表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤンデレ皇女と最弱ヴァンパイアと千年の恋  作者: 朽木昴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/50

たどり着いた先で待ち受けるもの

「ミシェル、セラムが見えてきましたわ。今日は宿に泊まりましょうか。その先どうするかは、明日決めるとしますか」

「僕はアリス皇女に従うだけです。では、従者として宿を探してきますね?」

 ひと足先に街へ向かおうとするミシェル。大きな一歩を踏み出した瞬間、アリスに力強く引っ張られ仰け反ってしまう。

 勢いが予想以上で背面から転倒。

 頭を打つも物理的なダメージはなし。

 見上げる景色は黄昏よりも暗かった。

「わたくしを置いてくつもりなのね。やっぱり邪魔だった、というわけですか。いいのです、それでミシェルが幸せなら、わたくしはこの悲しみにも耐えてみせますから」

 漆黒色に染まるアリスの瞳は生気が感じられない。世界の終わりとも思える空気。ミシェルは焦り脱兎のごとく起き上がる。すかさずアリスを宥めようと詰め寄った。

「違いますから。僕はアリス皇女を邪魔だなんて思ってませんよ」

「そ、それじゃ、どう思ってるのかしら?」

 瞳に生気が戻り漆黒色は反転。黄金色に光り輝き、純粋な眼差しを向ける。期待に胸を膨らませているのが丸分かりだった。

「前にも言ったじゃないですか。僕にとってアリス皇女は特別な存在なんですよ。ですから、邪魔なんて思ったことすらありませんよ」

「もう一度……お願いですから、もう一度言って!」

「えっと、僕にとってアリス皇女は──」

 二度目の言葉に悶え苦しむアリス。軽く踏む地団駄姿が可愛すぎ。実年齢よりも遥かに幼く見えてしまう。歓喜の宴に酔いしれ無言でミシェルの背中を叩いていた。

 中立都市セラムに到着したのは満月が出てから。暖かな灯火と月明かりに照らされ、ミシェル達は夜を明かす宿を探す。夜道を歩き続けること数分。ひときわ大きな建物が見えてきた。

 近づくと暗闇に覆われていた正体が露になる。

 橙色の光はどこか幻想的。

 冷えきった体を暖めようと中へ足を踏み入れた。

 静まり返った室内は心が落ち着く。木製の造りはどことなく安心感を覚える。長年暮らしているような錯覚に陥ってしまった。

「いらっしゃいだにゃん。お客さん、宿泊を希望かにゃん?」

 戸惑うふたりに声をかける女性の獣人。幼さが残り、一見すると成人していないようであった。

「部屋は空いてますか? もちろん一部屋でいんですけど」

「お待ちください、アリス皇女。まさか、僕は外で寝るということですか?」

 僅かに不安の色を浮かべたミシェル。動揺する姿は非常に珍しい。精神状態がもはや限界寸前。奈落の底へ転落寸前まで追い詰められた。

 己の属性である闇が、冷たい水のように意識の底から這い上がってくる。

 同化してしまえば気持ちが楽になるはず。

 だがそれでも──ミシェルは必死に抵抗してみせた。

「安心していいわよ、ミシェル。わたくしがミシェルをひとりにすると思います? 部屋をひとつにしたのはね、少しでも長く一緒にいたいからよ」

「そうでしたか。僕が浅はかでした。アリス皇女を信じなかっただなんて……」

「そう自分を責めないで。わたくしは気にしてませんから。その程度のことでミシェルを嫌いになりませんもの」

 凍てつく水は一瞬でお湯へと変化。全身に温もりを与え、心の奥から熱くなってくる。安堵という光はミシェルにとって眩しく、そして心地よくもあった。

「ありがとうございます。では、一部屋お願いします」

「了解だにゃ」

 獣人の女性は明るく返事し、ふたりを部屋まで案内した。

 部屋は思った以上に広い。ベッドは幸いにもふたつ。安心したような、少し残念なような。ミシェルの心は複雑な模様を描いていた。

「一応確認しますが、ベッドはふたつ使いますよね?」

「あら、ミシェル。そんなにわたくしと一緒のベッドがよろしいですの?」

 唇に当てる人差し指が妖艶さを増幅させる。滅多に見せないアリスの表情。拝めたら幸運なほど希少で、見た事があるのはミシェルだけ。他の誰にもさらけ出さない顔だった。

「そ、それは……。からかわないでくださいよ、アリス皇女。僕はもう寝ますからね」

「照れちゃって可愛いですわ。あっ……ご飯まだでした。一食ぐらいなら抜いても平気よね」

 夜に強いミシェルをたったひと言で撃沈。アリスの魅力は属性すら超越するほど強い。ミシェルの寝顔で空腹を満たし、アリスは夢の世界へと旅立っていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ