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ヤンデレ皇女と最弱ヴァンパイアと千年の恋  作者: 朽木昴


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プロローグ

 愛とはなんであろう。どれだけ長く生きようとも答えが出ない。疑問が解決するのは、あと何年、いや、数十年、数百年を生きればいいのだろうか。

 だから僕は決断した。真実の愛を知るため、終わりなき旅へ出る事に。地位を捨て、愛してくれる者を捨て、真理にたどり着くまで歩き続ける。

 どれだけ時間がかかろうと構わない。

 僕には永遠に近い時間があるのだから。

 死のない身体。だからこそ、愛という形のないモノに惹かれてしまう。冷たくなった心を温めてくれる。きっとそれが愛だと確証を得るために……。

 あの日、僕の運命を変えた少女との出会い。気がつけばあれから5年の月日が経ち、建国祭の日を迎えることとなった。


 建国千年を祝うジュルニア帝国。帝都イスタンバルでは盛大な祭りが催される。国民は大いに盛り上がり、街の至るところから笑い声が聞こえてきた。

 千年前に起きた聖戦。いくつもの都市を滅ぼし、地形さえも大きく変えた。聖女ユリアと邪神カーラの激戦は世界を震撼させた。

 戦闘は数ヶ月という長い間続き、勝利したのは聖女ユリア。己の肉体を代償に邪神カーラを封じる。精神体となった聖女ユリアは、ジュルニア帝国を建国。初代皇帝に自らの血を分け与えた。

 帝都の中央に聳える聖女ユリアの銅像。平和の象徴としてジュルニア帝国を見守っている。女神のような美しさで、今にも動き出しそうであった。

「アリスよ、このめでたい日にピッタリの話があるのだよ」

「なんでしょうか、お父様──いえ、ハーネス皇帝陛下」

 金色の長い髪を靡かせるアリス。その瞳は透き通る青さで人形のように美しい。17歳という若さもあり肌はみずみずしかった。

「建国以来、この帝国が千年間平和であったのも、聖女ユリア様のご加護があったおかげだ」

「その通りですわ。この平和な日々がいつまでも続けばいい、わたくしはそう思いますの」

「そうか、アリスもそう思うか」

 アリスの返答にハーネス皇帝は不敵な笑みを浮かべる。安心感が全身を包み込み、心に巣食った影を明るく照らした。

「実はだな、この平和を確固たるものとするため、グリトニア王国と同盟を結ぼうかとしているのだ」

「あのグリトニア王国ですか……。野蛮な国として有名だと存じ上げてますわ」

「これ、滅多なことを言うでない。野蛮ではなく技術力が非常に高いのだ。軍事面でも他国を寄せ付けないほどにな」

「確かに皇帝陛下の仰られる通りですわ。それで、同盟というのがおめでたい話ですの?」

 興味がないのかアリスの声は平坦なもの。

 軽く聞き流し専属従者が待つ部屋へ戻ろうとした。

「いや違うのだ。それがだな、その、同盟にあたって、グリトニア王国が条件を提示してきたのだ」

 アリスの眉がピクリと動き、ドス黒い感覚が全身を駆け巡る。脳が特大の警告音を鳴らし危険だと知らせてきた。昔からカンは冴えていた方で、特にイヤな事は外れた試しがない。


 その先を聞きたくないのが本音。

 必ず後悔するに決まっている。

 だが第一皇女として無視するわけにはいかなかった。


「その条件とはどのようなものでしょうか?」

「グリトニア王国の第一王子であるアーバス・サイエン殿と婚約することなのだが……」

 ハーネス皇帝の声が小さくなっていき、その視線はアリスの顔へ向けられる。表情に変わりはないか。権力者であるにも関わらず、緊張と不安が心を支配していた。

「そう、ですか。わたくしは第一皇女。この国に身を捧げるのが務め。でも愛されていないから、わたくしを野蛮な国へ売り飛ばすのですね。どうせわたくしなんて、いてもいなくても同じですし」

 声のトーンが一段下がり、アリスの瞳から色が抜け落ちたようだった。胸の奥から凍てつく何かが滲み出てくる。それこそ今すぐにでも深淵へ堕ちそう。別人に成り果て聞き取れないくらいの小声で何かを呟き始めた。

「アリス、そのだな。愛してるに決まってるぞ。帝国のためとはいえ、この条件はワシも心苦しいのだよ」

「いいんです、いいんです。わたくしひとりが犠牲になれば、愛するこの帝国が救われるのでしょう? ですから第一皇女として──」

 罪悪感という強敵がハーネス皇帝を襲う。心臓を突き刺す鋭利な刃物。抉られる痛さに耐え、アリスの辛さを理解しようとした。

「家出しますわ。サイエンなんて、生理的に無理ですし。それにわたくしには……。ミシェル、ミシェルはいますか? 駆け落ち──ではなく家出するので、わたくしと一緒に来なさい」

 アリスの呼び掛けに現れたのはひとりの青年。黒く艶やかな髪で、瞳は赤と青のオッドアイ。整った顔立ちがカッコ良さを演出し、一見すると頼りがいのある感じであった。

「承知しました、アリス皇女。このミシェル、たとえ地の果てだろうと、ついて行きます」

「ま、待て、アリス。城から出ては危険だろ! それに、家出などワシが許さんぞ」

「最弱にして最強の護衛がいますのでご安心を。許さなければどうするのです? 力づくで止めますか? ミシェルを相手に無理ですよね?」

 強気なアリスの言葉はハーネス皇帝を黙らせる。赤いドレスを翻しながら反転し、一度も振り返らず玉座の間から去ってしまった。

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