第5話「突然の刺客」①
「アキ〜!! 東京だよ東京!!」
「……元々東京に住んでるだろ……」
「そーだけど!! いいじゃんせっかくの観光スポットに来たんだから!! テンション上げてこ!!」
「勝手に上げてろ……」
俺がため息をつくのを横目に、ゼン……香光善はテンションを上げて窓にしがみついていた。
……小学生かよ……つか行儀悪いな……。
「……ゼン、椅子に膝立ちするな」
「あ、ごめん」
ゼンはあっさりそう言い、椅子に座り直す。
「ゼン!! 千秋に迷惑かけないでよねっ!! ……ねーねー千秋!! どこ行く!?」
「……」
「あー無視とかひどくない!?」
俺は窓の外を仰ぎつつ、どういう状況だこれ、と心の中で呟いた。
ただ今電車の中。
浅草まで、校外学習に来ていた。
本当は、校外学習なんて参加する気無かった。
友人がいない俺としては参加してもどうせ1人でいるだけだろうし、グループで回らなければいけないからあちらも迷惑だろう。
だから適当に理由をつけて休もうかと思っていたが、それを見越してかゼンが数日前。
「ねぇアキ!! 俺たち一緒のグループだよ〜!!」
「あ、そう……」
「不本意だけど、あの子もいるよ」
「不本意って……和奏のことか?」
「そうそう〜!!」
俺、参加しないつもりなんだが。
そう言おうとした瞬間、ゼンが急に顔を寄せてきた。
思わずビクッとなった俺に構わず、ゼンは耳元で囁いてきたのだ。
「……一緒に戦うんなら、いつも側にいないと危ないよ。アキはまだ戦闘にも不慣れなんだから」
俺がその言葉に固まると、ゼンは離れて胸を張った。
「だから、俺の言うことを聞きなさ〜いっ!!」
というわけで浅草まで来てしまった。
……それにしても……。
俺はチラッと隣に座っているゼンを見る。
するとゼンは俺の視線に気づいて、ニコッと笑いかけてきた。
俺は慌てて目を背ける。
……この前の、図書室の一件から、俺は変にゼンを意識するようになってしまった。
近くにいると心拍数がバグったり、なぜか全身が熱くなる。
キャンディにそのことを相談したら「それ本人に言ったら解決すると思うよ」と言われたが、本人にこんなこと言えるわけないし、和奏に相談したら「ゼンは顔がいいから脳が勘違いしてるだけだよ〜!!」と言われる始末だ。いや、何を何と勘違いしてるんだよ……。
女性陣2人は正直アテにならず、前進も後退もないままこの状態が続いている。早めに原因を突き止めて対処したいんだが……。
「千秋!! 浅草そろそろ着くよ!!」
和奏にそそのかされ、窓の外を見る。
外側には、テレビなどで見慣れた景色が広がっていた。
電車に別れを告げ、教師の説明を受けてから班行動を開始する。
予め回るところを決め、道のりもしっかり調べてある。迷うことは無いだろう。
……だが……。
「あーーーー!! 雷門だーーーー!! すごい人いるーーーー!!」
「……Go straight down this road, and then take the convenience store as a landmark(この道をまっすぐ行って、それからコンビニを目印にしてそこを右です)」
「……お前ら自由行動しすぎだろ……」
思わずそう呟いてしまう。
ゼンは1人でズガズガ進もうとするし、なぜか和奏は先程から外国人の道案内ばかりしている。いやそれはいいことだが。
「あはは、森くんも苦労するね」
そう俺の後ろから話しかけてきたのは、クラスメートの……えっと、確か、中島希流だったか。
中島の横からは気まずそうに気弱そうな女がこちらを覗いている。こっちは確か……柊木麻冬だったような気がする。
俺がどう返せばいいかわからなくて黙っていると、中島が続けた。
「えっと森くんと話すのはじめてだよね。俺は中島希流。よろしくね」
「……よろしく」
「で、こっちは柊木麻冬。俺の幼馴染」
「……よろしく、お願いします……」
柊木が中島の背中にしがみつきながら小さく頭を下げる。
……コイツらは……付き合っているのか……?
俺はそう思いつつ、とりあえず自己紹介を返そうと思って言った。
「……森千秋。よろしく」
こういう時に笑えでもしたらいいのだが、あいにくそんな表情筋は持ち合わせていない。
加えて口下手だからどう会話をすればわからない。
俺が静かに困っていると、中島が苦笑いを浮かべた。
「……善くん、人混みに消えそうになってるけど……」
「えっ、あ……おいゼン!! 勝手にどこか行くな!!」
お前は幼稚園児か!!
心の中で盛大にツッコむと同時に、ゼンが振り返って手を振ってきた。
いや振るんじゃなくて戻ってこいよ……。
「もー!! ゼンのことなんて放っておいて先行っちゃおうよ!!」
「いや、そうも行かないと思うけど……」
いつの間にか戻ってきた和奏の言葉に柊木がそう返す。
どうやら和奏と柊木は既に顔見知りらしい。
……いや、確か旅行プラン立ててたのコイツらだよな……。
……というか、まぁ、予想はしてたが、この中でこの2人と知り合いじゃないのって俺だけだよな……。
名前覚えてます程度だし……。
……この2人は、俺は悪い意味で有名だし、知ってると思うけど。
「善くーーーーん!! 置いてくよ!!」
中島が大声を張り上げるが、人混みのせいで声が届いてないようだ。
というか人がいすぎな気がするが……今日平日だよな?
……はあ、仕方がない。
俺はこっそり壁に寄りかかり、手を背中に回して、能力を発動させた。
それから鍵盤を1つだけ出して、指で叩く。
ポーーーーン、と音がして和奏が俺の方を見るが、中島と柊木、そして周りの観光客は気づいていないようだ。
……まあ、こんなところで大丈夫だろ。
少ししてからゼンが人混みをかき分け、戻ってきた。
「いやーごめんね!! 人混みで見失っちゃってさ〜」
「大丈夫だけど……よく俺達のこと見つけられたね」
驚く中島に対し、ゼンは……俺にチラッと一瞥を寄越してから笑った。
「んー、勘?」
「勘って……」
中島は呆れたように笑い、それから勝手にはぐれるな注意してから俺達は別の所に向かうため、歩き出す。
「……ねーねー、アキ」
「……何だよ」
小声で話しかけられたため、小声で返すとゼンは……フワッと笑って、俺に言った。
「さっきはごめんね。ありがと。……アキ」
「っ……!!」
俺はその顔を見ていられなくて、バッと目をそらす。
それから別に、と呟くのだった。
「あれ、アキにゼン。……奏もいるじゃん」
その声に俺達は振り返る。
そこに立っていたのは……。
「キャンディじゃん。何でいるの?」
「善くん達、知り合い?」
「うん。近所のショーガクセー」
ゼンの言葉にキャンディは少しピクッと眉を動かすが……何も言わず、ニコッと笑った。
「キャンディちゃん、このお兄さん達と知り合いなの?」
キャンディと同い年と思われる小学生に話しかけられ、キャンディは笑って頷く。
「うん。昔からよく遊んでもらってたんだ」
あ、そういう設定なのか……。あながち間違ってないような気がしないでもないが……前世的な意味で……。
「こんにちは!! 私達、キャンディちゃんの友達です!!」
「こんにちは〜。最近のショーガクセーは元気だね〜」
ところで何でお前はさっきから片言なんだ。
するとキャンディが素早く俺の後ろに回り込み、後ろから思いっきり制服を引っ張られた。
俺は少し仰け反ってからキャンディの身長に合わせるために少ししゃがむ。
「……ちょっと、何で3人もここにいるのよ」
「校外学習だ。……そっちも?」
「まぁ、そんなとこ」
先程の小学生らしい顔とは一転、キャンディは「疲れた大人」みたいな顔をしていた。
……中身は20歳なんだよな……こいつ……。
「でもアキはこういうの参加しないかと思ってた」
「……別に、参加するつもりは無かった」
「ゼンが無理矢理?」
「そんなところだ」
するとキャンディはクスッと笑ってから、手に持ってたものを差し出してきた。
「せっかくなんだから楽しみなさいよー。ほら、これ一口あげるから」
「……何だこれ」
メロンパンに……アイスが挟まってる……。
「最近浅草で流行ってるのよ。知らないの?」
「そういう流行りには疎い」
「でしょうね」
でも確かに、熱々のパンにアイスというのは美味しいのかもしれない。お言葉に甘えて一口もらうことにした。
「……本当だ。美味しいな」
「でしょ? 季節限定なんだから」
なぜかドヤ顔を浮かべるキャンディに対し俺が口を開きかけると……。
……横からドンッ!! と、ゼンが迫ってきた。
「アキだけズルい!! 俺も食べる!!」
「いやゼンこれ私のだから」
「アキにあげたんだからいいじゃん」
「あんたは一口が大きいのよ!!」
2人で言い合っているのを横目に、俺はこっそりその中を抜け出す。
和奏はキャンディの同級生である小学生達と話していた。
そして中島と柊木はツッコミを諦めたらしく、近くのお土産屋に入っていっている。
……俺は、中島と柊木の方に加わろう……。
そう思って俺は2人が入ったお土産屋に入った。
中は広々としており、爽やかな風が通っている。
……何か買お。
そういえば母さんが人形焼き買ってこいって言ってたな……あ、やっぱり有名だからか。すぐ見つかった。
えーっと、これでいいか。今更だが、俺にはお土産を送る相手なんて片手で数えられる。
キャンディが来てなかったらキャンディにあげても良かったかもしれないが、今いるし。
「……森くん」
「うわっ」
横から突然声をかけられ、少し飛び上がると……そこにいたのは、柊木だった。
しっかりとした瞳で、俺を見上げている。
「ど、どうし、た」
たどたどしく俺が問うと、柊木は真面目な顔で俺に問ってきた。
「じ、実は……私……希流くんにお土産を買おうと思って……」
「は? 何で?」
普通に不思議でそう問うと、柊木はビクッと肩を震わせる。
あ、言い方強かったか……。
「あっ……っと、いや、一緒に来たのに、何でお土産を買う必要があるのかと思って……すまん……」
すると柊木は小さく答えた。
「……私……希流くんのことが、好きで……」
「……お、おお……」
どういう反応すればいいんだ。これ。
っていうかこいつら付き合ってなかったのか。幼馴染って全員ああなのか……?
……いや、そういえば俺と和奏もそんな感じだな……和奏普通に抱きしめてくるもんな……。
「……好きな人には、何かしらしてあげたいじゃないですか……」
「……そういうものか?」
「……そういうものです」
柊木のはっきりした口調に俺は少し気圧されつつ、呟く。
「……でも、何で俺なんだ? ゼンとか和奏とか、もっと他に役立ちそうなやつがいるだろ」
「……森くんは、あの2人がこんな小声でいつまでも話していられると思いますか?」
「全くもって思わない」
段々テンションが高くなって声が大きくなってバレることは一目瞭然だな。
「そういうわけなので……お願いします……」
「……俺は何をすれば良いんだ? 言っとくがあいつとはほぼ初対面だから好みとかわかんないぞ……」
自分で言っておいて完全な戦力外じゃねぇかと思う。
すると柊木は小さく笑った。
「そこは大丈夫です。……一般的に男の子が何をもらって嬉しいかっていうのを判断してほしいだけなので……」
……その一般的な意見も正直不安だが……それだと本末転倒だから、言うのはやめよう。
「……ところで森くんは、何をもらったら嬉しい、とかはありますか?」
「俺? ……」
少し考える。まず人に何かをもらうという経験が無い……。
「……俺は、俺のために選んでくれたって言うなら、何をもらっても嬉しい……と、思う……」
俺の答えに柊木は……また小さく笑った。
「……森くんも、意外と香光くんに負けないくらいイケメンですね」
「は?」
俺がイケメンって……。
柊木の方を見たが、柊木は既にお土産の選定に取り掛かり始めており、俺の声は耳に入っていないようだ。
その頬は赤く染まっており、本当に中島のことが好きなのだな、と思った。
そしてその頃。
「麻冬、森くんと何を話してるんだ……?」
「何でアキあんな楽しそうなわけ……!?」
中島とゼンが顔を突き合わせ、そう話していた。




