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第4話「増える喧噪」②

 そこで俺はゼンの側に積んである本に気づいてゼンに問う。


「……俺もそこらへん、読んでいいか?」

「いいよ。俺のチョイスで良ければ」


 許可を出されて積み上げた本の中から丁度真ん中ら辺にあった本を抜き出す。


 それは、絵画の載った本だった。

 パラパラと捲り、あるページで手を止める。


 そこに描かれていたのは、ピアノを弾く1人の男だった。

 天窓から光が差し込んでおり、男はそれを見上げながらピアノを弾いていた。

 その表情は晴れやかで、顔が「ピアノを弾くのが楽しくて仕方がない」と言っているようだった。


 ……この絵を描いている人が上手いのかもしれない。でもそれだけじゃなく……この人は、ピアノを弾くのが上手いんだろうなと、そう感じた。


 絵を撫でたら、音が聞こえる気がした。

 暖かな木漏れ日のような、そんな音が。





「……アキ?」


 呼ばれてハッと顔を上げる。

 考えていたら、また寝かけていたらしい。


 ゼンは気づくと俺の隣に立っており、心配そうに俺の顔を覗き込んで……なぜか、俺の頬に手を添えていた。

 顔が近くにあって反射敵に顔が赤くなるのを感じつつその手を避けようとすると、椅子の上でバランスを崩してしまう。


「っ……危ないっ!!」


 ゼンがそう叫んで俺に手を伸ばした。


 そしてガタンッ!! と盛大な音がしたが、体に痛みは感じない。


 恐る恐る目を開くとゼンの顔が先程よりももっと近くにあった。

 抱き寄せられたのだと、遅れて気づいた。


「アキ大丈夫!? 怪我無い!?」

「あ、ああ……助けてくれて、ありがとう……」


 俺の返事にゼンはホッとしたように息を吐き出す。

 それから俺の瞳を覗き込むように見つめられた。


 俺は思わず少しビクッとなる。

 え、な、何……。


 ゼンの顔が更に近づいてきて、俺はついにどうしたらいいかわからなくなる。

 頭の中が混乱して、なんだか体が熱を持ったように熱くなって、一度合った目をそらすことができなくて。


「ゼ、ン……」


 小さく名前を呼んで、なんだかよくわからないプレッシャーに耐えきれなくなった俺は目を閉じた。


 と、思っていたら後ろからカタン、と音がしてゼンの気配が離れていくのがわかる。

 恐る恐る目を開くと、ゼンはキョトンとした表情を浮かべて首を傾げていた。


「……アキ、どうしたの? ……あっ、もしかしてやっぱどこか体が痛むんじゃ……!?」

「違ぇよ!!」


 反射的にそう返して、俺はゼンの体を押し返す。

 後ろを振り返ると、さっき倒れた椅子が建て直されていた。


 どうやらゼンは俺を抱きしめながら椅子を直しただけらしい。


 ……いや、俺を抱きしめながらやる必要ねぇだろ……!! つか、そのくらい自分で出来るし……。


「ちょっとあなた達、大丈夫!?」


 大きな音を聞いたらしき図書館司書の先生がこちらに駆け寄ってくる。


「ああ、大丈夫です。少しバランスを崩して倒れただけですから」

「そ、そう……気をつけてね」


 ゼンが先生を対応しているのを横目に、俺は思わず床に座り込んだまま、動けなかった。


 おかしい。

 絶対におかしい。だって、


 ……だって、今、ゼンにキスされるかもって思って。

 不思議と……………………それを嫌と感じないだなんて。


 絶対、おかしい。


 ドッ、ドッ、と心臓がうるさく鳴っている。

 思わず口を手で抑えて、言葉にできない苦しさに戸惑う。


「……あれ、アキ。何で座り込んでるの?」


 そう言ってゼンが近づき、手を差し出してきた。

 その手を取ろうとした瞬間、全身に電気が走り抜けたようにビクッ!!となり、慌ててその手をひっこめる。


 な、何だ、これ。


「アキ、やっぱりどこか痛む……?」

「ち、違、そうじゃなくて……」


 慌ててそう返すが、何でこんなに慌てる必要があるのかもわからない。


 わからない。

 わからないことが多すぎる。


「じゃあアキ、どうしたの?」


 ゼンがスッとしゃがみこんできて、俺の顔を覗き込んでくる。

 少し前まで見つめ返すことができたその顔が、なぜか今は見つめ返せなかった。


 思わず目をそらして、そこで心臓の鼓動が過去で1番早くなっていることに気づく。


 苦しい、辛い。

 なのに無くなってほしいとは思わない。


 ……意味が、わからん……。


「……ゼン」

「何?」

「……ちょっと、しばらく、俺に近づくな」

「うん……はぁ!? 何で!? アキ最近意味わかんないよ!? 突然一緒に戦うとか言い出したり挙動不審だし……!!」

「そ、それは俺が1番わかってる……」


 俺は思わず顔を抑えて首を傾げる。


 ……困るな。これからまた戦ったりしていかなくちゃいけないのにこんな調子じゃ。

 この……なんとも言えない苦しさ、早めに解決しないとな……。


 俺はそう思いつつ立ち上がって、ゼンに向けて言う。


「……帰ろう」

「ええそんな突然!? ってあ、ちょ、待って!! 置いてこうとしないで!! 本片付けるから!!」


 下駄箱で待ってようと思い、俺は足早に図書室を出る。

 今はとにかく……ゼンから離れたかった。





 1人になった俺は本を本棚にしまいつつ、先程のことに思いを馳せていた。


 アキの、あの、赤くなった顔……。

 自惚れとか、そういうことじゃなくて……アキは確実に、俺を意識してる。

 駄目なのに。絶対に。


 前世とか関係なく、俺達は……ここから進んじゃいけない。


 いい友達でいなきゃ。

 いい相棒でいなきゃ。


 俺の私情を持ってきちゃいけない。


 ……なのに……。


「……キスするかと思った……」


 口を手で抑えて、俺は静かに目をつぶる。


 認めたくない。

 認めちゃいけない。

 前世に流されるな。


 ……そう、思ってるのに……。


「……どうしよう、もう、誤魔化しようもなく……」


 大好きだ。


 その言葉は、口の中でだけで呟いた。

 確実に言葉にしたら、認めてしまう気がする。


 ……わかってる。俺には、あいつを好きになる権利なんて……無いんだ。



 小さく言った俺の言葉は、全部、誰にも届かず……宙に消えた。

 この展開のめちゃくちゃ感、当時の熱というか勢いがあって、愛おしいな~と思います。

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