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ヤンデレ皇女と最弱ヴァンパイアと千年の恋  作者: 朽木昴


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34/50

カーラの過去

「ミシェルよ、妾は今が楽しくて幸せだ」

「それはよかったな。とにかく暴走しないよう、力を制御するのが最優先だ」

 次なる目的地のエルフ王国まで、ミシェルとカーラは歩き続ける。道中ではミシェルに力の使い方を教わった。

 カーラの飲み込みは想像以上の早さ。

 これにはミシェルも驚きを隠せない。

 才能とでも言うべきか。素直に心の中で褒めたたえた。

「ところで、ミシェルは何を探しておるのじゃ?」

「真実の愛の意味だ。まぁ、それ以前に愛の意味すら正確に理解していないがな」

「意味がわからないとな?」

 不思議そうな顔でミシェルを見つめるカーラ。実に簡単な疑問であり、答えはすでに頭の中にある。伝えるべきか否か。悩み抜いた末に、自らの考えを語る事にした。

「そんなの簡単じゃ。愛とはどれだけ尽くせるかなのだ。ゆえに妾は国民から尽くされておる」

「なるほど。確かに一理あるな」

 納得したようなしてないような。ひとつの解だとミシェルは記憶の片隅に刻む。

 ユリアは追いかけるものだと言っていた。対してカーラは尽くすもの。ひとによって愛の意味合いが違うのだろうか。追加された疑問がミシェルの思考を暗黒へと引きずり込む。


 答えはひとつではないのかもしれない。

 となれば難易度はさらに上昇。

 焦るつもりはないが、終わりなき旅に少しだけ不安を感じた。


 エルフ王国への道のりは長い。険しい山道を歩き、魔物を蹴散らし、過酷な環境を乗り越える。それでもたどり着くのはまだ先。常人なら心がとっくに折れているが、ミシェルとカーラは平然とした態度であった。

「世界は広いな。妾が知らないことばかりじゃ」

「知っていることの方が少ないさ。見知らぬ土地もそうだが、種族でさえ未知なるものが多い」

「知識を増やすのはよいものだな。それに、妾はミシェルと一緒ならどこへでも行けそうじゃ」

 カーラはミシェルの腕に絡みつく。ここぞとばかりに甘え、思う存分ミシェルという甘い果実を味わう。

 パンドーラでは経験しなかった心のくすぐったさ。

 頭の中はミシェル色に染まる。

 全てを捧げてもいい──そう思うほど美酒に酔いしれていた。

「なぁ、ミシェル。このまま妾と──」

 雰囲気に流され本音が飛び出そうとした瞬間。天空より舞い降りた天使によって阻止された。

「やっと見つけたよ、ミシェルさん。って、そっちのひとは誰かなのかな?」

「ユリア!? どうしてここにいるんだ」

「決まってるよ。ミシェルさんを追いかけて来たんだよっ。それで、その怪しい女はどういう関係?」

 ユリアとカーラの視線が交差する。直感だった。互いが何を考えているのか手に取るように分かってしまう。無言の圧力──見えない火花が飛び交った。

「ソナタこそ誰じゃ。妾のミシェルに何用かな?」

「私はユリア。ミシェルさんを連れ戻しにきたの。アナタこそ誰よ。なーにが、妾のミシェル、だよっ」

「妾はカーラ。ミシェルに命を救われ、尽くすと誓った者よ。せっかくの時間を邪魔しおってからに」

 あからさまに不機嫌な顔のカーラ。ユリアを瞬時に敵と認識する。凍てつく眼差しで睨みつけた。

 対するユリアも負けてはいない。毅然とした態度を前面に出し、闘志は猛火の如く燃え上がる。愛する祖国よりもミシェルを選んだのだ。安易に引き下がっては面目丸潰れであった。

「邪魔なのはそっちでしょ! 私の国はミシェルさんに救われたんだからっ。愛の逃避行──じゃない、連れていくからねっ」

「寝言は寝てから言って欲しいのじゃ。妾からミシェルを奪うなど許されるわけなかろう」

 一触即発のユリアとカーラ。睨み合いは周囲の気温を瞬時に引き下げる。激しい旋風が巻き起こり、決戦の幕開けを煽っているよう。

 互いに譲れない想いがある。

 陰と陽、水と油、絶対に混じり合わないふたり。

 国から外の世界へ出たがため、決して交差しない道がぶつかってしまった。

「ミシェルさん、こんな性悪女に騙されちゃダメ。私が今救ってあげるから」

「誰が性悪女じゃと? 礼儀を知らんとは無礼なヤツだな。きっと平民以下の愚か者に違いない」

「私は王族なんだからねっ」

「ソナタが王族? 冗談にしては笑えないぞ」

 口での戦いでは決着がつかず。空気は重く、そして張り詰めたものとなっていく。凍てついた世界は劫火により消え去り、互いの想いが灼熱地獄を生み出す。

 言葉はこれ以上いらない。

 戦いの幕は静かに上がった。

「侮辱するにもほどがあるよっ。力づくでミシェルさんを取り返すからねっ」

「威勢だけは強いの。妾が返り討ちにしてしんぜよう」

「ふたりとも、待つんだ」

 ミシェルの声は届かなかった。巨大な力が激突。生み出された衝撃波は空間を捻じ曲げるほど。手加減なしの全力攻撃──周囲の地形を一変する。

 愛に狂わされ本能のまま戦うユリアとカーラ。

 戦場が徐々に広がり、街をいくつも巻き込む。

 止めようにもミシェルは、ただ見守るしか出来なかった。

 どれくらい経過しただろう。ユリアとカーラの戦いは1週間以上も続く。このまま決着がつかないと思った瞬間、ふたり同時に必殺の一撃が直撃。虫の息になるも、ユリアが最後の力を振り絞り、カーラを封じ込め戦いは終結した。

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