表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/67

第20話「Our Love,Our Magic」②

 俺は最後の一音を、最後まで優しく弾く。弾き終わると、ピアノが光となって消えた。優しいメロディーも、部屋の中に溶けていく。光もない。それはきっと俺の見た幻覚だ。

 俺は再び二人に近づく。二人は倒れた体制のまま、何も言わなかった。


「……俺は、音楽が嫌いだった」


 俺はそう、小さく呟く。


「どうして自分ばかりこんなに不幸なんだと思ってた。耳に入る音全てがうるさくて、死にたいと思ったほどだ」


 布団の中に包まって、息を殺した。秒針がうるさくて、目覚まし時計だって壊した。自分の心臓の鼓動でさえ、うるさくてたまらなかった。


「……でも俺はやっぱり、音楽が好きだ。こんなに、音楽が好きだよ」


 あんなに嫌いだったけど。

 こんなに好きだ。


「俺はアンタらも、俺と同じだと思ってる」


 どれだけ足掻こうと、どれだけそれを遠ざけても、どれだけ無視して逃げようとしても。

 決して逃げられずに、常に付き纏ってくる。


 俺は、俺たちは、音楽を好きでいることをやめられない。

 そういう人間だ。


「帰ろう」


 俺は二人に向け、両手を差し出す。


「俺たちの愛した音楽へ、帰ろう」


 まだ、やり直せるはずだから。

 どうせもう、どこに行ったって何をしたって、逃げることなんて出来ないのだから。


 二人はただジッと、俺の手を見つめていた。空虚のようなその瞳に、光がかすかに指した気がした。優しい、柔らかい、そんな光が。


「……森下秋」

「……私たちがまた、音楽を愛せると言うのか」

「愛せるよ」


 即答する。愛せるはずだ。今、この瞬間から。


「……というか、いつツッコもうか迷ってたんだが、俺は森下秋じゃなくて森千秋だ。覚えとけよ」


 俺の言葉に、二人は驚いたように目を見開いてから、呆れたように微笑んだ。そして、俺の手に手を重ねる。


「……私たちは、」

「……お前のことを、ずっと待っていたのかもしれないな」

「「森千秋」」


 俺も小さく笑った。重ねられた手を、両手でしっかり掴む。


「おかえり」





「ッ……キャンディ!! ちょっと、しっかりしなさいよ!! ……キャンディ……!!」


 私──日下部和奏はそう言って必死に彼女の肩を揺さぶった。しかし彼女は薄く呼吸をするばかりで、マシに返事をしてくれない。頭から、鮮血が流れ落ち、私は、焦っていた。

 ……前世の記憶を持ってたって、こんな時何も出来ないんじゃ意味ないじゃない……!!


 何も出来ない自分が悔しくて、私は声を押し殺す。私、ゼンの代わりにこの子を守るって約束したのに。……まだ私、あんたから返事もらってないのよ。ちゃんと、生きなさいよ。このまま私はまた、失わないといけないの……!?


「キャンディ……!!」


 火の手がそこまで迫る。しかし私も怪我をしていて、この場から動けないのだ。どうする、と焦りばかりが募る。その時。



「奏嬢!! キャンディ嬢!!」



 聞き慣れた声が、耳に届いた。


「……勇林さん!? ……に……キャンディの、お兄さん……」


 今はすっかり小柄になってしまった勇林さんが火の隙間を縫って、私たちに駆け寄ってくる。そしてどこから出したのか、救急箱セットでキャンディの傷と私の傷の手当をしていく。私は、混乱していた。……え、何でキャンディのお兄さんの前なのに、勇林さんはすっかりユーリスさん口調なの? そしてキャンディのお兄さんは何も言わないの?


「ユーリスさん、キャンディは僕が背負いますよ。奏ちゃんは……テーピングをすれば一人で充分歩けそうだ。僕が先導します。付いてきてください」

「助かる」


 ハルネスの言葉に勇林さんはそう答えて、ハルネスは私の腕からキャンディを優しく抱き取り、背負う。私の横で勇林さんが私の顔を覗き込んだ。


「……奏嬢、大丈夫か? 私が小さいばかりに、奏嬢を支えることが出来なくて申し訳ない」

「い、いや、大丈夫だけど……勇林さん、いつの間に自分がユーリスさんって明かしたの?」


 私の言葉に、勇林さんは小さく笑う。何かが吹っ切れたような顔だった。


「なぁに。……大事な弟子を守るのに、あいつの力が必要だったまでだ。もはや、前世も今世も関係ない。……大切なものを、守るだけだ」


 さぁ、行くぞ、と勇林さんが私を鼓舞する。私はその言葉に合わせて、何とか立ち上がった。足は痛いけど、歩けないほどじゃない。

 ……勇林さん、私たちのために、自分の事情を後回しにしてくれたんだ。


「……勇林さん」

「何だ?」

「……ありがとう。私たちを助けてくれて」


 私がそう言うと彼は、礼には及ばん、と、さも当たり前のように言うのだった。





「っ……!!」


 私──阿妻息吹は渾身の一撃を放つ。その音色は見事にアダムスキーに当たり、彼は地面に倒れた。


「……さす、が……貴女はとてもお美しく、強、い……」


 そして彼はその言葉を最後に、気絶した。……流石、伊達に「コン・アニマ」のNo.2をやっていませんわね。私でも骨が折れましたわ。

 パチパチ、と、火花が音を立てている。……ここももう、危ないですわ。


 私は倒れる彼に近寄り、その腕を掴んで自分の首に巻く。身長差の問題で彼を引きずる形になるが、それは仕方がない。

 私は何とか、一歩一歩を踏みしめて出口を目指して歩いた。地図、及び火の回り方のパターンは予測できていますわ。後は私の体力が保てば……。


 そして夢中になっていた私は……背後でミシミシと音をたてる柱に、気づかなかった。


「……!!」


 ようやく気づいた頃にはもう遅い。振り返る私と気絶するアダムスキーを目掛け、燃える柱が……。

 もはや避けることも出来ず、私が目を閉じた、その時。



「っ……息吹ーーーーーーーーっっっっ!!!!」



 聴き慣れた声が耳を突き、次の瞬間には、体の横に勢いよく何かがぶつかった。備えることも出来ず、そのダメージが直に体に受ける。地面に叩きつけられた……が、お陰で柱に押しつぶされるのは回避出来た。

 私は、何とか体を起こし、そして。


「海……!! 何で、何でここに……!?」

「っつ……なんか起きたら、『黄金のホール』が火事でヤバいってニュースやってたから……」

「はっ……」


 吉柳海。私の幼馴染が、服についたすすを払いながらそう呟いた。……彼は、私が彼を戦争に巻き込みたくなくて、睡眠薬で眠らせたはずだ。なのに、ここにいる。驚いて、呆れて、嬉しくて、しばらく言葉が出なかった。


「ばっ……馬鹿なんじゃないの!? ニュースを見ただけで来るなんて、生粋の馬鹿ですわね!!」

「そんな馬鹿って連呼すんなよ!! ……だって、仕方ねぇだろ。お前がいるんだから」

「っ……!!」


 顔が赤くなるのがわかる。……私がいるから。それだけの理由で、こんな危ないところに来てくれたの?


「……それで、さっきの変なピアノ、何なんだ? そいつも、フルート使ってたし」

「……それは……」


 ……いつか、話さなければいけないとは思っていたわ。彼には、私の過去、罪を。

 私が口を開きかけると、あ、いいや。と言われる。


「とりあえず、ここから逃げるのが先だな。そいつ貸せよ。俺が背負う」

「……ありがとう」

「でも帰ったら、ちゃんと聞くからな」

「……ええ。聞いてほしい」


 率直な思いを告げると、彼は少しだけ驚いているようだった。しかしすぐに、視線を前に戻す。


「……あ!! 一冬さん、幼馴染見つけました!! 行きましょう!!」


 すると海はそう大声で叫んだ。その声に促されるように前を見ると……そこには、人影が。……森千秋さんの、お父様がいた。……何故ここに? いえ、それを聞くのは、野暮ですかね……。

 一方海は、彼を相手に嬉しそうにニコニコしていた。ずっと憧れている人だから当たり前でしょうけど……こんな時に、締まりのない顔ですわ。


 ……まあ、少しは気が紛れますわね。


 ……。

 ……私はやっぱり、貴方が好きですわよ。


 私は黙って、先を行く海の後へ付いていくのだった。


 ──────────


 炎の中に、声が響いた。



『……私たちは、非常にワガママだった。自らの欲望のために、君たちを利用した。申し訳ない』


『嫌いなやつを消そうと思った。何より、嫌いな音楽をこの世から消そうと思っていた。……しかし、それをやめにしようと思う。こちらから初めておいて勝手だが、君たちもやめにしよう』


『そこにいるのは皆、ただ音楽を愛す同士だ』


『終戦を、ここに宣言する』



『武器を捨て、音楽を手に取ろう。むしろ私たちは、そちらが本分のはずなのだから』


 ──────────


 〜♪


 ──────────

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ