自動販売機
夜の闇と静寂に包まれ今日も目の前のアスファルトを照らしていた。今の時間帯的に誰も目の前を通らない。というのも私は人通りも、街灯すらもない道に立たずさんでいる自動販売機だからである。要するに暇である。
極稀に人間がこちらを覗き込む事がある。ただ私の見た目が古臭いのかどうにも信用されず、購入者おらず仕舞いである。
そうなるとどうしても私は自分自身の存在意義について深く考え込んでしまう。ただただ日々目の前を照らすだけの、街灯のなり損ないであり、私という存在には何一つとしての意味を見出せないのだと、卑下する毎日を過ごす。
人間の喉の渇きを癒すために在するべきの私が、人肌に渇望を抱く構図はなんとも皮肉のように思う。
昔の頃のほうが少々人盛りがあった。近くの住宅街の子供たちがわざわざ私の前まできては去る。しかしながら当時からも購入者はいなかったように感じる。
余程私には価値がないのだと、自己否定の圧力に押しつぶされそうになる。ドロドロに溶けた孤独感と悲壮感が混ざりあい、満たされることのない型に注がれている。
ふと何か蟻でも歩いていないかと、アスファルトへと視線を落とす。私が照らすはずのアスファルトには常になにかの影が伸びていることに気がついた。しかし目の前にはなにもない。どこからこの影は伸びているのだろうか。答えは足元をみればすぐにわかった。わかってしまった。その影は私から伸びたものであったのである。
よくよく考えれば不可解なことが多かった。私での購入者がいないこと、人々が顔をのぞき込んでは不思議そうな顔をすること、だれもわざわざ私の前を通ろうとはしなかったこと。
今日も足元のアスファルトは橙色の光に私を介して照らされ、同情するかのように光を私の顔へと反射させる。
永遠と私は、人々の喉も、ましては私の渇望すらも潤すことも許されず立ち尽くすのである。
私は人通りも、自己価値も見出せなくただ立ちずさんでいる銅像であったのだ。要するに自動販売機というのは全て私の夢であり妄想であり、架空であった。
夜の闇と静寂に包まれる、永遠に電源の入らぬ筐体は、ただ背後の街灯の光を浴び続けることとなった。




