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ヤンデレ皇女と最弱ヴァンパイアと千年の恋  作者: 朽木昴


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30/50

国の存亡をかけた戦い

「わかったよ。私はミシェル……さんを信じるから。だからお願い! この国を、サンクチュエールを救ってよっ!」

 せき止めていた涙が溢れ出す。今まで国という大きな重圧に耐えてきた。それがミシェルの言葉で軽くなる。

 現実はまだ何も変わっていない。

 変わったのはユリアの気持ち。

 異種族のミシェルに惹かれ始めていた。

「任せてくれ。瘴気を発している魔石がどこにあるのか。俺が探してみせよう」

「そんなこと可能なのっ!?」

「造作もない。魔石は魔力の塊。探査魔法を使えば簡単に見つけられる。その中で邪悪な気配が出ていれば、それが問題の魔石だ」

 高度な魔法だとユリアは理解している。自分には不可能であり、その魔法を行使できる者自体知らない。

 魔力には自身があった。

 ただ世界は広い。

 底知れぬミシェルに尊敬の念すら覚えた。

「探査魔法は私には使えないよっ。そんな高度な魔法まで使えるだなんて、ミシェルさんは偉大だねっ」

「適正の問題だと思うがな。俺にだって苦手なものぐらいあるさ」

「ミシェルさんが苦手なもの……。はっ、私、わかったかもっ」

 頭の中で鮮明に浮かび上がる。得意気な顔でユリアは眩光の宝箱を開けた。

「十字架とニンニクでしょ? うんうん、ヴァンパイアと言えばそれが苦手だもんねー」

「喜んでるところ悪いが、それは迷信にすぎない。弱点というものが存在しないんだ」

 まさかの返事にユリアは一瞬だけ固まってしまう。思考は即座に復活。気持ちを切り替え、発言をなかった事にした。

「何が苦手なの? 教えて欲しいんだけどっ」

「全然構わないぞ。俺は愛というものが苦手だ。というよりも、愛とは何か、それを求め旅をしている」

「愛……。簡単なようで難しいよね。私の中では、追いかけるもの、だと思ってるよ」

「なるほど。さて、話が逸れたが、魔石を探すとしよう」

 緩んだ顔を引き締め、ミシェルは魔力を一点に集中させる。透明で巨大な波が四方へ膨らんでいく。通過する建物などにダメージは一切なく、変わらずその場に存在し続けた。

 サンクチュエール全体を覆う勢い。

 その速度は音速ほどの速さ。

 瞬く間にサンクチュエールの隅々まで広がった。

「見つけた。これは何かの祭壇なのか? 特殊な結界が張られているようだが」

「それってもしかして、聖女の聖域かもしれないね。あそこなら、魔石が沢山あるから」

「特殊な結界は俺では突破できなさそうだ」

「そこは任せて。王族にしか解けない結界だしねっ」

 ミシェルの役に立てる。嬉しくて心の中は幸せ色に染まった。頭の片隅にあったのは、結界の解除までするミシェルの姿。規格外の性能だからこそ、その意外性に胸の奥が閃火で暖められた。

 ふたりは店を後にし、聖女の聖域へと向かう。風を切りながら走り、目的地にたどり着いたのは数分後だった。

 澄んだ空気が神聖さを漂わせる。

 石で造られた円形状の土台。

 祠らしき建物が祀られていた。

「ここが聖女の聖域か。独特な雰囲気を感じるな」

「今、結界を解除するね。精霊の加護を受けしユリアが命じる、神秘なる防壁よ、その道を開け」

 ユリアの声に反応し、何かが弾ける音がした。誰かに呼ばれた気がする──不思議で幻想的な光景に、ミシェルはただ感心するばかりであった。

「さぁ、これで祠までいけるよ。魔石は祠の中にあるからね」

「思ったより大きな祠だな」

「中はそんなに広くないから、迷子にはならないよっ」

 石の床を歩き、祠の内部へ侵入するミシェルたち。暗いと思っていた中は優しい光に包まれていた。

 魔石から発せられる青白い光。

 絢爛さが際立ち、見る者の心を癒した。

「これは美しいな。まるで魔石が囁いているようだ」

「サンクチュエールの魔石は精霊族の魂と言われてるの。生前の穢れを落とし、神聖な存在へと転生するという言い伝えなんだ」

「そうなのか。ではその魂に瘴気が纏わりついている、というわけか。ならば、その瘴気を消してやらねばな」

 周囲を見回し、ミシェルは怪しい魔石を探す。違和感があるのはどれか。全神経を集中し、元凶となっている魔石を見つけた。

「これだな。やはり突然変異のようだ。愛が歪み瘴気を放っている」

「ミシェルさん、その魔石を破壊するの?」

「いや、破壊はしない。まぁ、見てな」

 魔石を右手で持つミシェル。溢れ出す瘴気を体内へ吸収する。伝わってくるのは負の感情。強い憎しみが込められ、精神への汚染が広がっていく。

 常人なら夜陰に引き込まれるだろう。

 だがミシェルは常闇の王。

 逆に自らが持つ深淵の中へ取り込んだ。

「これでよしと。魔石が放つ瘴気はすべて俺の中に閉じ込めた」

「そんなことして大丈夫なのっ?」

「問題ない。元凶となった魔石は元に戻った。感染した精霊たちは元に戻っているだろう」

 ユリアは誇らの外へ駆け出した。遠く離れていても分かる。国中から聞こえる歓喜の声。祠自体も祝っているようで、純白の愛の輝きを放っていた。

「な? これですべて解決だろ?」

「ありがとう、ミシェルさん」

 ゆっくり祠から出てきたミシェルに、ユリアは恥じらいなくしなだれかかった。国の滅亡は免れ、感謝の言葉しか出てこない。瞳からこぼれ落ちる涙は黄金色に染まった。

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