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ヤンデレ皇女と最弱ヴァンパイアと千年の恋  作者: 朽木昴


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最強の王の降臨

「そうですわね。ミシェルの言う通りよ。わたくしには──超絶魔法がありしたわ」

 予想に反する答えがミシェルを混乱の地へ誘う。なぜその解にたどり着いたのか。崩壊した思考では正解を導き出せなかった。

「悪女リア、魔獣王の気を引いてくださいまし。その間にわたくしが必殺の一撃を放ちますので」

「なんで私が!?」

「ティターニアは飛べるんでしょ? これは店長命令ですわ」

 ここに来ての店長特権。不服の極みであるも、戦場は待ってくれない。リアはティターニアを上空へ羽ばたかせ、スティジアンとの戦闘に備えた。

 蒼穹で繰り広げられる激闘。ティターニアの羽根がスティジアンにいくつも突き刺さる。聖炎に包まれるも、咆哮で全てが吹き飛ばされた。魔獣なら瞬殺の威力だが全くの無傷。

 紅蓮の瞳が大きく見開き、黒橡のブレスをティターニアに向け吐いた。避ける暇など存在しない。具現化された精霊は断末魔ともに、この世界から消えてしまった。

「ウソ……。私の精霊魔法が──」

 受け入れられない現実。リアから余裕がなくなる。ただ呆然と立ち尽くしていると、スティジアンが目標をリアへと変更。黒橡のブレスで攻撃してきた。

 ゴルゴ平原を必死に逃げ惑うリア。

 大地は漆黒の炎に包まれる。

 全力で走り回り、スティジアンの攻撃を紙一重で回避していた。

「まさか、このまま私だけ置き去りなんてないよねっ?」

「いくら悪女でも、わたくしは見捨てませんわ。常闇に煌めく月輪よ、封じられし星彩を解き放て、我が前に立ち塞がる敵を一閃せよ。タイダルフォース」

 極限まで圧縮された月気が、スティジアンの体に直撃。巨大な爆発を引き起こし、衝撃波が空間を捻じ曲げた。

 周囲の空気を振動させるほどの轟音。

 吹き荒れる風はリアを弾き飛ばす。

 誰しもが戦いの終焉だと思っていた。

 爆炎から聞こえる怒りの咆哮。巨体が現れアリスへ襲いかかる。時間にして刹那──鋭い爪が容赦なく牙を向く。防御する暇はない。アリスの脳裏に走馬灯が流れ、死という言葉が重く伸し掛った。

 飛び散る赤い血しぶき。

 絶命は免れない一撃は絶望を刻みつけた。

「アリスちゃん!?」

 大声で叫ぶリア。だが、その瞳には別のものが映り込んでいた。

「大丈夫ですか、アリス様」

「ミシェル……。わたくしを庇ったのね」

 咄嗟に反応したミシェルの背中には大きな傷。痛々しくもあり、アリスの瞳から涙がこぼれ落ちる。遠くで見守っていたリアも、ミシェルの負傷に心が引き裂かれそうであった。

「当たり前じゃないですか。それに、僕にとってこの程度の傷はないのと同じです。それよりも、今度こそ本当の切り札を出すときですよ」

 アリスは涙を拭き小さく頷く。静かに瞳を閉じて、首筋をミシェルに差し出した。

 白い柔肌に鋭利な牙を突き刺すミシェル。アリスの体内に眠る神秘の血を吸い始める。久しぶりに味わう極上の血。特別であり乾いた心を満たしていく。

 浄暗に浮かぶ破月が埋まり、華やかな夜光を輝かせる。

 忘れかけていた力が最果ての地より帰還。

 全身は煌びやかな常闇に包まれた。

「この感覚……久しぶりだな。アリス様、安心していい。この俺が魔獣王なんぞ消し去ってやる」

「お願いしますわ、ミシェル。30分しか元の力を使えないけど、わたくし、信じてますから」

 すぐさまミシェルは空中へ移動した。

 スティジアンとの睨み合い。見えない火花が飛び交う。両者とも動きを止め、無言の攻防が繰り広げられる。時間だけが虚しく過ぎていく中、先に動いたのはスティジアンだった。

 大きく開けた口から黒橡のブレスを放つ。

 漆黒の炎はミシェルを灼熱地獄へと導く。

 業火に包まれるも、ミシェルのひと振りで烈火は消滅した。

「王と名乗りながらこの程度か。真の王とはいかなるものか見せてやる。黒刀夜叉よ、冥府の亡霊を蘇らせ、無月を振り払え。スヴェトリナ」

 眩い皓皓の斬撃がスティジアンを両断する。まさに瞬殺──圧倒的な力の差であった。大地へ落ちていく肉塊は、蒼炎に燃え上がりその存在を消した。

 上空で佇むミシェル。

 王者の風格を漂わせる。

 戦いの終焉に酔いしれ、静かに地上へと舞い降りた。

「ミシェルさん……。ようやく会えた。その絶大なる力こそが私の愛したミシェルさんだよ」

 リアの瞳にはミシェルしか映っていない。吸い寄せられるように歩み寄り、秘めた想いを吐き出しながら抱きしめた。


 本物のミシェルが愛しすぎる。

 感触、匂い、そして言葉遣い。

 懐かしさの余韻に浸っていた。


「リアさん、急にどうしたんだい?」

「ううん、気にしないで。少しこのままでいさせて」

「それは構わないが。それよりも、この感覚どこかで……」

 今のミシェルは完全なる存在。リアから何かを感じ取り、記憶の断片が反応する。最近ではない、それこそ遥か遠い昔に味わった。思い出せそうで思い出せない歯がゆさが、ミシェルの心を容易に弄んだ。

「あらあら、随分と親しそうにしてますわね。わたくしの血まで共有した仲なのに。わたくしよりも、役立たずの悪女がいいというわけですか」

 瞳に宿りし沈鬱の孤影。月蝕の世界に迷い込み、伏魔殿からもうひとりのアリスが姿を現す。幽光は消え去り、全身から暗雲が立ち込めた。

 静かな怒りは嫉妬の裏返し。

 ミシェルの幸せを願うも、心の奥ではそれを否定。

 矛盾する感情にアリスは振り回されていた。

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