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ヤンデレ皇女と最弱ヴァンパイアと千年の恋  作者: 朽木昴


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24/50

運命の出会いは突然に訪れる

「その、どうして、ミシェルさんを探してるのかな? 婚約者って言ってたけど、いつ頃の話か知りたいな」

 激しい動揺を抑えるも、リアの声は震えている。待ち受ける真実に危惧してしまう。

 心臓は今にも破裂寸前。

 可能なら今すぐこの場から逃げ出したい。

 だが知りたい欲求がないと言えばウソ。胸に空いた穴は決して小さくなく、リアの思考を大きく揺らがした。

「私とミシェル様は、常闇の国を安定させるために婚約しました。ですが、愛の意味を探すと言って千年以上。なんの音沙汰もなかったのです。国は分断への道を進む続け、どうしてもミシェル様には戻っていただかないと」

 アーデルハイドが神妙な顔で語る。事態の深刻さが張り詰めた空気から伝わってくる。それ以前にミシェルが婚約していたのも初耳。情報を整理しようにも、リアの思考は拒絶してしまった。


 今考えるべきこと。

 それはアリスにかけられた魔法。

 光彩なる答えにたどり着いたはずが、アーデルハイドから告げられた真実によって上書きされた。


「あの、その、事情はわかったよ。ミシェルさんを探せばいいんだね?」

 ひとまずは時間稼ぎ。今ミシェルを連れて行かれると、アリスの命が危うくなる。バラにかけられた魔法はおそらく、対象の心を破壊してしまうもの。ミシェルを失えば、絶望によって発動が早まる可能性は高い。

 当然ながら、リアもミシェルから離れるわけにもいかない。千年もの間、どのような気持ちだったのか。二度と味わいたくない極限の寂しさ。考えただけで心が漆黒の深部へ引きずり込まれた。

「これで常闇の国は救われます。それに、A&Mヴィーナは評判がいいと聞きますし」

「そ、そうだね。依頼成功率は100%だからね」

 罪悪感に押し潰されそうなリア。この程度、耐えきらなければ今までの努力が水の泡になる。アリスを救えて、ミシェルも守れる方法なはいか。

 知恵を必死に絞り出す。

 究極のピンチを脱出しなければ。

 ミシェルが戻って来る前に──リアは正常な判断をくだせなかった。

「では、見つかるまで待たせて貰いますね」

「えっ……。待つって、ここで!?」

「はい。何か問題でもありますか?」

 問題大ありです──など口が裂けても言えず。一歩でも下がれば奈落の谷底へ転落。正解への道が閉ざされ、悠久の経験値も役には立たない。

 リアの中で浮かぶ敗北の二文字。

 思考の堤防が決壊し、虚無の世界へ旅立ってしまった。

「いえ、何も問題ないよ。お茶でも淹れてくるね」

 カタコトの言葉を残し奥へと逃げるリア。最悪の結末が脳内に展開されるも、ただ流れるだけで記憶に刻まれなかった。

「ミシェル様……。私の気持ちは千年以上変わってません。長い、本当に長かったんですから。もし再会した暁には──」

「戻りましたわ。って、お客さんが来ていたのですわね」

「どちらかと言いますと、依頼者ですけどね。って、アナタはまさか!?」

 アーデルハイドの視線はアリスではなく、隣に立っている者へと向けられる。突如として創られたふたりだけの世界。止まっていた時間が動き出し、破月は晧月へと変わっていく。

 運命の再会──アーデルハイドの瞳は光彩を放つ。透明な涙がこぼれ落ち、引き寄せられるようにしなだれかかった。

「ミシェル様。やっとお会いできました」

「アーデルハイド……。どうしてここに……」

 ひと言だけ発すると、ミシェルは固まってしまう。懐かしさに酔いしれるどころか困惑する一方。思考は完全に停止し、時間だけが無情にも過ぎていった。


 答えにはまだたどり着けていない。

 どう言葉をかければいいのか。

 ミシェルの心は畏怖によって支配された。


「ミシェル、この女は誰なのかしら? まさか、わたくしに隠れて浮気? 安心していいわよ。このわたくしが浮気できないよう、この女を始末してあげるわ」

 ドス黒い瘴気を撒き散らし、鞘から剣を抜くアリス。ミシェルごと叩き斬る勢い。躊躇など一切せず、ミシェルとアーデルハイドに襲いかかった。

「お、落ち着いて、アリスちゃん! まだ斬るのには早いから」

「あら、悪女リアはこの性悪女を庇うおつもりなの?」

 虚無の世界から帰還したリアに、アリスは問答無用で刃を向けた。

 今のリアは沈着冷静そのもの。全く動じず、その理由を語った。

「まずはミシェルさんを尋問してからだよ。それに、アーデルハイドさんもヴァンパイアだから、剣じゃ殺せないと思うし」

「なるほど。苦痛を与えつつ自白させるのね。残忍な方法を思いつくなんて、さすが悪女ですわね」

「アリスちゃん、そうじゃなくて──」

 暗雲が心から月明を消し去り、闇堕ちは悪化の一途をたどる。愛情の裏返しは狂気──現実は恐ろしく実体化して目の前にやってきた。

 全力の一撃がアリスから繰り出される。

 そこに慈悲の文字は存在しない。

 無感情の刃がミシェルとアーデルハイドに牙を向いた。空間を斬り裂くアリスの斬撃。完壁にふたりを捉え、直撃は間違いなしだった。

 しかし幻想は儚くも打ち砕かれる。アーデルハイドが片手をかざすと、神聖な魔法陣が突如として空中に出現。アリスの攻撃はいとも簡単に弾かれてしまった。

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