第19話「原初の教え」④
「……お前は、俺のことを助けてくれた。悲しみにくれる俺を、引っ張り上げてくれたんだ。……だから今度は、俺にお前を助けさせてくれ」
「それは……たまたまだよ」
「たまたまでも、だ。……そもそも、お前が言ったんだろ」
「……?」
首を傾げる彼に、俺は言う。
「俺とお前は、前世からの相棒だって」
「……」
「……俺には前世とかねぇから、俺にとっては前世からじゃねぇけど……でも、今世からまた相棒になったっていいと思ってる。そして、相棒は助けるもんだろ?」
それとも、と言って俺は彼の方を笑いながら見つめた。
「お前は俺とじゃ、やっぱごめんか?」
「まさか!! ……本当に、いいの?」
「いいって言ってんだろ。……恥ずかしくなってくるから、これ以上言わせるな……」
俺はそう呟いて目をそらす。すると彼の方から、クスッ、とかすかに笑う声が聞こえた。
「……何だよ、文句あるか」
「ううん。……アキはやっぱり強いなって、思っただけ」
彼は今、森下秋を見ているのか、森千秋を見ているのか、それはわからない。……けど。
「……お前はメンタルが弱いな」
「ひっどい」
「前世は前世だって、割り切って生きればいいだろ」
「そんなん無理に決まってるでしょ!?」
「……まあ、俺は……」
きっと、そんなコイツだから、俺はコイツのことを好きになったんだ。
「俺は……何?」
「……いや、何でもねぇよ」
俺は扉に手を置く。その隣で、彼も指揮棒を拾い、扉に手を置いた。
そして視線を合わせ、同時に、開く。
中はまるで、玉座の間のようだった。
きらびやかで、しかし古びた黄金の装飾。上では様々な戦いが起こっているだろうというのに、全くここではその衝撃を感じさせない。……静かだった。
そして、視線の先には。
「「待っていたよ。ゼン・フロライトに、森下秋」」
二人の男がいた。
二人の容姿はとても似ていて……双子、なのだろうか。
「……ゼン。コイツらが……」
「ああ……うん、そうみたい」
そうみたい? と、俺は首を傾げる。まるで他人事だ。
「……二人いるってことは……たぶん、一人が二人になったんだと思う」
「一人が……二人?」
何言ってんだコイツ、と思ったところで、二人が口を開いた。
「そう、私たちはもともと二人の人間」
「私たちの術により二人に分裂し、生まれ変わった」
同じ容姿、同じ声、同じテンポ。なんだか同じ人間が二人いるようで、気持ち悪い……いや、コイツらによると、本当にもともと同じ人間なのか。
「……そしてこいつ……いや、こいつらが、『コン・アニマ』と『グラーヴェ』のボスだ」
「……え?」
彼の言葉に、俺は振り返る。しかし彼は至って真剣な表情だった。
「あいつは前世では二重人格で、それぞれ一つの人格が一つの組織のトップをしていたんだ。……つまり、一見すれば二つの組織のトップは、同一人物ということになる」
「同一、人物……」
「そしてこいつらは……お互いの存在を消すために、戦争を起こしたんだ」
「「そう」」
彼の言葉に、二人が同時に答える。
「力と力の衝突」
「音楽と音楽の衝突」
「「その先に人が想像もつかないほどの力が生まれる」」
ゾワッ、と、全身の毛が泡立つような感覚がした。気持ち悪い。そんな自分勝手な願いのために……俺たちは、こんな馬鹿げた戦争をしなくちゃいけなかったのか。
……それで、彼が……皆が、どれだけ苦しんだかも知らずに……!!
「私はカイン・ルドテスター。『コン・アニマ』のボスだ」
「私はアベル・メオンター。『グラーヴェ』のボスだ」
「「さあゼン・フロライト。森下秋。私たちと戦い、それを以て消滅しよう」」
二人はニコッ、と笑う。俺たちは、何も返せなかった。ただ目を合わせ、頷き合う。
そして同時に、能力を発動した。
ゴッ!! と盛大な音が響き渡り、部屋を揺らす。俺のピアノを、彼の指揮を以て増強させた。自分たちでやっておいてなんだが、出したこっちがその勢いに飲まれそうだった。……しかし。
「……やっぱ、無傷か……」
彼が小さく呟き、手の甲で冷や汗を拭う。煙の向こう、二人が倒れる様子はなかった。
「……どうなってんだよ」
「……二人には、音を消す能力があるんだ。だからいつまで経っても、俺たちの音が届かない。……俺も前世でそれに苦戦して……ここで、死んだ」
俺は彼を見つめる。しかし彼は、真顔で二人から目を離さなかった。
「「ほうら、返してやる」」
同一の声が二重に響く。俺は反射的に守りの体制を取った……が。
ゴッ!!!! と、先程よりももっと大きな音が返ってきた。
「っ……!?」
意識が刈り取られそうになるところを、慌ててこらえる。彼も頭を何度か横に振って、気を保っているようだった。……何だ、今のは……まるで、俺たちの音をそのまま模倣したような……。
「……しかもあいつら、人の音奪ってそのまま返してくるもんだから、質悪いよね〜……」
「……それはお前もやるだろ……」
「いや、それはそうだけど」
彼は小さくため息をつく。それと同時に、二人がクスクスと笑った。
「ああ、うるさいうるさい。音楽は嫌いだ」
「音楽とは、所詮雑音でしかない」
「「さあ、いざ早く消滅しよう」」
その音楽を蔑んだ言葉に、俺は思わず奥歯を噛みしめる。音楽が、雑音。音楽が、嫌い。……少し前の俺が、思っていたことだ。
「向こうの力は健在みたい。……どうする?」
「……」
俺は黙り、彼の方を見た。
「……あのさ、俺に考えがあるんだが……いいか?」
「もちろん」
彼は笑って頷く。俺は小さく彼に耳打ちした。彼は驚いたように、俺を見つめる。
「それ……出来るの?」
「……わかんねぇけど。……俺にだって出来るだろ」
「……わかった」
彼の返事を聞き、俺たちは二人に向き直る。二人は今もなお、微笑みながら俺たちを見つめていた。
「作戦会議は終わったか?」
「私たちを前に無駄だと思うが」
「……言ってろ」
俺はピアノに指を置く。そして一気に指を動かした。軽やかなメロディーが場を包んでいく。指がつりそうになるが、何とか持ち堪えた。
一方彼は、指揮棒を細かく動かして、俺の音楽を二人に増強した上で向かわせていく。ものすごい衝撃と音が、二人を襲った。
「「何度やっても、同じこと」」
しかしその音は急速に消えていく。俺たちの生み出した音楽が、消えていく。俺は、唇を噛み締め……。
煙が晴れたところで、二人の前に躍り出た。
二人の表情に驚きが浮かぶ。当たり前だ。突然現れたんだからな。
俺は煙に紛れて二人に近寄っていたのだ。今の演奏は、フェイク。本命は……こっちだ。
俺はピアノを出し、一気に弾き始めた。心に浮かんだ音楽を、そのまま。俺の全てを、曝け出すように。
──ポール・デュカス、『魔法使いの弟子』。
これは交響曲スケルツォだが、ピアノでもよく弾かれている。……某テーマパークのネズミが映像になったことで一躍有名になった曲でもある。
俺の全ての、思いを……届ける!!
彼の指揮が俺の音を後押しする。縁の下の力持ち。しかしこう見ると、やはり彼も充分主役だ。
俺たちの音楽が、二人のもとへ……届く。
某 テ ー マ パ ー ク の ネ ズ ミ(※本作品は当時書いたものをなるべくそのまま投稿するよう心がけております)。
エレクトーンでディズニーパレード弾くと本当に楽しんですよ、めちゃくちゃ……。恐らくその思想が滲み出ています。
まあそれは置いておいて。ここまで過去の因縁が絡み合ってめちゃくちゃになっているのに、1人だけ「俺は森千秋だ」の一言で進んでいく千秋、本当につえぇな……と思います。それが彼の強さだし、そんな彼だから主人公なんだろうなと、そう思います。よく書いてるなぁ。
次回最終回です。




