第20話「Our Love,Our Magic」⑦
「どう思います?」
私が歩いていると、後ろを歩いて来たハルネスがそう言った。私は立ち止まり、振り返る。
「何がだ?」
「森千秋のことです」
ハルネスはニコリと微笑む。そしてそのまま続けた。
「……あの後カインとアベル、二人に聞きましたが……前世の記憶と能力、この二つを、生まれ変わるにあたって継がせる術に、二人は成功したはずなんです。実際、僕や貴方。そして僕の妹やヤーコプなど……他にも、前世の記憶と能力。この二つを継いで生まれ変わっている人はたくさんいます」
「……そうだな」
「……彼らも、一度成功したのならそこから失敗するはずはないと言っていました。それはつまり、100%の確率で成功するということになります。……では」
ハルネスはスウッ、と、その目を細めた。
「森千秋。前世の記憶を持っていないながらも森下秋と同じ能力を持つ……あの男は、一体誰なのですか?」
私は横目で、彼のことを見た。森千秋。この戦争を止めた、他でもない貢献者。
「……私の仮説を、挙げるとするならば」
私がそう言うと、ハルネスは口をつぐみ、私の言葉の先を待つ。私は言った。
「……カインとアベルが元々一人の人間であったように、彼も二人になったのではないかと思う」
「……二人?」
「ああ。……元々あいつには、双子の兄がいたのだ。しかし生まれてすぐに、亡くなったらしい」
例えば双子は、魂を分け合うという話がある。
行動、思考が一致し、まるで全く同じ人間がそこにいるように、シンクロ率が高い。
「……双子の兄と、千秋。二人で分け合ったのではないか? 記憶と、能力を」
私の結論に、ハルネスはふうん、と呟く。
「なるほど……参考になります」
「……お前は、どう考えているんだ?」
「……そうですね……」
ハルネスは彼の方に視線を送る。彼はゼンと、恥ずかしそうにしながらも楽しそうに話していた。
「……何も知らない人間だからこそ、救えるものもあるのではないですか?」
前世の記憶を。前世に何があったのか、何も知らないからこそ。
「……ふむ、一理あるな」
実際にカインとアベル、二人を救ったのは彼だ。しかし彼は、それを小さなことだと言うのだろう。
「……だがきっと彼らには、もはやどうでもいいことなのだろう」
ゼンと、アキ。……いや、善と、千秋。
今の二人が築く関係を、未来を。
「私たちはそれを、大人として見守ろうじゃないか」
「……お忘れかもしれませんが、今の貴方のほうが圧倒的に子供なのですよ」
「それもそうだな。忘れていた」
私はきっと、これから年相応の子供として生きていくことはできない。
だが彼らがいるのならきっと、これから先の長い人生、楽しいものになるのだろう。
そう思うと少し、楽しみだった。
勇林を見送ってから俺は、善のことを振り返る。そして、目を見開いた。
「……何でそんな不機嫌そうな顔してんだよ、善」
「だって……」
善はまるで子供のようにそう吐き捨てて、俺のことをジッと見つめる。その視線に、少しだけ居心地が悪くなるような心地がした。
「……俺の千秋が、人気者になっちゃってるな〜って」
俺の、千秋。
その言葉に頬が赤くなるのを感じながら、俺は少し迷って、呟く。
「……俺が人気者になったって、俺たちの関係は変わんないだろ……それに、別に人気者になんてなってねぇ」
「……そうだけど、そうだとしても、アキはこれからももっと人気になってくよ。断言する」
「……今、アキって言った」
「あ、ごめん……」
善がバツ悪そうにうつむくため、俺は決心するようにツバを飲んでから……意を決して、言う。
「……心配しなくても、俺は、善だけのものだよ」
この心配性な恋人を、そう安心させてやる。
善は驚いたように顔を上げて、俺を見つめていた。俺は恥ずかしくなって、そっぽを向く。そして、帰るために一歩踏み出した、その次の瞬間。
「千秋」
後ろから名前を呼ばれ、立ち止まり、振り返る。すると目の前に善の顔があった。そして──。
──時間が、止まる。
善の顔はすぐに離れる。その表情は、少しだけ照れているように赤かった。思考がフリーズしていた俺は、一秒ほどしてからやっとその行為の意味を理解する。い、今、唇に……も、もしかして、キ……。
「……千秋のファーストキス、もらっちゃった」
「なっ……あっ……!?」
「あれ、初めてじゃなかった?」
「は、初めてだけど、そんな、お前、流れるように!?」
「驚くのそこなんだ」
善はクスクスと笑い、俺の頬を指先で撫でた。触られ慣れてなくて、思わず体が固まってしまう。それをいいことに善は、俺の頬を優しく包み込むように手を添えた。
「……ま、これから二回目も三回目もそれ以上も、永遠に奪っていくけどね」
「え……っと、ぜ、ん……?」
「ねぇ千秋。……コンクール終わったんだし、もう何も遠慮せずに触ったっていいんだよね? 俺ずっと、こんな風に千秋に触りたかったんだよ」
「な、え……ちょっ、待っ……」
何も言えずに、そのまままた善の顔が近づき……唇が重なる。経験のないことに、呼吸が出来ない。向きを変え、三回、四回。
善は顔を離し、俺の顔を見てぶはっ、と吹き出した。
「あはは、顔真っ赤。……やっと俺のこと、恋人として意識してくれた? 千秋」
俺はその言葉を頭の中で反芻して、ワナワナと震える。恋人として意識、なんて、そんなの初めからしてる。でも、でもっ……。
「〜〜〜〜っ……調子に乗るな馬鹿っ!!」
「え〜っ!? そりゃ乗るでしょ!! 乗らせてよ!!」
拳を飛ばすが、安々と受け止められ、指を絡められる。
「大好きな人が、俺の恋人になったんだからさ!!」
「〜〜っ、お前はまた、そんな恥ずかしいことをぬけぬけとっ……」
俺は手を振り払うことも出来ずに、無理矢理そっぽを向いた。
「……とりあえず、もう帰るぞ!!」
「あ、ちょ、千秋!! 引っ張らないで〜!!」
「うるせぇな!! 叫ぶなよ!!」
「千秋だって叫んでんじゃん!?」
何だ何だと周りからの視線が集まる中、善がふと呟く。
「……あれ、でも、手を離そうとはしないんだね」
「っ……」
反射的に言葉をつまらせると、善はニコッと笑った。
「……ねぇ、やっぱ、もう一回キスしたい」
「調子に乗るなっつってんだろ!!」
やっぱ駄目かぁ、と善は苦笑いを浮かべる。そしてまあ、と呟いた。
「……これからいくらでも、時間はあるしね」
「……なんかお前、怖いんだが」
「あれ、今知った? 俺千秋のことになると怖いんだよ?」
「自分で言うか」
思わず笑ってしまって、二人で笑い合う。
……これからいくらでも時間はある、か。確かに、コイツと一緒なら……それも悪くない。
外に出て空を仰ぐと、真っ青な空がそこにあった。どれだけ手を伸ばしても届かなそうな空に。
幸せの音が、響いている。
【終】
まずはここまで読んでくださってありがとうございました。
カインとアベルがなんで音楽を嫌うようになったのか、とか、前回も言った和奏が急にキャンディに告白したのかとか、やはり説明しきれていない点や粗さが目立ちますが、ひとまず「5年前の私、この話をこれだけの文字数書いてたんだ~」ということが可視化出来て嬉しいですし、長編を書ききっていた過去の自分を褒めたいです。
沢山懐かしい気持ちに浸れて、私も楽しかったです。ありがとうございました。
いつか書き直したいし、頭の中にある続きも書きたいね。




