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ヤンデレ皇女と最弱ヴァンパイアと千年の恋  作者: 朽木昴


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精霊族の街での異変

「ユリア様、ヴァンパイアの所在がわかりました」

「そう、それじゃ案内してね」

 部下の案内でユリアは城から街へ。向かう先は女性が多く集まるバー。店の目の前に着いた途端、ユリアの中で怒りが湧き上がる。

 中に入らずとも容易に想像できてしまう。

 出会った時の直感は正しかった。

 イケメンで軽い性格──きっと女性を侍らせてるに違いない。国の一大事で張本人の可能性があるのにだ。やるせない気持ちに包まれ、どこかに八つ当たりしたかった。

「この中ね。諸悪の根源を早く叩き潰すよ」

「お待ちください、ユリア様。まだ、ヴァンパイアが原因だとは──」

「私の直感が告げてるからねっ。踏み込んだらすぐに拷問──じゃない、尋問するよっ」

 勢いよくトビラを開けるユリア。店内を見渡すと、一箇所だけが異様に密集するのを見つける。まさかと思いつつ、ひと集りをかき分けその中心へ。瞳に映った光景に、目的は一瞬で消し飛んでしまう。

 ただ座って飲んでいるだけ。

 蜜に群がる蜂のように、女性の精霊族がミシェルを囲う。

 黄色い声援が周囲から飛び交い、我先にとミシェルの隣を奪い合っていた。

「──コホン。皆さん、ちょっとだけ席を外してねっ?」

 女性の精霊族に無関心なミシェルを一瞬だけ鋭く睨む。無言の抗議と言ったところか。ユリアから怨念じみた気配が漂い、女性の精霊族たちは名残惜しそうにその場から去った。

「俺はただ知りたいだけ。それがどういうことか、精霊族の女性たちが集まってきた。これで静かになった。礼を言うぞ、ユリア」

「別にミシェル王のために追い払ったわけじゃないし。私がここに来たのは、この国で発生している謎の病のことだからっ」

 当初の目的を思い出し、ユリアはミシェルに詰め寄った。

「謎の病……? それはどういうものだ?」

「とぼけないでよっ! 女性を惑わすひとの言うことは信じられないからっ」

「そう言われてもな……」

 心当たりが皆無なミシェル。困惑の表情を浮かべ、不思議そうな瞳でユリアを見つめる。そもそも病とは何か。深淵に足を踏み入れ、謎は深まるばかり。

 ユリアの態度から事態の深刻さは伝わってくる。

 力を貸したいが、まずは誤解を解くのが先。

 暗闇の中で大きく深呼吸し、ミシェルは冷静な言葉をユリアに投げかけた。

「ひとまず落ち着いてくれ。本当に俺には心当たりがないのだ。まずはこの国で何が起きているのか教えてくれないか?」

 真っ直ぐな瞳。郎月のように光り輝いている。一遍の曇りもなく、少なくともユリアにはウソを言っているとは思えなかった。


 ここは信じるべきか。

 他種族との交流は稀で、経験から答えを出せない。

 となれば選択肢はひとつだけ。己の直感を信じるのみであった。


「わかったよ。今はアナタを信じる。今この国で起きてるのは──」

 ユリアは謎の病について語り始めた。

 精霊たちの属性が反転し、争いが起きてること。

 まるで意思でもあるかのように、感染の拡大が止まらないこと。

 そして、このままでは国が滅亡してしまうこと。

 重く悲しげな声で洗いざらいミシェルに伝えた。

「そのような事態になっていたのか。属性を反転させる病……。俺が知る限り可能性はふたつある」

「何が知ってるのっ!? お願いだから教えて!」

 悲痛な叫び声はミシェルの心に響く。悲しみの涙が胸の最奥に刻まれ、力になりたい想いがより一層強くなった。

 国が滅ぶ意味ならミシェルも十分に理解している。たとえ他種族であろうとも、見捨てるわけにはいかない。ミシェルは己の知識から考えられる原因を話した。

「もちろんだとも。ひとつ目は魔法による属性反転。だが使えるのは魔族の王のみだ。今この国に侵入している可能性はゼロに近い」

「そうだよね。そこまで魔力が強ければわかるもの。それじゃ、もうひとつの可能性ということかな?」

 ミシェルは小さく頷いた。

「もうひとつは──魔石が変異し瘴気を撒き散らすものだ。厄介なのは魔石に触れずとも伝染することだ」

「それってつまり、誰かが魔石を触って感染したら、そのひとから感染するってこと?」

「そうだ。最優先すべきは魔石の破壊。そして、属性反転した者を──」

「まさか殺すとでも言うのっ!」

 罪のない同族を亡き者にするなど出来ない。ユリアの荒れ狂う声が店内に響き渡る。たとえユリアが王族でなくとも考えは全く同じ。

 もし、ミシェルが国民を手にかけるというのなら……。全力でミシェルを止めるしかない。ユリアは心に固い誓いを立てた。

「最後まで話を聞いてくれ。俺は誰も殺さないし傷つけない。反転した属性を戻すだけだ」

「本当に……?」

 突然見せるしおらしい姿。ユリアの上目遣いは破壊力抜群で、ミシェルの心に大きな衝撃を与える。初めて味わう不思議な感覚。心臓を掴まれた気がした。


 これは真実の愛と関係があるのか。

 胸の内側に湧く歯がゆさ。

 正体不明な感情に振り回され、身体の裏側で悶え苦しんだ。


「安心しろ、俺はウソをつかない。だから信じてくれ」

 ユリアの両肩を掴む手は力強い。だが嫌悪感は一切なく、むしろ優しさを肌に伝える。真っ直ぐな瞳は月光のような美しさ。温もりに包まれ、ユリアはミシェルの瞳に釘付けだった。

 全身は熱を帯び、顔が真っ赤に染まる。

 跳ね上がる心拍数から感じる心地よさ。

 このまま時が止まればいいのに──邪な想いがユリアの脳裏に流れた。

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