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ヤンデレ皇女と最弱ヴァンパイアと千年の恋  作者: 朽木昴


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40/50

囚われのミシェル

 時間感覚を狂わせる地下牢獄。無音の世界に閉じ込められ、ミシェルは奈落の底で絶望するばかり。月明は消滅し、抗う気力すら奪い取る。

 鋼鉄の檻から今のミシェルでは脱出不可能。

 仮に脱出したとしても何も出来ない。

 心を無力感が支配してしまった。

「僕は本当にひとりじゃ無能だよ。これじゃ、アーデルハイドやリアさんに合わせる顔がないね」

 自らの力のなさに絶望するミシェル。だが最強の力を奪ったアリスを恨んではいない。それどころか、今まで力に頼っていた自分が情けなく感じる。

 いつからだろう、知恵を使わなくなったのは。

 思い出せない。いや、覚えていない。遥か遠い過去まで遡ったとしても、ミシェルの中には存在しなかった。

「ずっとこのままなのかな。……ダメだ、ネガティブになっては。この窮地から脱出する方法が必ずあるはず」

 ミシェルは孤独に打ち勝ち立ち直った。無力なのは今に始まった事ではない。嘆く暇があるのなら前進あるのみ。カビの生えた思考をフル回転させ、閉じられた世界からの脱出方法を探していた。

「この鉄格子は──さすがに外れないか。壁は頑丈で壊せそうにないし。錠前を開けるのが現実的かな」

 牢獄内を見回し、使えそうな物がないか探す。部屋の隅々まで調べていると、偶然にもハリガネが落ちているのを見つける。

 上手く使えば解錠できるかもしれない。

 全神経を指に集中させ、ミシェルは錠前を外そうとした。

「カギ穴にハリガネを通して──」

 第一段階はクリア。残りはハリガネを使い開けるだけ。初めての経験ではあるが、失敗するとは全く考えていない。

 深呼吸し心を落ち着かせるミシェル。

 大丈夫──自己暗示で自身をコントロールする。

 あと少し。だが、その油断が最悪の悲劇を招いてしまった。

「えっ……。折れた!? しかもカギ穴が塞がっちゃったかも」

 折れたハリガネをカギ穴に差すも、金属音が聞こえ奥まで入らない。せっかくのチャンスを台無しにし万事休す。

 肩を落とし落胆するミシェル。

 自分のポンコツぶりに呆れ返る。

 次なる一手が思いつかず、混乱の渦に飲み込まれていった。

「やっと見つけたよ、ミシェルさん。捕まったって聞いたから、心配したんだよっ」

 常闇を照らす希望の光。

 ミシェルを救いにリアが地獄へ舞い降りた。

「リアさん、無事だったんですね。どうなったのか、ずっと気になってましたよ」

「あのー、ミシェルさん。自分の立場をわかってるかなー? 牢獄にいるのは誰なんだろうね?」

「そ、それは……」

 リアの正論の前にミシェルは全身が小さくなる。返す言葉が見つからない──ポンコツすぎる自分に呆れてしまう。


 冷静に考えれば、今の自分よりもリアの方が強い。

 心配する立場ではなくされる側。

 これは決して変えられない事実であった。


「ところで、アリスちゃんと会う前に捕まったの?」

「いえ。それがですね──」

 ミシェルはアリスとの会話を全てリアに話した。

「そこまで魔法が侵食してるのね。婚姻の儀を執り行うってのも、聞き間違いじゃなかったんだね」

「婚姻の儀って、なんの話です?」

「なんでも今日、サイエン王子とアリスちゃんが正式に婚約するとか。私もチラッとしか聞いてないけど、婚約の儀が終わると色々まずい気がするよ」

 不穏な感情がミシェルの中に湧き上がる。得体のしれないモヤが全身を蹂躙。直感が特大の警告音を鳴らし、不安が無尽蔵に増幅していく。


 取り返しのつかない事態になっているかも。

 焦る気持ちが抑えられなくなり、ミシェルの心を揺さぶってくる。

 落ち着きが失われ、地に足がつかなくなってしまった。


「どうしよう……。今の僕は何も出来ないポンコツ最弱ヴァンパイア。だけど──アリス様を想う気持ちは誰にも負けません!」

 たとえ弱くとも心は強くありたい。内に湧いた負の感情を振り払い、ミシェルは煌めく瞳で前を見つめた。

「まずは牢獄から出ないとね」

「それがですね、カギ穴にハリガネが詰まってるんですよ」

「私に任せて。錠前ごと破壊しちゃうから。汝を縛る戒めを解放せよ、マイクロ・ブレイク」

 小さな魔法陣から光柱が放たれ、頑丈な錠前を簡単に破壊する。アリス奪還への道が開かれ、ミシェルの中に闘争心が生まれた。

「それにしましても、婚姻の儀って今日するって言ってましたよね? こんな夜遅くに」

「何を言ってるのかな、ミシェルさん。もうとっくに日が昇ってるんだから」

 閉ざされた世界にいて分からなかった。

 時間感覚が狂っていたのを。

 ここで軌道修正しなければ。

 ミシェルは自らの頬を強めに叩き、現実世界へと帰還した。

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