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ヤンデレ皇女と最弱ヴァンパイアと千年の恋  作者: 朽木昴


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35/50

復活のミシェル

「忌々しいユリアめ。妾がユリアの体を乗っ取り、ようやく復活したと思いきや……。あの戦いを邪神の暴走だと吹聴しおってからに」

 カーラの顔は怒りに満ちていた。

「何が、聖女ユリアによって邪神カーラを封じ込めた、じゃ。しかもジュルニア帝国まで作り伝承させるとか。許さぬ、妾の名誉を傷つけ、ミシェルを奪った罪、絶対に許してなるものか。ジュルニア帝国は滅亡すべきなのじゃ」

 クリステル女王には聞こえない小さな声。だが、その憎しみは果てしなく大きなものであった。

「どうしたの、怖い顔して」

「いえ、なんでもないぞよ」

「そう。ならカーリアよ、全指揮をお主に託すわ。必ずやジュルニア帝国を滅ぼすのよ」

「もちろんにございます。では、妾は戦の準備をいたしますので、失礼」

 女王の間を後にするカーリア。復讐はまだ始まったばかり。必ずやユリアを地獄へ落すと心に誓った。

「バカな女ね。このあたくしに利用されてるとも知らずに」

 静まり返った女王の間で、クリステル女王は密かに微笑む。

「世界を支配するのはグリトニア王国。そのために、カーリア、アナタの力を利用させてもらいますから」

 静寂を打ち消すクリステル女王の笑い声。ジュルニア帝国との戦争に勝利し、全世界をその手に納めようとする。

 軍事力なら絶対に負けない。

 切り札にカーリアもいる。

 笑いが止まらず、クリステル女王は勝利の報告を待ち焦がれていた。


「どうしてアリス様は、僕を信じてくれなかったんでしょう……」

 ミシェルから覇気が消える。寒空に投げ出された心は無防備そのもの。終焉の始まりのような顔で絶望の檻へ閉じこもった。

 たった数年の出来事。

 それがミシェルの心に強く残る。

 愛とは何か。この欠けた感情こそが愛なのか。

 少なくとも今は何も考えられなかった。

「ミシェルさん、落ち着いて聞いてね? これから私が真実を話します。結論から言うと、アリスちゃんはカーラの魔法で操られているの」

 希望の光となるか分からない。リアはミシェルにすら隠していた事を語ろうとしていた。

「私はユリアが転生した存在。それはミシェルさんも知ってるよね? でも、本題はここから」

 覚悟を決めなければ──リアは重い口を開いた。

「千年前、私とカーラが戦った時にね。カーラは私の属性を反転させる魔法を使ったの。当然、私は打ち破ったけどね」

 真実を語るのが怖い。

 リアに見えない重圧が伸し掛かった。

「つまり、あのバラの傷がカーラの魔法なのよ。今のアリスちゃんは属性が反転して、本当のアリスちゃんじゃないの」

「少し待って。私にもわかるよう説明してください」

 アーデルハイドが話についていけず思わず口を挟んだ。ひとりだけ置いてけぼりはイヤだ。それが本音だった。

「実はね──」

 リアはバラの配達の件を丁寧に説明した。

「そんなことがあったんですね」

「はい。それでカーラは千年前に私が封印したの。だけど、あの魔法を見る限り復活しているのは確かよ。それにね……」

 嫌われるかもしれない。恐怖が実体化しリアに襲いかかる。ここで負けては絶対にダメ。勇気を振り絞り、カーラの計画を語り出した。

「聖女ユリアが邪神カーラを封じた。これは、私が歴史を改ざんしたの。だからきっと怒ってるのよ。アリスちゃんを手に入れ、ジュルニア帝国を滅ぼし、そして新しい歴史を上書きする。それがこの計画の全貌よ」

「僕はずっと気になってました。なぜ、カーラが邪神と呼ばれているのか。すべてはリアさん──ううん、ユリアさんの策略だったんですね」

 小さく頷くリア。

 今にも罪悪感に押し潰されそう。

 それでも真実を告げなければ、ミシェルを裏切り続ける事になるからだ。

「歴史の改ざんですか。恥じることはないと思いますよ? 歴史は勝者が決めるもの、私はそう思っていますから」

「ありがとう、アーデルハイドさん」

 リアの心は救われた。恋のライバルでありながら、心の底から感謝の意を伝える。敵対心は完全に消失。ミシェルを取り合うのは一時休戦とした。

「それにしても、一国を滅ぼすとは穏やかとは思えません。常闇の国も気がかりですが、このまま無視することも出来ませんね」

「まずはアリスちゃんを取り戻さないと。ミシェルさん、お願いだから立ち直ってよ」

 必死なリアの声は深淵に飲み込まれる。微動だにせず、ただ一点を見つめるミシェル。殻に閉じこもり一切の光を遮断した。

 漆黒が支配する世界。

 故郷と同じ空気に癒しを求める。

 何も見えないし、何も聞こえない。

 疲弊した精神は奈落へと落ちていった。

「私の声が届かないのかなっ。でも、どうすれば……」

「安心していいですよ。私がミシェル様を呼び起こしてみせますから」

 肩を落とすリアに、アーデルハイドが優しく話しかける。

 ミシェルを救う役目は婚約者のもの。こればかりは誰にも譲れない。千年も待ち続けた想いを込め、アーデルハイドは心の声を口にした。

「私の知るミシェル様は最強のヴァンパイアです。もちろんそれは、物理的な強さだけではありません」

 全てを包み込む優しい声。まるで深淵を照らす月明のよう。決して闇に飲み込まれる事なく、深奥で蹲るミシェルにまで届く。

 凍てついた心を溶かす不思議な力。

 白黒だった孤月の世界が色鮮やかに染まる。

 突如として煌めく道が現れ、まるでミシェルを導いているように見えた。

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