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ヤンデレ皇女と最弱ヴァンパイアと千年の恋  作者: 朽木昴


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15/50

通常営業とは普通とかけ離れている

「なら話は早い。魂の一部と引き換えに妾と契約するのだ。さすれば妾が力を貸そうぞ」

「いいぜ。アリスを手に入れられるなら、魂くらい差し出すさ」

 一切の躊躇なく即答するサイエン。対価を聞かずともカーリアを信じきっている。女王クリステルからの信頼が厚い。それも理由のひとつであった。

 欲しい物は全て手に入れる。

 強国に生まれ、強大な権力を持つ。

 王への階段を登り、最後は頂点に君臨する。それこそがサイエンの考えだった。

「ならば儀式を始めるぞ。汝、古の掟に従い、心魂を捧げよ」

 カーリアのローブから漆桶の魔力がサイエンに流れ込む。精神を侵食し、激しい痛みが襲いかかる。短いようで長い時間。サイエンが苦しさに抗っていると、激痛は収まり額に逆十字の紋章が浮かび上がった。

「さぁ、これで契約は完了だ。アリス皇女は中立都市におる。そこでマニータスという商売をしている」

「なるほど。そこを襲ってアリスを奪えばいいんだな」

「愚か者。物事には順次というものがある。まずはだな──」

 叱責されつつも、サイエンはカーリアの話に耳を傾ける。何度も頷き完璧なる計画を伝えられた。

「了解した。これでアリスは俺様のものだ」

 高らかな笑い声が部屋に響き渡る。サイエンの心は碧空のような爽やかさ。その姿を見たカーリアの口元は密かに微笑んでいた。


 中立都市セラムは、茜色の光が中空から注ぎ幻想的。ミシェルたちは依頼主に報告してから、癒しの家へと帰還した。

「今日は初仕事の成功を祝ってのパーティーですわ」

「いつになく豪華な食事ですね」

「あのー、どうして私だけメイド服なのっ!」

 白と黒のコントラスト。頭に着けたヘアバンドが可憐さを大幅に上げる。極めつけはフリルのスカート。美く細い足が全てを魅了した。

「リアさん、凄く似合ってますから。自信を持ってください」

「鼻血を出しながら言われても……。でも、褒めてくれてありがと、ミシェルさん」

 リアのツッコミに慌てて血を拭き取るミシェル。不穏な視線を感じ、背筋が凍りつく。ゆっくりその視線の方へ顔を向けると、瞳から錦光が失われたアリスの姿が。


 恐惶に飲み込まれ顔面蒼白。

 これから起こる未来が脳裏に映し出される。

 先手を打たなければ──だがその想いは悲しくも叶えられなかった。


「ミシェルはメイドが好きなのかしら? それともメイド服が好きなのかしら? どうせ、わたくしには似合いませんし。いいんですわよ、思う存分に味わってくださいまし」

 笑っていない笑顔ほど怖いものはない。

 闇に堕ちたアリスの心は虧月となり、周囲を常闇の世界へと導く。負の感情が全身から溢れ、月明すら無慈悲に飲み込んだ。

 焦るミシェル。アリスを慰めようと立ち上がる。が、動揺から足がふらつき、リアに抱きついてしまう。まさに負のスパイラル。

 喜ぶリアの顔など見えていない。

 体中から冷や汗が流れ、胸に鋭い矢が突き刺さった。

「あらあら、見せつけてくれますわね。羨ましい限りですわ」

 トドメの一撃はミシェルの急所を直撃。限界を超えたダメージに吐血しその場で倒れる。出血量は致死レベルまで達した。

「これはいけませんね。さぁ、ミシェル、わたくしの血で補いなさい」

 傀儡と化したミシェルは、アリスの言葉に逆らえない。心が虚無に支配され、言われるがままアリスの血を吸った。

 体内に注がれる聖なる血。

 アリスと一体化し月痕が満ちていく。

 不完全な存在から完全なる者へと変貌する。

 静夜に現れた円月は、常闇に煌めく光をもたらした。


 夜が明け、初仕事の成功はセラムの街を駆け巡る。伝説の魔獣王を打ち倒した──人々はA&Mヴィーナの偉業を大熱狂。噂に尾ひれがつき、その知名度は瞬く間に全世界へと広がった。

「あっという間に有名になりましたね、アリス様」

「これもみんなの努力の賜物ですわ」

「それはいいんだけどさ、私はいつまでメイド服なのかなっ?」

 文句を言いつつも気に入っている様子。頬がほのかに赤みを帯び、リアの口元は微かに微笑む。ミシェルに見せつけるようにスカートを翻した。

「それはA&Mヴィーナの制服ですわ。それと、ミシェルを誘惑しないでくれるかしら?」

「制服なら仕方ないかな。それに誘惑なんてしなくても、私に魅力的だしー」

 朝から火花を散らすふたりの少女。赤星のような笑顔が逆に恐怖を生む。ミシェルの顔を引き攣らせ、時までも止めてみせた。

 暖かい朝食の空間が一瞬て極寒の地に。身だけでなく心すらも凍界へ閉じ込められてしまう。氷輪が浮かび上がり、ただ静かに見守っていた。

 凍てついた空気はそう簡単に暖まらない。張り詰めた緊張感が漂い、少しの刺激で崩れそう。

 ミシェルの額から流れ落ちる冷たい汗。床を湿らせるもすぐに氷となる。暖められる存在が誰かいないか。ミシェルは他力本願を願いながら、開店準備に勤しんでいた。

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