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ヤンデレ皇女と最弱ヴァンパイアと千年の恋  作者: 朽木昴


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20/50

フラワーブティックでの愛の攻防

 道案内をしながら気になるのは、ミシェルとリアの歩き方だ。腕を掴んでいるリアが気に入らず、業火の嫉妬心がアリス体から湧き上がる。

 とはいえ、道案内しているのだから先頭を歩くのは必然。

 邪魔するにしても、大事になれば機巧兵器から目をつけられる。

 悶々とした気持ちのまま、アリスは目的地まで歩き続けた。

「この先を曲がったらフラワーブティックが見えるはずですわ」

「もう着いちゃうのか。せっかくミシェルさんとイチャついてたのに」

 挑発的な視線をアリスに向けるリア。ここぞとばかりに胸を押し付け煽り出す。冷たい空気がさらに凍てつき、氷の世界へと誘われる。

 リアの体から感じる温もりとアリスが放つ冷気。ミシェルを板挟みにし、精神的ダメージは尋常ではなかった。

 異様な雰囲気の中、一同は無事フラワーブティックにたどり着く。

 街に似合わないほど美しい生花。色鮮やかな景色は周囲に暖かみを与える。その一角だけが別世界──オアシスという言葉がよく似合った。

「この雰囲気、心に巣食う狂気が癒されますね」

「まるで、わたくしとミシェルにお似合いの場所ですわ」

「確かに綺麗ですけど……。私はミシェルさんの方がいいかなっ」

「いらっしゃいませ。ようこそ、ワタシのフラワーブティックへ」

 騒がしさに惹かれ、華やかな女性のお出迎え。落ち着きがあり、どことなく品位を感じた。

「ところで、いつまでくっついているのかしら?」

 嫉妬心が大爆発したアリスが、ミシェルとリアを強引に引き離す。その力は思った以上に強く、ミシェルを突き飛ばしてしまった。

「あらあら、ワタシの胸に飛び込んでくるなんて、大胆すぎるよ。でも、ミシェルさんは好みのタイプだからいっか」

「ミシェルー! 何をしているのかしら?」

 怒り狂ったアリスによって、即座に引き戻されるミシェル。真っ赤な顔はすぐ真っ青へと変化した。

「僕は何もしてませんよ……」

「ミシェルさんは誰にも渡しません! 絶対に私が──って、あのー、店員さん、どこかで会ったことない?」

「はて? きっと他人の空似じゃないかな。アナタと会うのは初めてよ?」

 掴みどころのない雰囲気に違和感を覚える。記憶が微かな反応を示し警告してきた。最近ではなく遥か遠い昔。暗雲に邪魔されハッキリと思い出せない。

 直感とでも言うべきか。

 危険だと特大の警告音が全身に響く。

 決して無視は出来ないものの、リアは心の片隅に置いておいた。

「では私の勘違いですねっ」

「そうだっ。ミシェルさんには、この桔梗がお似合いよ? ワタシからプレゼントしてあげる」

 突拍子もない店員の行動に、アリスとリアが一瞬固まってしまう。

 何を言っているのか理解不能。なぜ初めて会ったミシェルにプレゼントするのか。困惑は怒りへと変貌し、ミシェルに鋭い視線を向けた。

「え、えっと……。どうして僕にプレゼントを?」

「これはワタシの気持ちだから。受け取ってくれるよね?」

 煌びやかな瞳にミシェルの心が揺れ動く。

 記憶の中で起こったフラッシュバック。何かを忘れているような感覚。懐かしささえ覚え、心に安らぎをもたらす。

 この状況は親しみがある。

 どこかで体験した──海馬を刺激し、淡月が僅かに鮮明な姿を現す。

 満月とまではいかないが、その輪郭は光芒が伸びていた。

「は、はい……」

「どうして桔梗なのっ! ミシェルさんも素直に受け取らないでよっ」

 永遠の愛──桔梗が示す言葉の意味。リアの心はざわめき、締めつけられる痛みを感じた。

「顔を赤くして、何が嬉しいのかしら、ミシェル? どうせ花なんてわたくしには似合いませんから」

「アリス様、僕はそんなこと思ってませんから。それと、リアさんも落ち着いてください。強く引っ張りすぎですよ」

 ふたりの少女を必死に宥めるミシェル。今まで出会ったどのような敵より困難で、精神的疲労は限界に達する寸前だった。

「ところで、アナタたちは花を買いに来たの? それとも、別の用事でもあるのかな?」

 混沌に陥る場の空気を店員が変える。ミシェルたちに当初の目的を思い出させ、あっさりと現実世界へと引き戻した。

「わたくしたちは、依頼を受けてここに来たのですわ。このメモに従ってよ」

「なるほどー。話は聞いてるよ。バラを受け取りに来たのね。千と一本のバラをね」

 数を聞いた途端、アリスの中に疑懼が生まれた。全身を侵食する不快感。何やら本能に訴えてくる。バラとその本数の意味が示すもの。それをアリスは知っていた。

「永遠にあなたを愛します、というメッセージですわね。ミシェル以外に貰うのは、わたくしはご遠慮願いたいわ」

「私はロマンチックだと思うよ。永遠の愛って憧れるでしょ?」

「この依頼は、告白の手伝いってことになりますね」

 永遠の愛と真実の愛──どちらが本物なのか。むしろ、永遠の愛こそが真実の愛なのかもしれない。ミシェルは胸の奥にその言葉を刻みつけた。

 アリスには永遠という幻想が眩しすぎる。

 人種はヴァンパイアと比べ寿命が非常に短い。愛を独占したい気持ちがあるも、普通に愛するだけでは叶えられない。普通ではない愛でミシェルを虜にする必要があった。

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