。

 濃い霧に包まれるミシェル。

 前が見えなくなるが恐れず突き進んだ。

「好きだなんて、そんな……。嬉しいですけど、恥ずかしくもありますわ。でも、ミシェルがそう思ってくれてるんですもの。わたくし、もっと頑張りますわ」

 ほのかに顔が赤く染まる。潤った瞳は可憐で魅力的。両手で口元を覆う姿はしおらしい。その姿はアリスの美しさを最大限まで引き上げた。

 恋する乙女──いや、5年前から恋している乙女、と言った方が正しい。あの運命の日、アリスはミシェルと出会ったのだから。

「それ以上頑張らなくてもいいと思いますが……。それで、今後はどうするかお考えはあるのでしょうか?」

「そうですねー、まずは自活しないとなりませんわ。そのためには仕事を見つけなければね」

「誰かに雇われるということでしょうか?」

「いえ、家出中とはいえ、わたくしは第一皇女。人の下につくなんて考えられませんわ」

 自分の立場は弁えているつもり。単に皇族としてのプライドではない。必然的にヒトの上に立つべき存在。アリスの中ではそういう認識だった。

 となれば方法はひとつだけ。

 未知の領域だが恐れる必要はない。

 ミシェルとなら必ず成功する。

 アリスには絶対の自信があった。

「わたくしに考えがありますわ。でもその前に、朝食にしましょう」

「御意。僕はアリス皇女に従うまでです」

 宿の1階で朝食を取るふたり。会話は当然ながら今後のこと。余裕の表情を浮かべるアリスに、ミシェルはその思考を知りたくなる。


 決して信用してないわけではない。

 自分より遥かに年下で、どのような答えを導き出すのか。

 そこに興味津々であった。


「まずは土地を探さないといけませんわ」

「何をするつもりなんでしょ?」

「起業しようかと思ってますわ」

 初めて聞く単語にミシェルは首を傾げた。

 常闇の国では聞いた事がない。少なくとも国王という地位にいたときはそう。もしかすると、国民ならば知っているのだろうか。否、今さらそれを知っても何も変わらるばすもなく。ミシェルは湧いた疑問をアリスに投げかけた。

「起業ですか。それはいったい……」

「ミシェルの国は文化が違うのね。起業というのはね、新しく事業を起こすことよ。つまり、わたくしが責任者となって、新しい商売を始めるのですわ」

 意気揚々と話すアリス。瞳は光彩を放ち自信が満ち溢れている。取っておきの案でもあるのだろう。嬉しそうな顔でミシェルを見つめていた。

「なるほど。新しい商売というからには、何か考えがあるんですね?」

「聞いて驚かないでくださいまし。わたくしが考案したのは、マニータスという画期的な商売ですわ」

「初めて聞く言葉ですね。それはどういう商売なんでしょう?」

「簡単に言いますと、お困り事を解決するものですわ」

 理解したようなそうでないような。心がざわめき立ち、なぜだか歓喜に全身を包まれる。早くやってみたい。長年の旅の終着地点はここにあるかも。ミシェルは今度こそたどり着けると思っていた。

「僕はアリス皇女に着いていくだけですから」

「お客さーん、もしかして土地を探してるにゃ?」

 獣人の店員が目を輝かせ話しかけてきた。

「どこか心当たりでもありますの?」

「もちろんにゃ。取っておきの物件があるにゃ」

 流れが確実に来てる。

 このタイミングを逃してはダメ。

 アリスは身を乗り出して話に飛びついた。

「本当ですの? ぜひ紹介して欲しいですわ」

「お客様だから格安で売るにゃ」

 朝食を食べ終えると、案内されたのは年季の入った建物。造りは意外と頑丈に見える。3階建て木造はアリスの心を奪い去る。

 運命の出会いと直感。

 ここが新たなる家であり店となる。

 アリスは喜悦の頂きに到達していた。

「最高の物件ですわ。わたくしとミシェルの愛の巣にピッタリですもの。そうは思いません? ミシェル」

「愛の巣の意味がわかりませんが、立派な建物だと思います」

「そうでしょ、そうでしょ。えーっとですね、ふたりで住む家が愛の巣と言うのですわ」

 ウソを本当のように誤魔化すアリス。真面目な顔の裏で密かに微笑む。純粋なミシェルを誑かし、少しずつ自分のモノになるよう近づける。

 巧妙な作戦。焦らずじっくり自分色に染める。計画はすでに進行中。家出を境に加速度は増す。愛しているからこそ、自分が選ばれるように刷り込んでいた。

「この世界は知らないことばかりです。これでもかなり長い時間を旅していたんですけどね」

「安心していいわよ。わたくしがじっくり教えてさしあげますから」

 くすみきった瞳の色。口元には薄ら笑みを浮かべる。これで確実に相思相愛の極みへ近づいたはず。アリスは心の中で勝利の雄叫びを上げた。

 庶民にとっては大金をアリスは即決で購入。爽快な気分で第二の人生を歩み始める。まずは改装から。それと店名も決めなければならない。やる事は山積み。だが決して苦には思わず、むしろ待ち受ける未知の体験が楽しみだった。

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