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ヤンデレ皇女と最弱ヴァンパイアと千年の恋  作者: 朽木昴


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32/50

ぶつかり合うふたつの愛

「危なかったです。人間にしてはやりますね」

 華麗な舞でアリスの攻撃を回避。屋根に飛び乗ると、アーデルハイドは再び槍を構えた。

「常闇の国にミシェル様は必要。もう手加減はしませんから。咲き誇れ月宮の桂花よ、シルバーレディ!」

 大地から生える無数のツタ。アリスを取り囲み、自らの意思があるように動く。ツタはアリス目掛けて伸び始めた。

 アリスがツタを斬るも、すぐに再生してしまう。これでは埒が明かない──そう思い、回避に専念する。逃げても、逃げても追いかけてくるツタ。その先端から異様な魔力を感じ取った。

 危険な香りにアリスの本能が反応。

 何か得体の知れない力がある。

 触れれば致命的なダメージを受けるはず。

 建物の段差を利用し、アリスは上空へと逃げた。

「これは……。避けて正解でしたわね。まともに喰らえば、わたくしの美しさが失われてしまいますわ」

 ツタが壁に触れた瞬間、毒々しさとともに腐っていく。

 おそらく防御は不可能。アリスは月華光耀天河招来を発動させ、捕まらないよう逃げ回る。反撃のチャンスを辛抱強く待つ。意識がツタへと集中。だがその瞬間を狙っていた者がいた。

 突如として頭上に気配を感じる。見上げるとそこには、槍を振り上げるアーデルハイドの姿が。咄嗟の判断で防御するも、アリスの体は地面へと叩きつけられた。

「痛いですわね。でもこの程度──」

 小さなクレーターの中心で立ち上がり、上空にいるアーデルハイドを睨みつける。再び硬直するかと思いきや、無数のツタがアリスに襲いかかってきた。

 息つくまもなく斬り続ける。

 無意味な行為ではあるが、やめた瞬間に腐食されるのは確実。

 逃げる隙すらなく、アリスはツタを狩るのが精一杯だった。

「アリス様、アーデルハイド、これ以上の戦闘は街を破壊するだけです」

 ミシェルの必死な叫び声が、アリスとアーデルハイドの動きを止める。重たかった空気はほんの少しだけ軽くなった。

「ミシェル様、常闇の国にお戻りください。そして私と挙式しましょう。そうすれば、すべてが円満に片付くのです」

「何を意味不明な妄想を語ってるのかしら。ミシェルはわたくしのもの。守ってくれると約束してくれましたわ」

 ぶつかり合う両者の意見。視線の先にはミシェルがいる。その口から何が飛び出すのか、待っている時間は胸が引き裂かれそう。

 選ばれるのはどちらか。

 信じてはいるものの、不安な気持ちは消えない。

 考えている事はお互いに同じであった。

「え、えっと……。ふたりとも、わかってくれたかな?」

「違う、違うわよ、ミシェル。わたくしが聞きたいのはそうではないわ」

「ミシェル様は常闇の国を捨てるおつもりですか? 今、この場でお答えください!」

 止めるつもりが状況はより悪化。ふたりの関心は完全にミシェルへと移ってしまう。戦闘は停止したものの、漆黒よりも濃い空気が周囲に蔓延した。


 正解はどの道なのだろうか。

 何を選んでも待ち受けるのは地獄しかない。

 悩む、ミシェルは進むべき方向が見えてこなかった。


「正直、僕にもわかりません。ただ言えるのは、常闇の国は見捨てないということです。それに今の僕は最弱のヴァンパイアですし」

「ミシェル、わたくしは? 約束は守ってくれるのですよね?」

「アリス様、もちろんですよ。ですけど、真実の愛を見つけた先は──」

 約束を破るかもしれない。

 ミシェルは心の中でそう呟いた。

「そう、ミシェル。やはりわたくしは、血だけの存在なのね。でもいいのですわ。ミシェルが幸せならそれで……」

「落ち着いてください、アリス様。僕はそんなこと言ってませんから」

 アリスの豹変ぶりに慌てふためくミシェル。自分の本音が迷走し、暗雲の中を彷徨い始める。否定しなければ──だが言葉が出てこない。見えない力に縛られ、声が全く出せなくなった。

「わかりましたよ、ミシェル様。力が使えないのなら、取り戻す方法を探すまでです。ですから、細切れにしても常闇の国に連れて帰ります」

 我慢の限界だった。千年も待ち続けたのだ。これ以上は感情が暴走しそう。アーデルハイドは槍を構えると、ミシェル目掛けて衝撃波を飛ばす。

 たった一撃でミシェルの体は傷だらけ。

 全身から血が流れ落ち、動くのもままならないほどであった。

「ミシェルさん、大丈夫っ? 私が介抱してあげるね」

 倒れたミシェルにリアが駆け寄り、迷う事なく膝枕をしてあげた。

「悪女リア! わたくしのミシェルに何をするの!」

「攻撃したのはアーデルハイドさんなんですけどっ」

「ミシェル様の愛は婚約者である私のよ。勝手に膝枕とかしないでもらえます?」

 リアの行動はアリスとアーデルハイドに火をつける。怒りは猛火となり、今にも灼熱地獄を生み出しそう。ふたりの刃はリアへと向けられ、場の空気は混沌の渦へと飲み込まれた。

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