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ヤンデレ皇女と最弱ヴァンパイアと千年の恋  作者: 朽木昴


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39/50

ジュルニア帝国とグリトニア王国の戦争勃発

 漆黒の世界を照らす閃光の数々。ジュルニア帝国側から無数に放たれている。遠くから見える風景は美しく神秘的。だが近づくとそれは幻想だと気づかされる。

 大地を埋め尽くす魔導スーツを着た兵士たち。

 星夜には巨大な魔導船がいくつも浮かぶ。

 ジュルニア帝国が誇る魔導船団──グリトニア王国へ向け、一斉砲撃の真っ只中であった。

「どうやら間に合ったようですね。それにしても、これでは全面戦争ではないですか」

 アーデルハイドの瞳が捉えたのはグリトニア王国の陣営。巨大な機巧兵器が微かに見える。自走式らしく、配置場所へと移動していた。

 噂には聞いている自然エネルギー兵器。

 火や水はもちろん、雷や光すらも発生させる。

 人間にはオーバーテクノロジーの代物だった。

「ジュルニア帝国の魔力も、人間にしては高い方だけど、おそらくあの兵器の前では無力でしょうね」

 小競り合いから全面戦争へはあっという間。ジュルニア帝国が地上と空で動きを見せる。進軍の開始は戦争の始まり。対するグリトニア王国も、機巧兵器を筆頭にジュルニア帝国へと近づいていく。

 静寂の中で聴こえる進軍の音。

 距離は少しずつ縮まり、互いに聞こえるようになる。

 誰の指示でもない。戦いはごく自然に開幕した。

 魔導船団から放たれる強力な大魔法が、グリトニア王国の陣営に降り注ぐ。追い討ちと言わんばかりに、魔導スーツを着た兵士たちも魔法を放った。

 グリトニア王国に反撃する暇はない。

 先制攻撃は成功した。

 このまま一気に勝利を収めようと、さらなる追撃を仕掛ける。

 拍子抜けなのが引っかかるも、ジュルニア帝国は高らかと勝利宣言をした。

「この戦いは……。やはり帝国が不利ですね。あの一斉攻撃もおそらくは……」

 アーデルハイドの慧眼が戦況を見抜く。土埃の舞う戦場を見詰め、自らが動くタイミングを見極めていた。

「帝国の総攻撃は確かに凄まじい威力です。あの巨大な機巧兵器。あれらがある限り負け戦となりますね」

 アーデルハイドの言う通りだった。グリトニア王国の軍勢は全くの無傷。さすがのジュルニア帝国も驚きを隠せなかった。

 激しく広がる動揺。

 瞬く間に伝染し、戦意を刈り取ってくる。

 士気が極端に下がり、グリトニア王国の猛攻を受けてしまった。

 荒れ狂う風がジュルニア帝国の足を止める。前方が見えず、ただその場で立ち止まった。音をかき消すほどの雷鳴。天より無数の迅雷が降り注ぎ、次々とジュルニア帝国の兵たちを消していく。魔導船団にも直撃し、至るところから煙が上がり墜落寸前であった。

 このままでは全滅するのもじかんの問題。アーデルハイドは危険を顧みず、自然が猛威を奮う激戦地へと向かった。

「私の力ならこの窮地をひっくり返せます。ミシェル様のため、ヴァンパイアの力、存分に奮ってみせましょう」

 漆黒の上空で参戦を決意するアーデルハイド。瞳が鋭くなりグリトニア王国を敵として認識する。艶やかな黒い戦闘装束へ換装し、打つべき敵を一掃しようとしていた。

「常闇に浮かぶ円月よ、その光をもって、全てを飲み込め。ソーラーイクリプス」

 闇夜から降り注ぐ無数の光柱。巨大機巧兵器がシールドで防ぐも、貫通しグリトニア王国の陣営に直撃する。

 光に触れた機巧兵器は一瞬で腐食。跡形もなくこの世界から姿を消す。機巧兵器が起こした天変地異は完全に消失。逃げ惑う暇すらなく、陣形は瞬く間に崩壊してしまう。

 あまりの出来事に、グリトニア王国の指揮官は口を開けたまま固まる。悪夢でも見ているかのようで、恐怖から顔がひきつっていた。

 天の助けに歓喜するジュルニア帝国陣営。

 失われた士気が戻り、一斉に進軍を開始した。

「第一波は防げましたね。これならミシェル様もお喜びになるでしょう。ですが、戦いは始まったばかり。油断せずにいくとしますか」

 グリトニア王国も一筋縄ではいかない。第二波、第三波と陣形を変え攻めてくる。戦場が広がりをみせ、両軍ともに被害は甚大なものとなった。

 黒き闇が朝陽に照らされてもなお戦争は続く。終わらない戦いはアーデルハイドの精神力を削る。それでもミシェルのため、心を奮い立たせグリトニア王国の戦力を削り取っていた。

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