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ヤンデレ皇女と最弱ヴァンパイアと千年の恋  作者: 朽木昴


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46/50

勝利はどちらの手に!?

「混沌より生まれし虚無の剣よ、妾が敵を討ち滅ぼさん。ソード・オブ・インフィニティー」

 周囲を埋め尽くす無数の魔法陣。リアを取り囲むように出現する。カーリアが合図すると、一斉に瘴気を纏った剣が飛び出してきた。

 回避は不可能だと瞬時に理解。となれば選択肢はティターニアの羽根で迎撃しるしかない。すぐさま反撃に打って出た。

 羽根の数を遥かに上回る剣の数。

 撃ち落としたのは僅か。

 致命傷こそにはならなかったが、リアの体に多くの傷が刻まれた。

「今のは軽い挨拶じゃ。本当の恐怖はこれからだからの。積年の恨み、この程度ではないぞ」

「思ったよりやるね。ひょっとして、千年前よりも強いんじゃない?」

「当たり前じゃ。ミシェルへの愛、そして貴様への復讐心が妾を強者の頂きに達したのじゃ」

 強気なリアだが、力の差はこの攻防で把握する。圧倒的に自分が不利──しかし、負けるわけには絶対にいかない。

 相打ち覚悟と言いたいものの、それでは千年前の繰り返し。生き残ってカーリアを倒す。その方法はまだ不明のまま。それでも、この時代でミシェルともう一度会うため、リアは思考をフル回転させた。

「泣き言なんて言ってられないよ。私だって千年も待ったんだから。この程度の苦境なんて、必ず乗り越えてみせるんだからっ!」

 止まっていては単なる的となるだけ。ならばスピード勝負へとリアは切り替える。ティターニアの速度を限界まで上げ、カーリアの周囲を飛び回った。

 視認が不可能な速度。

 細長い線としてしかカーリアの瞳には映らない。

 的を絞らさなければ勝機はある。

 攻撃の隙を窺いながら、リアは辛抱強くその瞬間が訪れるのを待った。

「見えた! このチャンス、絶対に見逃さないんだからっ」

 カーリアの反応が一瞬だけ遅れ、そこを見逃さず全身全霊で斬りつけた。確かな手応えが手に残る。致命傷とまではいかずとも、確実にダメージを与えたと確信した。

「ちょっと浅かったかな。でも、確実に刃は届いたはず」

「おのれ、ユリアめ。妾の仮面を……許さぬ、絶対に許さぬぞ!」

 ほんの少し欠けた仮面から除く瞳。見た瞬間にリアの全身を電流が走る。気のせいなんかでは決してない。心が、魂がそれを肯定してきた。


 あの瞳は見覚えがある。

 最近ではなく、遥かに遠い昔のこと。

 違う、そうではない。見覚えとか、そういう問題ではない。

 なぜなら、それはリアがよく知る瞳だったのだから。


「カーラ……。まさか、その体は……。そうだっだね。だから封印から逃れられたんだね」

「気づいたのか。ご推察の通りだ、ユリア。ミシェルと会うにはこうするしかなかった。この忌々しい体を使うしかな!」

 仮面をカーリア自ら剥がし、その全容が陽光に照らされた。

 リアの目の前にはあのひとそっくりの姿が。ジュルニア帝国に祀られている聖女ユリアの像。それと瓜二つの存在であり、他人の空似ではなく本物だと確信した。


 封印の力から逃れるにはユリアの体を使うしかない。

 憎い相手の姿になるのは屈辱だが、ミシェルの愛のためにと割り切る。

 鏡を見る度に忌々しさが蘇り、その姿が映らないよう仮面をつけたのだ。


「自分を攻撃だなんて。でもそうしないと、ミシェルさんとは……」

「安心するといい。妾の本当の姿を見た以上、生かしておくわけないぞ」

 憎しみの怒気がリアの体に伝わる。千年分の怨みが解放され、周囲を暗黒の世界へと誘う。どす黒い瘴気はリアを包み込み、肉体から自由を奪い去った。

 金縛りにでもあったかのよう。

 体が全く反応してくれない。

 恐怖ではなく執念に囚われてしまった。

「体が動いてくれないよ。どうして……。このままだと、ミシェルさんと会えなくなっちゃう」

「これが暴走を完全に制御した妾の力じゃ。さぁ、おしゃべりは終わりじゃ。自らの過ちを悔いて死ぬがよい!」

 絶望感がリアに牙を剥く。時間の流れが極限まで遅延。振り下ろされた大剣がゆっくりと迫ってきた。

 容赦ない怨みの一撃が頭上からやってくる。

 脳内に刻まれた死という言葉。

 ミシェルの姿が走馬灯となり浮かぶ。

 今まさに千年の想いに、決着の時が訪れようとしていた。

「さよなら、ユリア。ミシェルの愛は妾が頂くからの」

 これは天罰なのだろうか。千年の間に開いた力の差。予想以上に大きく、絶望の鎖がリア自身の体を縛りつける。処刑台へと連行され、残りは刑の執行のみであった。

 自らよ運命を受け入れるしかない──リアは覚悟を決めた。

 周囲に響いたのは断末魔ではなく金属音。目の前で起きた現実が、リアとカーリアを驚かせる。禍々しい大剣は一本の黒刀によって防がれた。

 だがそれよりも驚いたのは、幻でもないひとりの青年の姿であった。

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