第5話「突然の刺客」②
「森くん。ありがとうございました」
「いや……俺も、色々……話聞いてもらったし……」
結局柊木は中島のために和風な手ぬぐいを購入した。使ってもらいやすいデザインにしたため、受け取ってもらえない……ということは、無いだろう。そもそも中島はそんな人間ではないと思うが。
俺の言葉に柊木はクスッと笑う。
「また色々お話しましょうね。相談ならいつでも乗りますから」
「……助かる。和奏とかアテにならねぇし」
「……あの。良ければ校外学習だけじゃなく、学校でも仲良くしてほしい……です」
柊木の言葉に俺は少し驚きつつ、小さく呟いた。
「……お前がいいなら」
すると柊木は嬉しそうに笑い、それから中島の所に駆け寄る。
……どうなるかと思ったが、まあ大丈夫そうか……。
俺は右手をポケットに入れて、小さくため息をつく。
……これ、どうするか……。
「……アーキっ」
後ろから突然声をかけられ、振り返る。
そこに、ゼンが立っていた。
見られたわけでもないのに、俺は慌てて手を後ろに隠してしまう。
するとゼンは俺の手を取り……グッと、引っ張られた。
「ちょっ、ゼっ……」
「静かに」
入り組んだ道に連れ込まれ、しゃがみこんだかと思うと手で口を塞がれた。
突然のことにドキンッ!! と心臓が大きく高鳴る。
ゼンが、近い。
早くなった心臓の音が、耳の近くで鳴り響いている。
「……あれ、森くん? 善くーん」
「どうしたの中島〜」
「2人の姿が見えなくて……」
3人は俺達を探すためか、声が遠ざかっていく。
それを聞いてか、ゼンが俺の口から手を離した。
それからゆっくり立ち上がる。
俺はまだ心臓がいつものペースに戻らなくて、立ち上がれなかった。
ゼンが振り返り、俺の方を見た。
……駄目だ。今、見ないでくれ。
俺、今、絶対に……。
「……アキ?」
絶対、みっともない顔してるからっ……。
そう思う俺に構わず、ゼンが俺の顔を覗き込む。
それからゼンは小さく目を見開いた。
……何だよ。今、何を思ってそんな表情してんだよ。
初めてだ、人にどう思われているか不安、だなんて……。
「……アキ」
するとゼンは俺を挟み込むように両手を壁について、それから言った。
「……アキはやっぱり、女の子が好きなの?」
「……は?」
「麻冬ちゃんと、何話してたの?」
そ、それは一緒に中島へのお土産を選んでいただけだが……。
……こういうことって、勝手に人に言ってもいいのだろうか。話さないほうがいいよな、多分……。
「い……いえ、ねぇ」
そう言うと、ゼンは……無言で壁から手を離した。
「……そっか、俺には言えないことなんだね」
「っ……ちがっ……」
「もう、いいよ」
ゼンがそう言って笑う。
本当に、違う。お前だから言えないんじゃない。
っていうか、今、壁を作られた気がする。
精神的な、心の壁が。
「……急に引き込んでごめんね。戻ろうか」
その背中に名前を呼ぼうとした瞬間、ゼンが足を止める。
そして、様子が変わった。
スマホを片手に、呆然としたような表情を浮かべてから……耳に当てた。
「……うん。俺。奏からも聞いた。……アキも一緒だよ。……大丈夫。わかってる」
「おい、ゼン……?」
電話を切ったらしきゼンにそう呼びかけると、ゼンは真面目な表情で俺の手を握った。
反射的に顔が赤くなるのを感じる。
「ごめん。状況が変わった。……今、戻れない」
「戻れないって……何があったんだ。説明してくれ」
少し焦ってそう問うと、ゼンは俺の背後を見て……目を見開いた。
「っ……走って!!」
「ゼン!?」
手を引かれて必死に足を動かし、それから後ろを見る。
……何やら、黒いマントを羽織った、顔の見えない3人ほどの人物が俺達を追ってきていた。
「なっ、何だよあれ!?」
「俺から言えることは1つだけ」
ゼンは走りながらこう言った。
「限りなく味方に近い、敵だ」
走りながらのゼンの言葉を端的に言うと……アイツらは、かつての味方、らしい。
どうして味方じゃなくなったのかまでは教えてくれなかったが、生半可な理由とは思えない。
かつては味方として一緒に敵と戦っていたらしいが……ゼン達はそこを抜け、個人でいたらしい。
キャンディや和奏も同じらしく、だから連絡してコイツらがきていることを知らせてくれたようだ。
そして前世……森下秋も同じらしく、同じ顔、能力をしてる……森下秋の生まれ変わりとされている俺も、アイツらに追われることになっているようだ。
「捕まったらヤバイのか?」
「ヤバイよ。……少なくとも俺は、もうあそこに居るのはごめんだね」
もちろんアキも。
そう言われ、俺は今の状況も忘れて俯いてしまう。
「……でも、いつまでも逃げてばかりじゃ埒が明かないぞ。集合時間までにはどうにかしないと」
「……そうなると、戦うしか無いかな!!」
ゼンがそう言って曲がり角を曲がる。
人気の無い、広い場所に出た。
「アキ!!」
「……ああ!!」
俺達は横に並んで立ち、3人衆を迎え撃つように振り返る。
俺達の服装が、フォーマルなものに変化した。
「さぁ、一緒に戦おう!! アキ!!」
指揮棒を構えたゼンに、俺は笑みを返した。
「年増小学生!!」
「長いわ!! ……奏、あんた私と一緒だけど文句言うんじゃないわよ!!」
「終わったらちゃんと全部言ってあげるわよ」
「本当にブレないわね……」
私達の服が、一瞬で変化する。
3つの鍵盤の前に立つ奏を横目に、私は喉を抑える。
……頼んだわよ。相棒。
そしてそれぞれの場所で、激突した。
「善くんに森くんに和奏ちゃん……いくら自由行動だからと言って、君達は自由にしすぎ!! どれだけ心配して探したと思ってるの!?」
「ご、ごめん……」
「悪かった……」
「ごめんね……」
中島に正座させられた俺達は思わず体を小さくする。
「本当に電話も繋がらないし……!! しかも和奏ちゃんなんて変な人に追われていなくなったし!! 大丈夫だったの!?」
「あ、大丈夫でーす……」
「っていうか3人とも何でボロボロなの!?」
戦ったから。と心の中で呟くが、聞こえるわけもなく。
帰りの電車が来るまで、俺達はしっかり中島に絞られ尽くしたのだった。
「あー……疲れた……」
「今日だけは同意するわ……」
「そういえば、キャンディは大丈夫だったのか?」
「もちろん。あの小学生強いから。今頃は先生達と帰ってるんじゃないかな」
和奏はあー寝る。と言ってブレザーを頭にかぶせ、無言になってしまう。
……確かに、予想外のことがありすぎて疲れたな……。
俺はため息を付きつつ、相変わらず隣に座るゼンを見て1人思い出す。
……戦ってるうちに元通りになったが、一回ゼンと気まずくなったんだよな……。
……というか俺達、気まずくなる頻度高すぎだろ……。
俺はそう思いつつ、ゼン、と小さく名前を呼ぶ。
「ん、何?」
ゼンは背もたれに思いっきり寄りかかりつつ、俺の方に視線だけよこしてそう答える。
「手出せ」
「……え? こう?」
ゼンが手のひらをこちらに差し出す。
俺はその手に……ポケットに隠していたものを、乗せた。
「……え、何これ」
「……お土産」
「え、今まで一緒にいましたよね?」
「いたけど、でも、」
仕方ないだろ。それ見たら、お前に合いそうだなとか思ってしまったのだから。
しかも柊木に、迷うくらいなら買えば? と言われてしまったのだから。
俺がゼンに渡したのは、浅草名物だという……飴細工のキーホルダー。
黄色を基調としたものを選んだのは、その雰囲気と、金髪掛かった茶髪に合うと思ったからだ。
「……いいだろ、別に、理由なんて」
そう吐き捨て、どういう反応をするのか……とチラッと横を見ると……。
……ゼンは、嬉しそうに目を輝かせ、キーホルダーを手の上で転がしていた。
「……ありがと。嬉しい」
ど直球に礼を言われ、思わず顔が赤くなるのを感じる。
相変わらず、心臓がうるさい……。
もう何度も体験したのに、一向に慣れない。
ああ、本当、勘弁してくれ……。
そう思いつつ、喜んでくれてよかった、と心の中で呟く。
その時、柊木の声を思い出した。
『……好きな人には、何かしらしてあげたいじゃないですか……』
……好きな人には、か。
その時ゼンと目が合い、心を読まれるような気がして目を背ける。
……何で今、それを思い出したんだ?
俺は疑問に思いつつ、家に帰る電車に揺られるのだった。
当時のあとがき(※ノリが痛すぎて載せてない)に「文字数の関係でアクション省きました!」って書いてあるのですが。
いやそこ省くなよ!!!! 笑笑
誰に向けて文字数気にしてるんだ!? と思ったけど、たぶんこれ「沢山の文章書いて疲れたのでアクション書かないで終わりました!」ってことなんだろうな、と……。
あとゼンが、あまりにも、面倒な男すぎる──。




