ジュルニア帝国とグリトニア王国の戦争勃発
漆黒の世界を照らす閃光の数々。ジュルニア帝国側から無数に放たれている。遠くから見える風景は美しく神秘的。だが近づくとそれは幻想だと気づかされる。
大地を埋め尽くす魔導スーツを着た兵士たち。
星夜には巨大な魔導船がいくつも浮かぶ。
ジュルニア帝国が誇る魔導船団──グリトニア王国へ向け、一斉砲撃の真っ只中であった。
「どうやら間に合ったようですね。それにしても、これでは全面戦争ではないですか」
アーデルハイドの瞳が捉えたのはグリトニア王国の陣営。巨大な機巧兵器が微かに見える。自走式らしく、配置場所へと移動していた。
噂には聞いている自然エネルギー兵器。
火や水はもちろん、雷や光すらも発生させる。
人間にはオーバーテクノロジーの代物だった。
「ジュルニア帝国の魔力も、人間にしては高い方だけど、おそらくあの兵器の前では無力でしょうね」
小競り合いから全面戦争へはあっという間。ジュルニア帝国が地上と空で動きを見せる。進軍の開始は戦争の始まり。対するグリトニア王国も、機巧兵器を筆頭にジュルニア帝国へと近づいていく。
静寂の中で聴こえる進軍の音。
距離は少しずつ縮まり、互いに聞こえるようになる。
誰の指示でもない。戦いはごく自然に開幕した。
魔導船団から放たれる強力な大魔法が、グリトニア王国の陣営に降り注ぐ。追い討ちと言わんばかりに、魔導スーツを着た兵士たちも魔法を放った。
グリトニア王国に反撃する暇はない。
先制攻撃は成功した。
このまま一気に勝利を収めようと、さらなる追撃を仕掛ける。
拍子抜けなのが引っかかるも、ジュルニア帝国は高らかと勝利宣言をした。
「この戦いは……。やはり帝国が不利ですね。あの一斉攻撃もおそらくは……」
アーデルハイドの慧眼が戦況を見抜く。土埃の舞う戦場を見詰め、自らが動くタイミングを見極めていた。
「帝国の総攻撃は確かに凄まじい威力です。あの巨大な機巧兵器。あれらがある限り負け戦となりますね」
アーデルハイドの言う通りだった。グリトニア王国の軍勢は全くの無傷。さすがのジュルニア帝国も驚きを隠せなかった。
激しく広がる動揺。
瞬く間に伝染し、戦意を刈り取ってくる。
士気が極端に下がり、グリトニア王国の猛攻を受けてしまった。
荒れ狂う風がジュルニア帝国の足を止める。前方が見えず、ただその場で立ち止まった。音をかき消すほどの雷鳴。天より無数の迅雷が降り注ぎ、次々とジュルニア帝国の兵たちを消していく。魔導船団にも直撃し、至るところから煙が上がり墜落寸前であった。
このままでは全滅するのもじかんの問題。アーデルハイドは危険を顧みず、自然が猛威を奮う激戦地へと向かった。
「私の力ならこの窮地をひっくり返せます。ミシェル様のため、ヴァンパイアの力、存分に奮ってみせましょう」
漆黒の上空で参戦を決意するアーデルハイド。瞳が鋭くなりグリトニア王国を敵として認識する。艶やかな黒い戦闘装束へ換装し、打つべき敵を一掃しようとしていた。
「常闇に浮かぶ円月よ、その光をもって、全てを飲み込め。ソーラーイクリプス」
闇夜から降り注ぐ無数の光柱。巨大機巧兵器がシールドで防ぐも、貫通しグリトニア王国の陣営に直撃する。
光に触れた機巧兵器は一瞬で腐食。跡形もなくこの世界から姿を消す。機巧兵器が起こした天変地異は完全に消失。逃げ惑う暇すらなく、陣形は瞬く間に崩壊してしまう。
あまりの出来事に、グリトニア王国の指揮官は口を開けたまま固まる。悪夢でも見ているかのようで、恐怖から顔がひきつっていた。
天の助けに歓喜するジュルニア帝国陣営。
失われた士気が戻り、一斉に進軍を開始した。
「第一波は防げましたね。これならミシェル様もお喜びになるでしょう。ですが、戦いは始まったばかり。油断せずにいくとしますか」
グリトニア王国も一筋縄ではいかない。第二波、第三波と陣形を変え攻めてくる。戦場が広がりをみせ、両軍ともに被害は甚大なものとなった。
黒き闇が朝陽に照らされてもなお戦争は続く。終わらない戦いはアーデルハイドの精神力を削る。それでもミシェルのため、心を奮い立たせグリトニア王国の戦力を削り取っていた。




