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ヤンデレ皇女と最弱ヴァンパイアと千年の恋  作者: 朽木昴


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19/50

念願の王都へ到着

 オートレインの速度が落ちていくのを実感する。車窓から身を乗り出すと、ミシェルの瞳に巨大な街が映り込む。要塞と見間違えるほど頑丈そうで、鋼鉄の壁上にはいくつもの砲台が並ぶ。

 上空には人型機巧兵器が無数に飛び交う。

 同じ世界なのに別世界──歪な存在であり、不気味さが漂っていた。

「なんだか冷たい感じだねー。それに、技術力が他の国と比べても秀でてね」

「ここ数年で劇的に発展しましたの。まるで誰かが入れ知恵したかと思うくらいですわ。今では、世界有数の軍事国家として、その地位を磐石なものとしてますし」

「でもアリス様。そのような強国からの婚約を断って、本当に大丈夫だったのでしょうか?」

 憂心の表情を浮かべるミシェル。ジュルニア帝国と戦争になれば、勝敗は火を見るより明らか。あの時はアリスの家出に反対しなかった。だが目の前の脅威を前に、正しい決断だったのか迷いが生じる。


 このままグリトニア王国が黙っているとは思えない。

 もしかしてこの依頼も関係がるのか。

 いや、それは考えすぎだろう。

 ミシェルは湧いた疑念を静かに心の奥へしまい込んだ。


「大丈夫ですわ。なんの心配もありません。だいたい、あの気色悪い王子が何か仕掛けるだなんて、考えられませんもの」

「バラの配達とか、僕には違和感があるんですけど?」

「ミシェルは気にしすぎですわ」

「それよりさ、気色悪い王子って誰なのー?」

「名前を出すのも汚らわしいわ。あんなヤツ、存在しているだけで許せませんの」

「どうしてそこまで嫌ってるのー?」

「それは──いいじゃないの。さっ、バラを受け取りにいきますわよ」

 思い出したくもない過去。記憶の最奥に封印してある。あの日の出来事はトラウマと言ってもいい。たった一度の出会いがアリスに悩乱を刻みつけた。

「私には興味ないからいいけどっ。それで、フラワーブティックはどこにあるのかな?」

「それなら僕が案内しますよ」

「ミシェル? アナタの気遣いは嬉しいわ。でもね、迷子になるら未来しか見えないのよ?」

 アリスの正論にミシェルは肩を落とす。

 無自覚だっただけに、精神的ダメージは計り知れなかった。

「ここはわたくしにお任せくださいな」

 アリスを先頭にエルドラの街中を突き進む。見慣れない建物や乗り物、治安維持のためか、武装した機巧兵器が徘徊していた。

「セラムと違って、空気が冷たいですね。機巧兵器が街中を歩いてるだなんて、緊張しちゃいますよ」

「ミシェルさーん、私が手を繋いであげるねっ」

 自然な流れでリアがミシェルの手を掴み取る。優しく暖かみのある手。ミシェルの顔まで伝染し、赤みを帯びて照れくさそう。

 背後から異様な雰囲気を感じ取るアリス。一度だけ満面の笑みを見せると、無言のまま剣先をミシェルに突きつけた。

「あ、あの、アリス様……。これは何がしたいんでしょうか?」

「決まってますわ。ミシェルを殺してわたくしも後を追いますから」

 瞳に光は宿っていなかった。アリスの笑顔が畏怖色に染まり、剣先をミシェルの喉元に押し付ける。

 首を伝わる赤い血。

 痛みは感じないが、心に戦慄を刻む。

 ミシェルは必死に抗い、アリスを説得しようとした。

「えっとですね、僕はヴァンパイアで不老不死なんですよ。だから剣じゃ殺せないと思います」

「アリスちゃん、こわーい。ミシェルさん、ここは優しくて美しい私を選んでよ」

 いつものアリスに戻そうとするミシェルに、リアは容赦なく水を差した。小悪魔顔を浮かべ、ミシェルの腕に絡みつく。アリスへ向ける視線は挑発的。


 どうせ本気のはずがない。

 今はこの勝利の余韻に浸ろう。

 リアがミシェルを堪能していると、予想外の展開が牙向き襲いかかってきた。


「そう……。確かにミシェルはヴァンパイアで殺せませんわね。それなら──わたくしからミシェルを奪う邪魔者を殺せば、みんな幸せになりますね」

 攻撃対象をリアへと切り替えるアリス。

 乾いた笑顔のまま剣を振るった。

「ひぃー。あ、アリスちゃん!? あと数センチズレてたら、真っ二つだったんだけど」

「冗談よ、冗談。わたくしはミシェルに愛されてるのだもの。物騒な真似するわけないわ」

 変わり身の速さはミシェルに竦然を与える。愛と狂気は表裏一体──脳裏に深く刻まれた言葉が浮かび、そして全身を駆け巡った。

 アリスの笑顔はどこまで本当なのか。

 冗談という本気がミシェルの背筋を凍てつかせる。

 狂気へ堕ちたのは自分のせいかも。ミシェルは罪悪感との板挟みだった。

「アリス様は冗談が上手ですね……」

「だよねー。アリスちゃんったら、お茶目なんだからっ」

 上辺だけの笑み。内心は非常に焦っている。アリスという存在の想像以上の厄介。手加減などしようものなら、ミシェルはおろか、自らの命さえ危険であった。

「ほら、周りが騒がしくなってきましたし、機巧兵器もこちらを見てますわ」

 悪目立ちは避けたい。

 ミシェルが自分だけを見てくれればいい。アリスは騒ぎが大きくなる前に、フラワーブティックへと急いだ。

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