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ヤンデレ皇女と最弱ヴァンパイアと千年の恋  作者: 朽木昴


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17/50

皇女のいぬまに記憶を呼び覚ます

「ちょっと待ったー。その涙は偽物だよ、ミシェルさん。純粋なミシェルさんを騙すなんて、アリスちゃんは腹黒皇女じゃないのっ!」

 話が綺麗に纏まろうとした瞬間だった。偽りの涙だとすぐに見抜き、大きな声でツッコミを入れるリア。瞳が妖光に輝き、その視線はアリスへと向ける。

 あざとすぎる態度は、疑えと言っているようなもの。

 ミシェルの優しさにつけ込んだ作戦だと本能が告げた。

「酷い、酷いですわ。わたくし本当に──」

「それなら、その手に持っているのは何かなっ?」

 右手で握り締める何かをリアが奪い去る。

 その何かは陽光に照らされ、ついに正体が暴かれた。

「アリス様、それってもしかして……目薬ですよね? どうして持っているのでしょう?」

「え、えっと、それは……」

 慌てふためくアリス。弁解の余地すらなく、ただ俯き黙るしか出来なかった。

「私が説明してあげるね?」

 乾いた笑顔のリアが口を開く。

「性悪な皇女様は、純粋なミシェルの心を踏みにじったの。弄び、血という鎖で縛り、そして自分の欲望を優先した。だから、アリスちゃんに愛を語る資格なんて微塵もないんだからっ」

 今度こそ完全勝利。アリスの策略を暴き、信用まで失墜させた。ミシェルの隣席は、手を伸ばせば届く距離にあった。

「これはさすがに僕でも庇いきれませんよ。これ以上遅れると仕事に支障をきたしますので、僕とリアさんが隣同士。反対側にアリス様でいいでしょうか?」

 アリスの全身が朱炎に包まれる。ミシェルとも視線を合わすのが恥ずかしい。中でも一番はリアの顔。策略を暴かれた後では、見るのも恐怖でしかない。オートレインに乗ってからも、アリスは俯いたままだった。

 車窓からの景色は新鮮そのもの。堪能しているのはミシェルとリアだけ。アリスは羞恥心の檻に閉じこもり、一歩も外へ出ようとはしない。

 さすがに可哀想──なんてことは、リアが思うわけもなく。勝ち取った時間で自らの欲望を満たそうとしていた。

「ねぇ、ミシェルさん。こうして、ふたりで話すのは2回目だよね」

「ま、待ってくださいよ。アリス様が近くにいるんですよ?」

「心配性だなー、ミシェルさんは。大丈夫、今のアリスちゃんは何も聞こえないよ?」

 ミシェルがアリスに視線を向けると、そこには抜け殻となった主の姿が。完全に自らの世界へ閉じこもっている。耳まで真っ赤に染まり、いつもよりも数倍の小ささだった。

「確かに……。よほど恥ずかしかったんでしょうね。僕は気にしてませんのに」

「甘やかしすぎだよ、ミシェルさん。時には厳しさもないと、アリスちゃんが成長しないからっ」

「そうなんですか」

 適当な言葉でリアはミシェルを誑かす。

 全ては悠久の愛を手に入れるため。

 手段は選ばない──心の奥で眠る欲望の怪物が目覚め始めた。

「そうだよー。だいたいさー、私にも優しくしてよねっ」

「僕的には結構優しくしてるつもりなんですけど……」

「足りない、全然足りないんだから。私がどれだけ長い間、この再会を夢に見たことだか」

 光昭を放つリアの瞳は、ミシェルの記憶を刺激する。初めてではなく懐かしい感じ。それこそ遥か遠い過去に見たと、心がざわめきながら伝えてきた。


 いったいいつ頃の事なのか。

 必ず思い出してみせる。

 ミシェルは記憶の海へ潜り込んだ。


 神秘的な蒼天が広がり、この日はいつもと違う気がした。常闇の国を出て数ヶ月。ミシェルは精霊族が暮らす、サンクチュエールへ向かっていた。

 来る者を拒むように、多くの神聖な月桂樹が生い茂る。

 決して踏み込めない聖域。

 独自の文化を形成し、他種族との交流は皆無だった。

「ここになら俺の求める答えがあるかもしれない」

 月桂樹の大森林から流れる爽やかな風は心地よい。答えの出ない焦りすらかき消してくれる。まさに癒しの森。旅の疲れを取ってくれる不思議な力があった。

 ただひたすら歩き続けるミシェル。

 瞳に映り込むのは同じような景色ばかり。

 進んでいるのか、戻っているのかすら分からない。

 しかし精神的疲労はというと、癒しの森のおかげでゼロに近かった。

「噂には聞いていたが、ここまで見つからんとは……。精霊の警戒心とは、ここまで強いものなのか」

 初めて味わう戸惑いは、王の誇りを大きく傷つける。目の前に突如として現れた巨大な壁面。頑丈という次元を超え、壊せる気配が全くない。

 どうすれば乗り越えられるか。

 ミシェルの思考はポジティブ色に染まる。

 記憶の中に眠る経験を引き出し、この難題を乗り越えようとした。

「うーむ。そうだ、確か精霊族はヴァンパイアに劣らない魔力があったな。それならば、あの方法で居場所を特定するか」

 視界の清輝を闇に沈め、暗夜の世界へと意識を飛ばす。虚無に心は支配され、深奥では膨大な魔力が膨れ上がる。

 爆発と同時に黒暗だった景色が鮮やかなものへ。

 その力はミシェルの体から飛び出し、癒しの森を余す事なく駆け巡る。

 見つけた──色鮮やかな世界で、ミシェルは強大な魔力を感じ取った。

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